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「島」の発信力

  • 株式会社ジャパンライフデザインシステムズ 代表取締役社長 
  • 谷口 正和

■島からなる島国、日本
  
 島には基本的に独自な文化や動植物が生まれる。それは島が四方海で囲まれていて、文化的な交流や生物的な混交がなかったからだといえる。世界的に有名なガラパゴス諸島も、孤立した島ゆえにあのような独自な進化をなしたのだといえよう。

 このことは日本という国にぴたりと当てはまる。日本には海岸線100メートル以上の島が6852島あるという。南は沖縄の先から北は北海道の周辺まで、日本はまさに「島々の国」なのだ。その島々が集まって、ひとつの「島国」になっているのが日本である。

 しかもその位置するところはファーイースト、“東洋の果て”、大陸からの文化や生物が渡ってきてその先なし。日本は“磯の吹き寄せ”国家なのだ。日本には独自の文化が育つ環境的な土壌があるといえよう。


■文明から文化へ
 
 日本も世界を追い続けてきて戦後60年余、長く見れば明治維新以来の150年弱。それなりにG8の一員となるまでになった。

 しかしその反面、失ったものはあまりにも大きい。失ったもの、それは日本文化である。文化とは自分の内側に目を向けなければ醸成しないものだ。外側に目を向けて手に入れられるものが文明、内側への目線を持たなければ手に入らないものが文化と言ってもいい。時代は文明から文化へのパラダイムシフトを遂げようとしているのだ。

 文明が世界の共通項を築き上げて一体化していくのもだとするなら、文化はその国、その土地の独自を強調していくものである。時代はまさに文化と独自の交換の時代に入ったのだ。

 文明の世界化は紛争や軋轢を招く。文化の共生をどう果たしていくかが、21世紀の大きな課題だろう。一元価値世界から、多元価値世界への転換である。21世紀のリーダーは、多元価値リーダーであることが必須の条件となるだろう。この視点でオバマ対前委員の米大統領選挙を見てみると、自ずから答えは見えているといえる。


■“楽習”型の旅

 21世紀は大観光社会といわれるが、その観光も20世紀の周覧型、物見遊山型ではなく、その土地の文化を深く知り、学んでいこうという“楽習”姿勢のテーマ型になってきている。

「レジャー白書2007」によれば、ニューツーリズムは以下の7つになるという。


1.長期滞在型観光

2.エコツーリズム

3.グリーンツーリズム

4.文化観光

5.産業観光

6.ヘルスツーリズム

7.都市と農村漁村の共生

である。いずれも“楽習”型の旅であることが分かる。

 最近雑誌やテレビなどでも、島が取り上げられるケースが多くなったが、島は上記のニューツーリズムのいずれにも合致していることが分かる。

 一例を挙げてみれば、五島列島の小値賀島の「民泊」がある。「民泊」とは、地元の家にそのままお泊まりすること。NPOおぢかアイランドツーリズム協会が立ち上げた新しい観光ムーブメントだ。約50軒の一般家庭が「民泊」として登録していて、「ももちゃんち」「ぶうさん家(ち)」など名前も民泊らしい。宿泊客は地元家庭の夕ご飯にそのまま参加する感じである。豊富な地魚、野菜、素朴な人情を満喫できる。夕方の釣りもできる基本コースは1泊2食付で6300円(2人以上参加)。オプションで3時間程度の農漁業体験も用意されている(2100円)(旅10月号)。


■都市の中の島々
 
 この「島」という概念を都市に当てはめてみれば、テーマを統一して「島的な」集約を果たしている業態がヒットしているのが分かる。

 東京の飲み屋集積地は個性的な「島々」だ。

 副都心線が開通し、新ビルなどが完成している「新宿3丁目」は立ち呑み酒場が特徴。しゃれたたち呑み屋が増えたことによって、女性客の比率が上がっているという。

 ますます集客力が高まっているのはご存じ「新橋2・3丁目」だ。ここで増えているのはヘルシーな「焼豚」を扱う店。

 飲み屋横丁をそのまま再現した「恵比寿横丁」は5月にオープン。さまざまな業態13店がぎっしり並んだテーマ型のフードコートだ。「亀戸横町」も3月オープンの15店で構成するフードコート。店舗の境目をあいまいにしてハシゴ酒を誘引する仕掛けになっている(いずれもTokyoWalker8 /20号)。

 「キャラの島」作りで新観光スポットになっているのが、東京駅一番街に春オープンした「東京キャラクターストリート」だ。連日大賑わいである。改装前にバラバラに点在していたキャラクターショップを一堂に集めた「島」戦略が成功した。「森のこみち」テーマの全長80メートルの通りに全15店のキャラショップが並ぶ。トミカの直営店「トミカショップ」、スタジオジブリの「ドングリガーデン」、都内で唯一の「ウルトラマンワールドM78」に加えて週刊少年ジャンプの「ジャンプショップ」も参加。移転後の単月売上高が前年比4倍の店も登場した(繊研新聞8 /18)。

 日本の魅力再発見誌「DiscoverJapan」も枻(えい)出版より季刊で創刊する。創刊号は日本の魅力が詰まった「名旅館」を特集。次号特集は「民藝」だそうだ(RealDesign10月号)。

 いずれにせよ、テーマ集積と文化堆積が重なった島および島的なるものは、21世紀の文化経済の時代の一大突破口である。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○シブヤ経済新聞 2008/06/30
 「恵比寿なのに新橋みたい」―連日盛況の新飲食空間
 13店が相乗効果を生む「恵比寿横丁」全ガイド

 「恵比寿なのに新橋みたい。かっこつけずに酒が飲めるのがいい」
 ――恵比寿駅西口改札から徒歩2分ほどのビルの1階に突如出現した複合飲食空間
 「恵比寿横丁」が連日ぎわっている。昔ながらの飲み屋街をほうふつとさせる
 空間には、串かつやおでん、焼き鳥などさまざまな業態がひしめき合い、
 狭い通路を客が埋める。
http://www.shibukei.com/column/8/


○東京レストラン・トレンド&グルメニュース「フードスタジアム」
 亀戸駅北口に専門店、屋台、ガールズバーなど15業態を集めた
 昭和レトロ風飲食街「亀戸横丁」が4月8日オープン!
http://www.food-stadium.com/headline/810/index.html


○小値賀町へようこそ
http://www.ojika.net/


○インターローカルTV 自然児戦隊☆おぢか島ん 小値賀町PR
 (YouTube映像 01:01)
http://jp.youtube.com/watch?v=tClimKOrWI0&feature=related

 

 


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