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2011年までにワンセグはどのくらい普及するだろうか。そのときテレビは・・・

2011年に地上アナログ放送から地上デジタル放送へ完全移行するという話は、あちこちでいろいろいわれながらも、粛々と進められている。2008年2月に総務省が行った調査によると、地上デジタル放送対応機器の世帯普及率は前年の27.8%から43.7%に上がったとか
(参考:http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080509/soumu.htm)。今年は北京オリンピックがあって買い替えが進んだから、その後さらに上がっているだろう。

とはいえ実際の移行まであと3年。推進する側はだんだん焦り始めているらしい。アナログ放送の画面に告知テロップを入れ始めたり、あちこちで広告したりと躍起になっている。何せ、地デジ放送を見るためには、対応機器を買うだけじゃなく、アンテナの調整も必要だから、それなりのコストがかかるし、作業の手間だって必要になる。直前になったらある程度の混乱は避けられまい。

ただ、ちょっと待て。この一連の話は、地デジの重要な一部であるはずのワンセグのことがすっぽり抜け落ちているではないか。


念のため書いておくが、ワンセグは地デジの一種だ。1チャンネルが13のセグメントに分けられた中で、小画面端末向けに1セグメントを使って放送しているからワンセグと呼ばれる。2006年4月に放送開始した。独自内容の放送を行っている部分もあるが、少なくとも今のところ、大半は一般の地デジと同じ内容になっている。

今使われている典型的なワンセグ端末は携帯電話だろう。今では通勤電車などの中でも、携帯電話でワンセグ放送を見ている人を見かけることは珍しくなくなってきたが、最近見かけて驚いたのは、ここのところ売られている携帯電話端末の大部分がすでにワンセグ機能付きになっていることだ。

社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)調べによると、2008年7月時点では、すでに国内で出荷された携帯電話の80%がワンセグ機能付きとなっている。2007年4月時点では27%であったことを考えれば、その変化のすさまじい勢いがわかるだろう。累計出荷台数も39,714千台と、すでに4千万台になろうとしている。推移を以下に示す。

  年月      ワンセグ比率
2007年4月           27%
2007年5月           21%
2007年6月           30%
2007年7月           37%
2007年8月           37%
2007年9月           32%
2007年10月     34%
2007年11月     64%
2007年12月     55%
2008年1月           63%
2008年2月           62%
2008年3月           64%
2008年4月           66%
2008年5月           65%
2008年6月           74%
2008年7月           80%

※JEITA調べ。



経済社会総合研究所が行っている消費動向調査の平成20年3月実施調査結果(http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/2008/0803shouhi.html)をみると、携帯電話の平均買い替え年数は2.9年となっている。この年数はだんだん長くなる傾向にあるが、それでも3年前後だ。2011年まであと3年。しかも携帯電話の熱心なユーザーである若年層の人々は、こうした機器を取り入れるのも早い。その時点では、日本国内で使われている携帯電話のかなりの部分がワンセグ機能付きになっているだろうことは想像できる。

2002年 2.0年
2003年 2.2年
2004年 2.4年
2005年 2.3年
2006年 2.6年
2007年 2.7年
2008年 2.9年


また、携帯電話以外にも、ワンセグ放送受信に使えるものはある。パソコンに挿して使うUSBタイプのもの、ニンテンドーDSやソニーPSPなどの携帯ゲーム機向けのカートリッジなどであれば、ほんの数千円で買える。つまり、2011年時点では、一般的な地デジ受信設備がどうかはともかく、ワンセグ端末に関しては、もちろん世代等の点で偏りはあるにせよ、日本中にかなり広範に普及した状況になっているであろうと予測できるわけだ。

とすると、アナログ放送停止の際、一般的な地デジ端末ではなく、ワンセグ端末を選択する人というのが、少なくとも一部には出てくるのではないかと想像することもできよう。もちろんワンセグ放送の画質は一般的な地デジ放送のそれと比べて圧倒的に低いし、アンテナの性能によっては受信自体が難しいところもある。完全な代替にはならないし、第一消費者がワンセグの画質では満足できないだろう、と考えるのが自然ではある。しかし一方で、大半のテレビ番組はこの程度の画質で充分じゃないか、とも思えるのだ。

なにより私たちは、iPodや携帯電話、それに携帯ゲーム機などによって、小画面で動画を見るという習慣になじみつつある。かつてウォークマンが「外出中に音楽を聴く」という習慣を創造したのと同じように、それら携帯動画端末の普及が新たな習慣を生み出すのではないか。個人的にこれを
「小画面革命(http://www.h-yamaguchi.net/2006/09/post_8489.html)」と呼んでいるが、ひょっとすると、アナログテレビ放送の停止がこの動きを促進する方向に働くかもしれない。

ワンセグ携帯電話の急速な普及のようすで思い出すことがある。カメラ付き携帯電話は、2002年から2003年にかけて急速に普及していった。国内で販売された携帯電話のうちカメラ付きの機種の比率は、2002年には約4割だったものが2003年には約8割まで上昇している。思い出すのは、これに伴い、それまで急成長を続けてきたデジタルカメラの国内出荷が、2004年に入って一転して停滞してしまったことだ(ここ数年は復活し成長基調にある)。携帯電話に付いていたカメラは、どんどん優れた機能のものが出てきていたにせよ、「専用」であるデジタルカメラと比べれば、やはり見劣りがした。しかし写真というものにカジュアルに接する消費者にとっては、その差は大きな意味を持たなかったのだろう。「これで充分」というわけだ。さらにいえば、この間に、「カメラ」なるものが「何か用があったら持って行くもの」から「常時持ち歩くもの」に変化したことの影響が大きいだろう


参考1(http://k-tai.ascii24.com/k-tai/news/2003/04/22/643201-000.html
参考2(http://workshopsuzuka.blog.so-net.ne.jp/2005-12-06-1
参考3(http://www.cipa.jp/data/index.html


技術の変化が企業を動かし、やがて人の認識や考えを変えていくことがある。そしてそうした変化は、しばしば思ったより早く起きる。もちろん必ず起きるというわけではない。今回はどうだろうか。関心をもって見ている。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○Thirのノート  「ワンセグって案外バカに出来ない……。」 2008/07/26
 全ての端末が「ポータブル統合情報ビュワー」を目指している今、様々な端末が
 ワンセグを搭載していく様子をバカにすることは出来ない、と私は感じます。
 テレビのコンテンツは、その場でじっくりと鑑賞するものにもなるし、話の種に
 するといった二次利用や「ながら見」「暇つぶし」のための存在にもなります。
 今、テレビ番組が盛んに否定されているのはあくまでも前者としてのコンテンツ
 であって、後者としてのコンテンツは否定されていない。それは、ニコニコ動画や
 YouTubeで、依然として放送用コンテンツが人気を得ている現状から言えることです。
http://d.hatena.ne.jp/thir/20080726/p1


○ nozomu.net  2007/02/19
 「アナログ放送停止で発生する大量の地デジ難民」
 特に若い世帯はもうテレビを見ない、ネットでかまわない、この際そんな負担を
 強いるテレビは見捨てよう、というかYouTubeで十分、ということに
 なるのではないか、と思います。こうした物言わぬ若き生活者が数千万いる
 わけですが、彼らを失うことは産業の未来の多くを失うことでもあります。
http://www.nozomu.net/journal/000228.php


○サンロフトの本とテレビの部屋 2007/08/23
 『2011年、メディア再編 地デジでテレビはどう変わるのか』アスキー新書
 テレビが滅びのスパイラルに落ち込んでしまった今、我々視聴者(ユーザー)
 に出来ることは何もない。あるとすれば、テレビ以外の娯楽を
 探しておくことだけだ。
http://ameblo.jp/kagra/entry-10044381906.html


○ゲームミュージックなブログ 2008/07/23
 「携帯ゲームのワンセグチューナーで受信料が取られることになるのか」
 現在のところ、ワンセグやPC、携帯ゲームからそれをとろうという動きは
 あまりありません。ただ、このところ受信料の問題も叫ばれている中、
 この先それがないとは限らないのですよね。
http://gamemusic.blog50.fc2.com/blog-entry-693.html


○CNET  2008/07/01
 ワンセグ見ながらアバターでチャット--ジーモード「おしゃべりテレビ」
 動画にコメントを付けてユーザー同士で盛り上がれるサービスとしては
 ニワンゴの「ニコニコ動画」が人気を博しているが、「リアルタイムの
 放送をどう楽しめるか、という点に絞った。チャットサービスの場合、
 話す内容が思いつかないと苦労するが、テレビ放送があることで気軽に、
 テレビを見ながら会話ができる」(椿原氏)とした。
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20376307,00.htm


○CNET  2008/02/06
 「モバイル動画に関する調査--MyTubeモバイルに迫るニコ動モバイル」
 視聴ジャンルについて以前の調査結果と比較すると、「音楽」や
 「自分や知人が撮った動画」など、多くのジャンルにおいては視聴率が
 高まっている一方で、「スポーツ」や「アイドル・グラビア」など、
 ポイントを下げたジャンルもあった。
http://japan.cnet.com/research/column/webreport/story/0,3800075674,20366638,00.htm


○ITmedia News  2008/06/06
 CLANNAD仕様のワンセグチューナー 「渚と一緒にながら見できます」
 「CLANNAD」の世界観を再現したワンセグチューナーを、アイ・オーが発売。
 パッケージや再生ソフトにキャラクターイラストをあしらった。
 「キャラクターとともにPCをしながらテレビを見るという、新しいながら見
 スタイルをCLANNADファンに提案する」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0806/06/news077.html

 

 

 


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