Entry

インドの金銀宝飾関連ビジネスが好調な社会背景

インド人は、金や銀などの宝飾品や装飾品、宝石類がことのほか大好きな人々である。庶民派マーケットに行っても、最新式のショッピングモールに行っても、日本の感覚からすると「こんなにたくさん店があって、本当にそれぞれ商売になってるの??」と疑問に思うくらいの、ジュエリーショップや金銀の装飾品の店がある。

田舎の、百年前からあまり変わっていないかと思われるような超ローカルなマーケットにすら、いや、むしろそういう場所の方が、やたらたくさんの宝石・ジュエリーショップがある。テレビのCMや映画の合間に入るCM、雑誌・新聞の広告、街角やバススタンドの広告などにも、ジュエリーブランドや宝石ショップの宣伝が溢れている。

ヒンドゥー教の神々たちは、体中を所狭しと宝石で着飾っており、素肌が半分くらいしか見えないほどだ。インド人女性の結婚時の着飾り方や、古典舞踊のダンサーたちも、顔や体中の、巻いたり引っ掛けたり出来る部分には、余すところなくすべて装飾品を施す感じである。眉毛まで金や宝石でフチどったり、イヤリングだけでは事足りず、イヤリング本体から出た金の鎖を耳にひっかけ、髪の生え際や分け目まで宝石でなぞり、鼻輪からもやはり金の鎖が出ており、それが頭の飾りへと繋がっていたりする。ネックレスも、ネックレスというよりは「胸飾り」とでもいったほうがいいような豪華絢爛さで、それはそれはまばゆい。

晴れ着ではなく普段の日でも、女性達はやたらと装飾品を身につけている。サリーやサルワール・カミーズ(サリー同様に、もっともよく着られる民族衣装)に合わせて手首につける「チューリー」と言われる何重もの腕輪は、持っているサリーの色だけ持っていなければいけないらしく、普通は何十色も持っているそうだ。その他、「パーヤル」といわれるアンクレットや結婚した女性が必ず身につける「マンガル・スートラ」というネックレス、指には平均3から4個の指輪などを常に身につけており、何も身に着けていない女性などまずお目にかかれない。

インドでは、結婚するときに新婦が新郎の家に「ダウリー」と言われる持参金を持っていく風習が根強いが、その時に必ず、一式の装飾品も持っていくのだ。それらは、少し前までは(現在でも下層の人々の間では)、嫁いだ後の女性の唯一の財産であったため、父親の年収に匹敵するような額になることもしばしばだったそうである。現在でも、婚礼時に持っていく一式の装飾品の値段は、腰を抜かすような値段であることが多い。映画などを見ていても、婚礼の用意等のシーンで、必ずといっていいほど、この装飾品が登場する。

現在でも貧しい農村部の女性達にとっては、嫁入りの時に持ってきた装飾品が唯一の財産であることが多い。こういった貧しい農村部では、いまだに財産を金銀宝石の形で隠し持つ感覚が根強いのだそうだ。インド最貧州(識字率も最悪)のビハール州でボランティア的な仕事をするインド人の友人も、「彼らが見た目と同じレベルで本当に貧しいかどうかは微妙で、家に帰ればそうとうな金銀を保管している場合も多い。なぜこの州がここまで貧しいと言われるかと言うと、貧しい層がお金ではなく金銀で財産を隠し持っているからだ」とボヤいていたこともある。

また、インドでは男性が宝石を身につけることも普通だ。おしゃれとは程遠いと思われるおじさんたちが決まって、指に宝石をはめているのだが、もちろんおしゃれのためではない。インドでは、占星術に基づいて、自分に合った石を身につけることが、老若男女問わずに一般的なことだからである。結果、インドでは宝石は何も、ジュエリーショップだけにあるのではない。宗教施設や、そこに併設された占星術関係の店にも、宝石ショップがよくあるのだ。

実際、インド国内の宝石・宝飾マーケットは、100億ドルを超える規模だそうで、それは世界の宝石・宝飾マーケットの4%を占めている。また、金銀宝石の輸出額も05年にはすでに160億ドル弱で、インドの輸出総額の18%を越えており、繊維製品に次ぐインドの輸出品目なのだそうだ。輸出額は、あと数年以内に250億ドルを超えると予想されている。また、インドは宝飾ビジネスの伝統による高いスキル(研磨やカッティングなど)と、低コストの労働力があるため、世界で最大のダイヤモンドの加工拠点となっていて、価格シェアが80%、数量シェアが85%、個数シェアで92%を占めているというデータもある。

消費の面でも、ゴールドについては世界一(世界消費の2割)を占めており、加工済みダイヤモンドでは、アメリカ、日本に次いで世界第3位となっている。先日のニュースに「アメリカの世界最大のオンライン市場、eBayのインド版サービスでは1分に1つの割合で商品が売れている」というのがあったが、一番売れているのはジュエリーだそうで、なんと7分に一個のスピードでジュエリーが売れているとのことだ。

外国企業もインドの宝飾マーケットには興味津々で、ティファニー、カルティエ、ゼイルス、ハリー・ウィンストンといった宝石ブランドがインドの宝飾マーケットへ進出して来ているとのこと。インドの宝飾関連企業の海外進出もめざましく、インドのジュエリーはアメリカ、イギリス、UAE、香港、ベルギー、イスラエル、日本、タイ、シンガポール、韓国等の市場に着々と流れ出ているようだ。

インドの金銀宝飾産業は、文字通り、燦然と輝いている。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○時計・宝飾マイスター 「宝石業界・激震」 2008/04/17
 ここ数ヶ月の宝飾業界をみるに、まさに激震が走っている状況である。
 直近では、一昨日、宝飾業界では数少ない東証2部上場の「ベリテ」が、
 インド資本の「ディジコ・グループ」に友好的TOBで買収されたことである。
http://blog.livedoor.jp/peaceman08/archives/64917906.html

 

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/796