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あいつぐ閉店報道にみる服飾セレクトショップの凋落と生き残り【後編】

 バイヤーの目利きで勝負するセレクトショップという業態が、過当競争や横並び的品ぞろえのせいで踊り場にさしかかっていることは前回述べた。セレクトショップの客を奪っている存在の1つが、全国各地に増えつつあるアウトレットモールだ。売れ残り品や在庫品などを低価格で売るアウトレット店を集めたショッピングタウンだ。日本では約30施設が営業していて、週末には周辺の道路が渋滞を起こすほどのにぎわいを呈している。

 ビームスやユナイテッドアローズなどの有力セレクトショップもアウトレットモールに相次いで進出。結果的に「最新物以外はアウトレットモールで買えばいいや」という消費行動を生み出してしまった。

 ウェブサイトとの競合も厳しくなってきた。スタートトゥデイが運営する「ZOZO RESORT」(http://zozo.jp/)は700近いブランドが参加する巨大ショッピングサイトだ。セレクトショップが本来強みとしてきた「1カ所で楽に買い回れる」というメリットを、実店舗型のセレクトショップ以上に発揮して、ファンを引き寄せている。

 しかも、全国の主なセレクトショップが自ら出店しているので、実質的に「セレクトショップのセレクトショップ」という存在にもなり得ている。セレクトショップ側にすれば、敵に塩を送っているような格好だが、同サイトが誇る集客の魅力には勝てず、出店するしか選択肢がない状態だ。

 百貨店でも新しい動きが始まった。「阪急百貨店メンズ館」が構えた、人気スタイリストやタレントがディレクションするショップは他売り場を圧する売れ行きだ。先行した「伊勢丹メンズ館」はブランドごとの分類をやめ、アイテム別に並べることによって、売り場全体を事実上のセレクトショップに変えた。

 伊勢丹は「解放区」「Re-Style(リ・スタイル)」などの自主編集型売り場を立ち上げ、百貨店内セレクトショップの先鞭を付けたことで知られる。その後、三越も「ニューヨーク・ランウェイ」、高島屋も「STYLE&EDIT(スタイル&エディット)」、松屋銀座も「Rita's Diary(リタズダイアリー)」を立ち上げ、百貨店内セレクトショップは今や当たり前の存在となった。

 だが、ネットショップや百貨店内セレクトショップ、さらに同業同士の競合が激しくなった結果、どのショップも同じかと言えば、必ずしもそうではない。オンリーワンの輝きを放ち続けるショップは今も数多い。

 巨艦店を有楽町と六本木ヒルズに構える「エストネーション」は、「リステア」が去る並木通りに進出する。「バーニーズ ニューヨーク」級の幅広い品ぞろえはワンストップの強みを発揮し、成長を支えている。

 一方、表参道の先鋭的セレクトショップ「ラブレス」のディレクションから、著名バイヤーの吉井雄一氏が離れるというニュースは「ラブレス」ファンをがっかりさせた。吉井氏のエッジィなセレクトには定評があり、海外からスターやセレブがわざわざ足を運ぶほど人気があった。新たなセレクトショップを立ち上げるというニュースもあるので、今後に期待したい。

 こうした厳しい環境が続く中、セレクトショップ側は新業態の開発に余念がない。大手のビームスは9月、東京・代官山に子供用の服や雑貨などを集めた「こどもビームス」の第1号店を開く。この分野では伊勢丹が先に「リ・スタイル ベビー」「リ・スタイル キッズ」で成功している。

 ビームスは丸ノ内に紳士服専門店「ビームスプラス」の第3の路面店を開いてもいる。アメリカントラッドが復活してきたのを受けたタイムリーな出店だ。男女両方をターゲットとするビームスの強みを生かした展開と言える。

 セレクトショップ同士の競争が熱気を帯びて、商品選びの選択肢が広がるのは、買い手にすれば歓迎できる。ただ、むしろ気になるのは、このところのセレクトに「右へならえ」傾向が見えるのと、取り扱いブランドもワンシーズンごとに入れ替わりが激しいことだ。

 顧客のニーズを先取りするのは決して悪いわけではないし、営業戦略上も意味があるが、「他店と同じ品は置かない」といったプライドも失わないでほしい。セレクトショップで買うメリットは、「目利きのバイヤーからの、角度が付いた提案」にあり、「どこにでもあるトレンドルック」ではなかったはずだからだ。流行に目移りしない骨太バイヤーこそが、本当の顧客をつなぎ止めることができる。

 ただし、バイヤーの目利きさえ優れていれば、セレクトショップがファンを増やせるかと言えば、そうではない。素敵な商品の魅力を伝えてくれる熱心なショップスタッフがいなければ、どんなアイテムも顧客に届かない。さらに、その販売員とバイヤーの連携がうまくいかないと、せっかく仕入れた商品もショップで浮いてしまう。

 顧客は人(ショップスタッフ)を通して商品を買う。時としてスタッフの見立てやアドバイスが、購入判断の決め手になることもある。街にあふれるあまたの商品から、その1点を選んで買うという行為には、その接点となる「人」の存在が大きい。

 気持ちよく買い物ができる居心地の良さを演出するには、販売員とバイヤーをコントロールするオーナーのディレクションも不可欠だ。地方都市で中小のセレクトショップが顧客をしっかりつかんで離さないのは、自ら店頭に立ち、顧客との結び付きを太くするオーナーやバイヤーの存在が大きい。

 必ずしもオーナーやバイヤーが自分で毎日、売り場に立つ必要はないが、すべての「体温」を感じ取れないようでは、ショップは輝きを失う。ショップはただのハコではなく、生き物。ネットで服が簡単に購入できる時代だからこそ、なおさら「人」が重要なのだ。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○MediaSabor  2008/07/07
 あいつぐ閉店報道にみる服飾セレクトショップの凋落と生き残り【前編】
http://mediasabor.jp/2008/07/post_429.html


○Business Media 誠:EC最前線インタビュー  2007/12/12
 「ZOZOの2つの強さとは――スタートトゥデイ・前原正宏氏」
 ファッションブランドが集まる、インターネット上の仮想的な“街”という
 コンセプトを打ち出し、他のアパレル系ECサイトとは一線を画すZOZO。
 ZOZOはなぜ、ファッション感度が高い、若いユーザーを惹き付けるのだろうか?
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0712/12/news025.html


○Fashion e-Biz Press  「スタートトゥデイ、流通総額170億円に」2008/05/14
 自社販売と受託販売を合わせた2008年3月期の取扱高は170.9億円という規模で、
 ファッション系EC大手の「マガシーク」と「スタイライフ」の合計金額を上回る
 水準に成長している。
http://fbiz.blog17.fc2.com/blog-entry-34.html

 

 


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