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不特定多数の購買行動をアグリゲーションせよ

KNN 神田です。

Googleが、日本でも「ストリートビュー」を開始した。
通りの写真を眺めることができるので、空から俯瞰する地図の領域ではなく、人の目線で確認できる。そういう点では、そこの場に行かずして、どのような現場なのかを擬似的に体験できる。そういう意味では、地図というよりも、「リアルを先読みできる」機能やサービスなのかもしれない。

またGoogleの3D仮想空間「Lively」も登場し、近い将来、バーチャル空間や地図、GPSの連携によるサービスに注目が集まる。しかし、ボクの気になるサービスは「Google
Checkout(日本では未対応)」であった。


■ 普及しないGoogle  Checkout(オンライン決済代行サービス)

Googleのビジネスの中では、Google  Checkoutは、全く話題になっていないが、一度、Googleにクレジットカードと自分の配送先を教えると、Googleと提携している店には、クレジットナンバーや住所を一切教えることなく、Googleが一括で買い物の決済を処理してくれるサービスである。

このビジネスは、ユーザーに対して、2つ、いやおそらく3つのベネフィットを与えてくれている。

まず第一に、ユーザーが購入するたびにクレジットカードナンバーや住所を打たなくてすむこと、第二に、購入する店舗に毎回それらの情報を渡さなくてすむこと。そして、第三は、まだ開始されてはいないが、Google CheckOutを使用すると、大量にGoogleがまとめて購入することによって、コストが安くなる(予測にすぎないが…)という仕組みだ。

しかし、Googleのユーザー視点は、エンドユーザーにとってのベネフィットのみであって、店舗側にとっては、デメリットの方が勝っていた。ユーザーの顔が一切見えず、お客様はすべてGoogleのみでしかなくなるという怖さがあり、米国では、普及に二の足を踏んでしまった。

クレジットカード業界は、店に手数料を負担させてでも、それ以上に顧客の支払いが上がるというビジネスモデルを提供したが、Googleは、顧客を奪われてしまいかねないという警戒感を店側に抱かせてしまったようだ。

そう、短かいながらインターネットビジネスの歴史からは、偉大な失敗からの教訓をいくつも学びとることができる。


■ ネットビジネス失敗の諸相

かつて、ビジネスモデル特許ブームの火付け役であるジェイ・ウォーカー氏率いるプライスラインドットコムの「ウェブハウス・クラブ」や「パーフェクト・ヤードセール」は、スーパーマーケットとユーザー(消費者)の間に「価格差」というメディアを築こうとした。

ウェブハウス・クラブと提携しているスーパーで、ユーザーは、購入希望価格をサイトの個人ページでリクエストして申し込む。その価格差を負担する広告主が現れると購入希望価格で買える仕組みを実施していた。

いつものスーパーで買っている食料品を、値段を指定して購入するのだから、まるでゲーム感覚のようだった。勝つための方法は、そのスーパーの価格よりも、数十円だけ安い価格でベットすることだ…。あまりにも安いといつまでたっても買えない。しばらくすると、広告つきのメールがそのベットした価格で購入できることを教えてくれる。

食料品を逆オークションで購入する仕組みなので、暇なユーザーにとっては安く買えること以外に、値段をベットする行為そのものがエンタテインメントとなった。特に、クーポンを集める主婦層にとっては。

有料の広告媒体を経由せずに、スーパーとユーザーの間に広告を挿入できるビジネスになるはずであった。しかし、実際に実施している店舗に、メールを印刷してもって行くと、ほとんどのレジの店員は、その仕組みの存在を認知しておらず、マネージャーが本社に連絡を取るため、いつも何分間も待たされたことが記憶にある。値引きなのか、リベートなのか、雑損なのか、スーパーのレジでは、お客ごとに商品の値段が違うので、大混乱であった。自分の目の前で同じコーラを自分より数百円安く購入している主婦を見て、いい気持ちの人もいないだろう。

ネット上での広告はアピールできるが、スーパーの現場オペレーションにまでは、影響を与えることができなかった。新しすぎたネットサービスは、店舗のマネージャークラスでも理解されなかったようだ。リアルな店舗オペレーションとの連動は、一足飛びにはいかない。

グーグルの成功は、オーバーチュアの「リスティング広告」のサル真似にあったとボクは思う。そのリスティング広告を生み出したのが、オーバーチュアの前身ゴートゥー・ドットコムを作ったアイデアラボ社のビル・グロスである。その彼のネットサービスも、とてもユニークであったが、10年前ではあまりにもユニーク過ぎたようだ…。

1998年、電力の自由化がカリフォルニアで開始され、電力会社の料金を集団でまとめて支払うと、割安になるサービスが登場した。グロスは、ユーティリティ・ドットコムを起業する。さらに、公共料金の一括払いを代行するサービス、ペイマイビル・ドットコムもサービスインした。

いくつもの公共料金の請求書をペイマイビルの自分の私書箱あてに送りつけるだけで、ペイマイビルから一括で請求されるという便利な仕組みであった。人気は出たが、公共料金の請求書はペイマイビルからしか来なくなり、期日にうっかり支払い忘れても、水道やガス、電気を即日に止められるわけではなかった。これはユーザーにとっては、とっても好都合であった。支払いが遅れても、ライフラインは以前のようには止まらないのである(笑)。

ペイマイビルは、未払い者のライフラインを止めることができるという権利を持っていなかったので、督促しても効果がまったくなく、結果として、投資家から集めた資金を、顧客の電気代金の滞納代金に充ててバーンアウトしてしまった。

教訓として、嫌々支払っている不特定多数の公共料金をまとめても、払わないですむ機会をユーザーに与えてしまうだけ、ということである。

セコイアキャピタルのマイケル・モリッツが投資をしたことで有名となった、グローサリー宅配のウェブバンドットコムは、地域の配送スケジュールを会員に公開し、家の近くに来ている配達時間帯を設定すれば、通常5ドルかかる配送料を無料にするという仕組みを提供した。

地域の宅配が集中することによって、ドライバーや燃料の効率化がはかれ、顧客も指定した時間に家で待ちかまえているので、不在率が減り、留守で商品を持ち帰り、再配送するというような手間はなくなる。しかし、ウェブバンもその仕組みが浸透する前に、ドットコムバブルのバーストとともに消え去ってしまった。

エコブームで石油が高騰する今こそ、このようなサービスが求められる時代であるが、早すぎたのだ。

これらはすべて、「不特定多数の購買行動をアグリゲーションする」ビジネスモデルであった。

紙の伝票処理では非効率であったことを、サーバーで処理することにより、コストを下げ、会員をどれだけ獲得しているかで企業の価値や投資の価値が測られるようになった。その期待値がネットバブルを生んだ。

しかし、現在、ネットビジネスの世界はバブル期と崩壊を体験し、期待値ではなく、実績で効率をあげるフェーズを経由し、生き残ってきている。さらに、ネットと10年ほど過ごしてみて、ネットの使い方や普及率もようやくネット文化として定着してきた。普通の人が普通にネットを楽しむ時代になったからだ。


■ ドットコムバブルから10年を経たネットコミュニティの諸相

10年の時を経た今から見つめると、ようやくこれらのビジネスの土壌が成立し、現実味が伴いはじめた。それだけではなく、ネットのピュアなサービスも生まれ新たなネット文化を生み出している。

ネットバブル後に生まれた「SNS」は、お金や便利さをあまり、生み出しはしなかったが、人々の頭の中にあるぼんやりとした人間関係図を視覚化し、さらにその先にある知人の知人という未知の人間関係も可視化したことが成功の要因である。知人のニュースは、最大のニュースとなり、マスを凌駕するコンテンツとなりはじめたのだ。

さらにMySpaceが登場したことにより、EmbedというAPIを提供するサービスを個人が「勝手アグリゲーション」することにより、新たな価値を生む。ラジオやテレビにとりあげられることのないインディーズのアーティストも、新曲のプロモーションをYouTubeで発表し、ファンが勝手にブログで取り上げ、ヒットのためのマーケティング活動に加わり、アフィリエイトで収益を上げるという、まるで「風が吹いて桶屋がもうかる」的なコミュニティ型ビジネスモデルも成立している。

FacebookがAPIを公開したことにより、それらは、さらに知人のネットワークを核としたアプリケーションが開発され、ゲームからビジネスまで知人をまきこんで、無数のネット上の有名人を生むこととなる。ネット有名人はすでに媒体としての価値も持ち始めている。

日本でも、mixiで有名、ニコ動で有名、ブロガーで有名という、テレビ世代の誰もが知っている有名人ではなく、この限られたフィールドで有名という無数の有名人を生み出している。IT系のセミナー会場などでも、頭角を現した有名人に、次の世代の有名人が群がっている図をよく見かける。

この無数の「ネット有名人」はまさにロングテールの住人である。コミュニティの数だけ、趣味のジャンルの数だけ、有名人は多数存在するようになった。ネット有名人は、ハブ化し、回りを取り囲む人たちの情報も発信しはじめ、全体の状態を明るく照らしはじめた。

ネット有名人は、「マスの有名人」ほどのメディア力はないまでも、コミュニティの特定多数の購買行動においては、マスメディア以上に影響力を持っている。だから、それをわかっている企業は、ブロガーをなんとかしたいと考え始めているのである。むしろ、マスの有名人よりも、企業にとっては価値がある時代になりつつあるだろう。


■ 鍵を握る「不特定多数の購買行動」のアグリゲーション

SNSやブログ、ウェブ2.0群に代表されるように、自分の手元には、データは何も残っていないという、「江戸っ子の宵越しの金」的状態、つまり「クラウド状態」が、いまや一番便利な状況である。

お金はタンス預金では全く利息もつかないが、銀行に預けて社会に使ってもらったほうが、社会のためにも、自分のためにもなるという発想と同じだ。少なくともボクの普通預金の利息よりは、アフィリエイトのほうが、何十倍もの「データの利息」を生みだしてくれる時代になっている。データはクラウドに貯金する時代なのだ。

クラウド・コンピューティングは、iPhoneなどの新世代のユビキタス端末とともに、新たなシナジーを生み出すフェーズへと移り変わってもきている。

今後は「ソーシャル・データ」という資産を、ユビキタスな端末で、GPSや写真・ビデオで共有しはじめると、まさにそれは人類にとって、テレパシーのようなコミュニケーション力へと変化するだろう。

また、不特定多数の購買行動をMicrosoftやGoogleなどの、どこかの一社が牛耳るということはもはや不可能であり、その兆候が見えただけで拒絶反応が出てしまう。

ソーシャル・データは、公開すれば公開するほど、共有資産として、しかるべきところへ流通し、思わぬところから、富の分配のチャンスが巡ってくる。

社会の共有資産として、効率と合理化とそして人々のかゆいところに手の届くサービスとして、リアルな店舗やサービス、仮想空間を生かして、「不特定多数の購買行動」をどのようにアグリゲーションするかに次のネットビジネスのカギがあるように思う。

 

 


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