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不景気なのに人気が高いサンフランシスコの分譲マンション

  • 米国在住ジャーナリスト

(記事概要)

 サンフランシスコ地区の新築分譲マンションの販売がここ数カ月で堅調な動きを見せ、同時に注目度の高いプロジェクトも着実に進行している。平均すると売り手は月間4件の物件を販売。この数値はかつて不動産物件ブームが訪れたときの半分に過ぎないが、ある不動産調査会社の社長は「一定の速度で販売が動いているし、(物件)売買は全体的に見て増えてきている。人々が買いに走っていることは確かだ」と話す。

 最近出された資料を見ると、この社長の言い分に説得力を感じることができる。データクイック・インフォメーション・システムズによると、サンフランシスコ地区の新築物件の販売実績は(ほとんどが分譲マンションだが)、2007年6月から2008年6月にかけて18.7%伸びている。ただし、売れた物件の中間価格は39万9000ドルで、同期間中に32.5%下落している。不動産関係者の分析はこうだ。「市場の中で最良を尽くそうとするデベロッパーたちは、ほとんど割り切った価格と最高の値引きを提示する傾向がある」。

 同地区で2006年6月から販売が始まっている2つの大きな宅地開発プロジェクトは、不動産部門の景気を観測するバロメーターになる。それによると最初に建てられた365戸のうち225戸以上はエスクローの仲介作業を終え、残りの物件の半分以上も契約段階に入っているという。

 プロジェクトに関わるデベロッパー会社で働く役員の一人は「サンフランシスコという良いロケーションで良いプロジェクトができて幸運」と話す。「サンフランシスコの経済基盤は(シリコンバレーをバックに控えた)テクノロジービジネスが依然として良好で、北カリフォルニアのなかで雇用の増加を見ている」。このプロジェクトが行われている地区での物件の販売実績は平均して月間50戸に上るなど、同市の記録的な数値をたたき出している。

 サンフランシスコ市の北東部にあるベイブリッジ近くにそびえ立つ64階建ての分譲マンション「ワン・リンカーン・ヒル」は、最初の分譲376戸のうち192戸がすでに売れた。残りのほとんども契約段階に入り、月間40戸のペースで売れている。

 市内中心部にある「ザ・ミレニアム・タワー」は419戸がまだ売れ残っているが、昨年11月以来、月間9戸のペースで売れ続け、すでに8割以上の物件が契約を終えた。ここ4週間の動きは特に活発。「7月4日の独立記念日以降、関心があり熱心なすべての買い手は主役から外れ、いまや契約段階に突入している」と関係者は話す。(サンフランシスコ・クロニカル 8月8日付)


(解説)

 サブプライム問題に端を発するフォークロージャー物件の増加や、それをきっかけとした自治体破産など、不動産不況が米国景気減退の原因となっている話は山ほど聞く。だが、良い話はここしばらく聞いたことがない。なので、この記事を目にしたときにはオヤッと思った。不動産が売れている。しかも、密集都市で物件価格のバカ高いサンフランシスコ市で。

 記事によると全体で35カ所の分譲マンションのプロジェクトが進行中で、うち15カ所が年末までに完売予定とされ、あと5カ所は2009年3月までに完売が見込まれるという。残りの15カ所は現在建築中で、2009年に売り出しが始まる予定だ。

 それにしても誰が買うのだろうか。サンフランシスコ湾の縁に聳えたつ64階建てマンションのワン・リンカーン・ヒルの場合、1ベットルームから3ベットルームまでの間取りで価格は70万ドル(約7560万円)から300万ドル以上(約3億2400万円)。いくらサンフランシスコを中心としたSFベイエリアが全米有数の高額所得地域だといっても、庶民が簡単に買えるような金額ではない。もっともこの地域には、弁護士、ベンチャー・キャピタリスト、IT長者などミリオネアーがワンサカいる。こういう人の中には刺激の多いサンフランシスコ市内に住みたい人も多いから、不動産物件の需給関係もバランスが成り立つのかもしれない。

 ただ、景気の良い話は全ての分譲マンションに当てはまるわけではないらしい。同じ市内でもちょっと場所を外すと、月間平均販売物件が1件以下と散々なところもある。これらの地区では、サブプライムとフォークロージャーの影響をまともに受けている。道を1本隔てただけで雰囲気がガラリと変わることも珍しくないアメリカの大都市らしい現象だ。

 私の住む場所はサンフランスシスコの対岸で、環境の良さを売り物に同市のベッドタウンともなっている。プール、ジム、テニスコートなどが併設された2階建ての分譲マンションが海辺にズラッと並ぶ区域だが、たまたま向かいのマンションがオークションを開催するのを知り、説明を聞きに行った。「インベントリー・クローズアウト」。日本語で見切りバーゲンセールとでも説明するのがいいか。40戸を一気に開放するらしい。ここはサンフランシスコではないが、こういう思い切ったセールも物件販売増加の裏にはあるのかも知れない。

 リストを見たが、1ベットルーム、もしくは2ベットルームの最低価格が14万ドルから。競売なのでいくらで落札するかわからないが、住宅事情が悪化する最近までは30─40万ドルが相場だったことを考えると、かなり安い感じがする。記事中で「デベロッパーは割り切って最高の値引きを提示する」とあったが、このリストを見てなるほどと納得した。

 

 


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