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購入最低年齢が16歳から18歳に。デンマーク・タバコ事情

今年の9月1日より、デンマークではタバコに関する新しい法律が施行され、購入最低年齢が16歳から18歳に引き上げられた。日本のような自動販売機がないこの国では、もっぱらキオスクやスーパーマーケット、ガソリンスタンドでタバコを買うのが一般的。これまで、どう見ても16歳には見えないような子どももタバコを平然と買い、店の外で堂々と一服しているのを何度も見かけたが、こうした光景は減っていくのだろうか?

6年前にデンマークに移り住んだ後、最もショックを受けたことのひとつがこちらの人たちの喫煙習慣であった。特に、デンマーク人が大好きなパーティーはくせ者で、招待されるとうれしい反面、非喫煙家の私の心の中には不安な気持ちもよぎる。午後1時頃から始まるパーティーの参加者は子供を除き、95%は愛煙家なのでは、と思うほどの高喫煙率。

ウェルカムドリンクを飲みながら一服、前菜を頂き、その後は大抵「タバコ休憩」が入り、談笑しながらみんなが一斉にタバコをふかす。うっすらと煙った中で主食、デザートを食べ、その後のコーヒー、食後酒の段階までくると、もう部屋中真っ白、もくもく状態である。夏なら、ガーデンパーティーのことも多く、愛煙家と会話を弾ませつつ、新鮮な空気を吸い続けることもできるけれど、真冬のパーティーとなるとそうはいかない。外は午後4時過ぎには暗くなり、気温も氷点下だったりして、頻繁に外に出るには少し勇気がいる。この状況は妊婦がいても、子供たちがいてもほとんど同じだ(タバコを吸う妊婦もいまだに多い)。真夜中を過ぎても延々続く宴の中、煙にむせび、涙が止まらず、楽しいはずのパーティーもいつの間にか「早く家に帰りたい」苦行となることもしばしばだった。

ところが、昨年8月からは、デンマークでも学校やオフィス、レストランや40平方メートル以上のバー内など、公共の場所での喫煙が禁止された。その途端に、レストランの外でたくさんの大人がタバコを吸いながら談笑し、店内にいるのは子供(と私のような少数派の非喫煙家)だけ、という奇妙な光景をあちこちで目にするようになった。公共の場所での禁煙で、やっと非喫煙家の権利も認められたのはいいことだが、日常的に行われているホームパーティーでの喫煙は相変わらず個人に任されており、「分煙」になるか否かはその日の主(ホスト)次第である。

最近になって、デンマークを代表する人気シンガー4人が、「黄色い爪」というグループを名乗り、愛煙家としてこうしたタバコ規制に対して反対運動を展開している。「煙草を吸う、酒を飲む、といった、リスクはあれど、その人なりの人生の楽しみ方を選ぶという人には、そうする権利を与えるべき。話し合ってきっちり分煙すれば済むこと」「健康がどうのと言うなら、オリンピック選手だってある意味不健康じゃないのか」というのが彼らの主張。「過度な規制」ではなく「どちらも共存できる社会」を望んでいるという。

デンマーク政府がタバコ対策に乗り出したのは、時代の流れという以外にも理由がある。最近の調査によると、喫煙が原因で年間約1万4千人が死亡し、さらに2000人が受動喫煙の影響で死亡しているという。その上、喫煙の影響で医者にかかったり、そのせいで病気休暇を取ったりする人はさらにその数を上回るーつまり、デンマークの社会経済にとって、喫煙は大きな負担となっているのである。

「黄色い爪」はスポーツ選手の不健康を指摘するけれど、彼らのせいで他の誰かが受動的にからだを蝕むことはない。それに、「黄色い爪」の人たちがひとたび病に倒れれば、結局は私たちの税金で面倒を見なければならない。医療費タダの高福祉社会デンマークにあって、喫煙は完全に個人の自由、誰にも迷惑はかけないぜ、と言い切れない理由はここにある。

タバコの購入最低年齢が18歳に引き上げられても、これまでと同様に購入の際、身分証明書の提示が求められることは稀で、若者の喫煙環境に劇的な変化が起こるとは考えにくい。強いて言えば、14、5の子供たちがタバコを買うのに少し敷居が高く感じられるくらいのものだろう。逆に、こうした人気シンガーの言動が、ティーンエージャーにも相当な影響力を及ぼしているのかと思ったが、彼らは意外にも冷静だ。

地元の新聞、Folketidende(www.folketidende.dk) にこの話題に関する記事が掲載されている。写真付き名前入りのインタビューに答えているのは15、6歳(日本ならまずありえない!)で、喫煙歴は1から1年半。購入最低年齢の引き上げは、タバコをやめるきっかけにはならないが、一番効果的なのは、おそらくタバコの値上がりだろうと回答している。現在は、一箱20本入りで30デンマーク・クローネ(DKK…約615円)ほどだが、近々10DKKほど値上がりするという噂もあり、そうなれば、ばからしくなってやめるだろうとのこと。それから、自身を含め、タバコをやめたいと思っている友だちも多いので、仲間同士で約束しあうことが不可欠だと考えているようだ。

まだ発育している時期からタバコを吸い始め、その後何十年という人生をタバコに依存して生きていくなど、身体への悪影響のほどは計り知れない。最近はオーガニック・タバコも売られているが、ほんの気休めに過ぎない。こうした若い世代をタバコから遠ざけるには、親がタバコを吸わない、今吸っている人はきっぱりやめることで子供に身をもって示すことも大切だ。特にデンマークの親たちは子供にせがまれ、自分のタバコを与えて一緒に吸ってしまう傾向があるが、そこからまず毅然とした態度で断ち切ることが必要だろう。

 

 


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