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民間企業が運営:ドイツの男性専用「ドメスティックバイオレンス・シェルター」

<記事概要>

ドイツでは、4条からなる暴力保護法(Gewaltschutzgesetz)が2002年に施行されており、ここでは暴力行為および付きまとい行為がなされた場合、裁判所が必要な処置をとること、被害者が加害者と同居している場合、被害者はその住居明け渡しを加害者に要求することができることなどが定められている。

こうした保護法があるにもかかわらず、家庭内暴力を受けている被害者が男性の場合、世間体のために泣き寝入りしているケースがドイツでも多く見られているそうだ。そんな男性DV被害者にドイツ国内で唯一救いの手を差し伸べてくれる男性専用DVシェルターがブレーメン市近郊にある。

Spiegel Online 2008年7月22日
http://www.spiegel.de/panorama/0,1518,552331,00.html

 

<解説>

日本に比べ、ドメスティックバイオレンスの被害者に男性が多いことは良く知られているドイツであるが、公認されているかといえばそうでもない。2002年に施行された暴力保護法では、DVが認められた場合、被害者が、加害者に対して共同生活の場であった住居からの退去要求ができると記されているが、妻に殴られたと警察に説明することは、男性被害者にとってまだまだ困難であるようだ。

勇気を振り絞って、パートナーの女性を起訴したとしても、世間の興味を引かないこと、そして加害者が女性の場合、罪が軽くみられることから、実際に裁判まで持ち込まれることは殆どない。こうした状況からDV被害者の男性は、いわば二重苦であり、結局は被害者でありながら、家を出て、自ら子供の元を離れざるを得ないケースが目立つ。

2005年に博士論文「パートナーシップにおける女性の暴力」を発表した社会学者バスティアン・シュヴィットハル氏の説では、密接な関係において、女性と男性は、実に同じ確率でパートナーに暴力を振るっているとされている。男性が素手で暴力を加えるのにくらべ、女性は体力的な弱点をカバーするため、武器を使うことが多い。2006年には、ドイツのブランデンブルク州、ヘッセン州、ザールランド州、ベルリン州の州刑事局が、女性による家庭内暴力の疑いがあることを認めており、これら各州における21歳以上の女性加害者の割合は、加害者総数の3.3%、11.6%、20.01%そして22,2%となっている。

ドイツで最初の女性用DVシェルターができたのは1976年と早く、現在ドイツ連邦のあちらこちらに女性用駆け込み寺施設が400箇所以上存在する。これらは国から補助を受けており、社会的にもその存在が公認されているが、男性DV被害者のためのDVシェルターが、国家予算によって援助されているケースはドイツでもまだ見られない。

ブレーメン近郊のオルデンブルク市にあるドイツ唯一の男性専門DVシェルターでは、無料で被害者にサービスを提供しているが、その提供者は国や自治体ではなく、同市内の建設会社である。

3人部屋で生活をしている男性DV被害者が支払うのは、共益・管理費にあたる週70ユーロのみ。ドイツ国内男性被害者の3分の2は、このシェルターのサービスを受け、平均3ヶ月滞在。その後自分の住まいを見つけたり、パートナーとの関係を清算してゆく。常に満杯の同施設では、さらに2箇所のシェルター設立を予定している。これから男性専用DVシェルターが増設されることで、ドイツ国内で男性DV被害者が増加していることが社会問題として取り上げられる日も近いであろう。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○=軟禁状態の家族を救い出すまで=  「逆DVの誤解」 2008/06/11
 「逆DV」というのは、男性被害者がいるという事を端的に理解するには
 便利な言葉です。しかしDVには“被害者・加害者”に“男性・女性”の
 差別は無いわけです。
http://blogs.yahoo.co.jp/chihiro_s_family/43465910.html

 

 


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