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「もっと稼ぐためにもっと働こう!」というサルコジ政権のスローガンと労働者の抵抗

 週35時間労働法の改革をよぎなくされているフランスの労働市場。サルコジ政権は、社会党が2000年に導入したこの政策を、今後どうやって改良させていくべきか、頭を悩ませている。

 フランスは、バカンス大国として世界に名を馳せている。1936年に国民戦線党が政府から勝ち取り、現在は最低5週間にもなった有給制度は、日本はもちろん、アメリカやイギリスで働く人間にとっても羨望のまと。夏休み真っ盛りの8月は、パリの街がガラガラになるくらい、大多数が行楽にでかける。

 他国と比較して、よく話題になるのが「生活の質Qaualité de Vie」。給料だけでなく、私生活をどれだけ充実したものにするかが、ものさしだ。フランスでは、仕事と私生活のバランスがとれている。平均給料は、アメリカやイギリスと比べ低いが、労働時間、休暇の長さ、食事の美味しさ(とその対価)、家族と過ごす時間などの要素が、他の欧米諸国の人をも羨ましがらせ、生活の質が高いと言わしめるのだ。

 大企業の管理職のビジネスマンであっても、残業は夜8時くらいまで、週末には、田舎の別荘にでかけ、シンプルだけど新鮮な食材を使った料理を楽しむ。夏休みは山や海辺で、たっぷり3週間、クリスマス時期に2週間くらい休み、子どもが生まれれば、最大11日間の育児休暇を取得する父親も急増中。

 実は、こんな羨やましい労働環境は、週35時間制の賜物とも言えるのだ。今までは、日本の高度成長期のように、ビジネスマンは、長時間働いていた。休暇はまとめて長く取るが、一日の労働時間は長かった。それが、工場で働く労働者と違い、管理職のビジネスマンは、35時間制のもと、RTT(直訳すると労働時間短縮。振替休日のこと)のおかげで、今までキャリアまっしぐらだったビジネスマン達も、やっと家族を顧みる余裕ができてきた。子どもの学校が休みの水曜日に、振替休暇をとって、子どもと過ごす時間を増やしたり、週末に振替休日をくっつけて3日から4日間の小旅行にでかけたりする。

 それが、サルコジ政権の改革でどう変わって行くか。労働者達には「もっと稼ぐためにもっと働こう!」というスローガンのもとに規定時間以上の残業を推進中。管理職の人間は、残業時間が増えても給料は変わらない。そのため、7月23日に、労働時間短縮(つまり振替休日RTT)は、各会社が従業員と個々に交渉できるという法案が国会に提出された。管理職の労働組合は、既得権保護のために反発、デモを行った。振替休日のおかげで、長い休暇中だけでなく、通常時に、家族で過ごす時間を増やしたり、週末のパリ脱出というスタイルができあがったのが、改革で変わっていくかもしれない、と恐れている。

 階級社会のフランスでは、管理職と一般の労働者の給料に大きな開きがある。給料が高い管理職のビジネスマン達が、増えた余暇に対して、前よりもお金をかけるようになったので、経済が活性化されたともいわれている。これから、今までの休暇日数より少なくなる改革が行われれば、低下したフランス国内の購買力が更に低下する可能性大だ。経済改革を進めようとするサルコジ政権にとって、皮肉な結果になるかもしれない。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○MediaSabor  2008/08/14
 「フランス労働法改革の是非。海外に労働市場を奪われ、国内でも待遇格差拡大」
http://mediasabor.jp/2008/08/post_456.html


○Business Media 誠  2008/08/27
 「日本人は“空気”を読み過ぎ?――有給休暇を消化できない理由」
 エクスペディアの調査によると、有給休暇をすべて消化しているのはドイツが
 最も多く81%だったが、日本は13%で断トツに低い結果に。欧米に比べ
 “働き過ぎ”の実態が浮き彫りになったが、なぜ日本人は有給休暇を消化
 できないのだろうか?
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0808/27/news042.html

 

 


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