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男こそ見るべき。「セックス・アンド・ザ・シティ」に女が熱狂する理由


c)MMVII New Line Productions,Inc.
 Sex and The City TM is a trademark
 of Home Box Office,Inc.All Rights Reserved.

 映画「セックス・アンド・ザ・シティ」(以下、SATC)が日本でもヒットしている。米国同様、大半は女性観客のようだが、この映画は男性にも見てほしい。男性がなかなか知り得ない女性の本音や内面をうかがい知る絶好の手がかりになるからだ。「史上最も開けっぴろげな女の内輪話」から男が学べることは多い。

 SATCが米国でヒットした理由としては、テレビ越しに「5人目の仲間」となって、画面の中のガールズトークに参加している気分を味わえる点が大きかった。「そう、そう!」と、大勢の女性が共感した。

 テレビシリーズの最後から4年後を描く映画版では、4人は40代を迎えた。そこで語られる40代女性のリアルボイスはさらに生々しく、だからこそ男性観客に参考になる。

 映画版SATCにもテレビシリーズにも共通しているのは、女同士の友情は成り立つというメッセージだ。4年を経ても、4人の信頼は厚い。

 しかも、日本人以上にオープンな物言いをする米国人らしく、SATCでの会話内容は時に気恥ずかしくなるほど。出会った男の品定めはもちろん、寝た男の「味」、男が吐いた言葉など、彼女たちは身近な男の情報をあけすけに交換し、共有する。

 そして、「まぁ、いろいろあるから」とか、「彼にも事情があるんじゃ」などといった、お茶を濁すような場当たり的物言いはせず、むしろ喧嘩を売るかのようなずけずけ感で、「そんな男、別れちゃいなさいよ」「信じられない」と、はっきり自分の考えをさらけ出す。その裏表のなさがうらやましくもすがすがしい。

 感情移入しやすい4人の異なるキャラクターが用意されている。視聴者は4人のうちの誰かに自分を見付けながら、5人目気分を味わえる仕立てだ。


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 主人公格のキャリーは新聞にセックスコラムの連載を持つ売れっ子コラムニスト。複数の相手との恋愛遍歴を重ねてきたが、くっついたり離れたりを繰り返した男性ビッグとの結婚式を映画版で迎えようとしている。ファッションには4人のうち最も意識が高く、独自の哲学を持つ。結婚に当たって、値の張る結婚指輪の代わりに、たっぷり服が入るクローゼットを求めたほどだ。

 弁護士のミランダは年下バーテンダーと、テレビシリーズ終盤で子供をもうけ、結婚へ。本人は「マンハッタンより格下」と嫌うブルックリンへ引っ越した。知性やキャリアで劣る夫に時としてイライラ感を募らせる。映画では義母の介護や夫のフラフラ浮気に直面する。4人の中で最もシニカルな物言いをするが、情に厚く、とりわけキャリーとは互いに信頼が深い。最終第6シリーズでキャリーがフランス移住を決めたときは1人、強硬に反対した。

 唯一の主婦がお嬢さまタイプのシャーロット。結婚前は画廊に勤めるアートディーラーだった。4人のうち、ただ1人、離婚歴を持つ。医者と結婚したが、不妊に悩んだ末に離婚。その後、ユダヤ人で弁護士の夫と、テレビシリーズ終盤で結婚。流産を経験した後、中国から養女をもらったが、映画では待望の妊娠。4人の中でも最も保守的な考え方をするが、芯は強い。

 PRエージェント会社を経営するサマンサはSATCきっての快楽追求主義者。独身を貫き、奔放なセックスライフを追い求める。姉御肌のサマンサは4人のリーダー的存在。しかし、テレビシーズン終盤で新人俳優のスミスと出会い、彼の売り出しに成功。一緒にロサンゼルスへ移住した。しかし映画では彼の将来を思って自ら身を引く。

 視聴者は4人のうち、自分の性格に比較的近い誰かに感情移入して見る人が多いようだ。時には複数のキャラクターに気分を乗り移らせながら、楽しむこともできる。「こんな風に言えたらいいのに」とか、「そう、そう言ってほしかったの」と、心の中でつぶやきたくなるようなせりふが見る者の共感を誘う。多くの女性視聴者の気持ちにシンクロしやすいキャラクターが用意されていたのも、SATCのロングヒットの理由に違いない。

 テレビシリーズと映画で描かれた4人の友情はうらやましくもある。それぞれが迎える男性との出会いや交際、結婚などの局面で、彼女たちは互いに打ち明け合い、支え合う。日本でももちろん、そうした友情はあり得るが、時に気遣いや自己愛が本音を口ごもらせる。踏み込んだ物言いを好まない日本人は露骨な表現や断定的な口調を避けがちだ。

 でも、SATCでは自立した4人が歯に衣着せない言葉で、それぞれの思いを語る。時として「親友でもここまでは言われたくない」と思わないでもないが、思い直すと「ここまで言ってくれる友人が自分にはいるだろうか」と、心配にもなってくる。友情とは、結果を見て「それ見たことか」と同情顔をすることではなく、友人の判断の選択肢を1つでも増やしてあげることだと、彼女たちの時に辛辣なアドバイスから思い知らされる。

 テレビドラマの歴史において、SATCが特筆されるのは、女性の性欲を画面に解放した点だろう。若い男をつかまえて、奔放にベッドプレジャーを堪能するサマンサをはじめ、4人はそれぞれにラブライフを楽しむ。その成り行きは仲間に逐一報告され、視聴者はそのおこぼれにあずかる。


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 挑発的なタイトルのせいもあって、見たことのない人はセックスばかりがことさらに強調された内容と誤解している可能性がある。しかし、実際にはそうではなく、セックスは彼女たちの自立したニューヨークライフの一面でしかない。

 ただ、女性が主体的に相手を選び、セックスでも能動的に楽しむ姿は、それまでの抑制された性表現に慣らされていたテレビ視聴者に驚きを与えた。性的表現に関して日本以上に規制の強い米国テレビではここまでリアルなベッドシーンはまれだった。とりわけ、女性上位で男を「乗りこなす」ようなサマンサの名演技は拍手物。既存の地上波ではなく、視聴者が契約して見るケーブルテレビ局(HBO)だからこそできた事だ。

 その後、米国のケーブルテレビにおける女性のセックス表現は拡大し、レズビアンをテーマに据えた「Lの世界」も登場するに至った。レズビアンやバイセクシュアルの女性のラブライフを掘り下げた「Lの世界」はSATCが終盤を迎えた2004年から米国で放映が始まり、シーズン6が2009年からのスタートを待っている。SATCがなければ、「Lの世界」はありえなかっただろう。

 常日頃から気の利いた言葉選びを心がけているニューヨーカー女性の吐くせりふは痛快ですらある。本心を隠して、無難な話題を優先する傾向があるという昨今の日本人は会話のテクニック自体も衰えてしまっているかも知れないと、SATCを見て思い知らされた。その場しのぎで、友だち甲斐のない言葉は、友情を育む役にも立たない。

 計1000着にものぼるという衣装も映画版SATCの見所だ。ファッションを自らの表現として選び取る4人はそれぞれの仕事やポリシーに合った服を、映画版でも披露してくれている。有名スタイリストのパトリシア・フィールド氏が手がけたコーディネートのうち、特に参考にしたいのは、主人公キャリーの着こなし。有名ブランドの高級プレタポルテを取っ替え引っ替えするだけではなく、ヴィンテージ服を上手に組み合わせている。

 ニューヨークには優れたヴィンテージショップがいくつもあり、おしゃれ上級者の間では、ヴィンテージをミックスした着こなしが人気だ。ピカピカの新品にはない風合いや、クラシックな表情がかえって新鮮でもあり、大人のセレクトにふさわしいからだ。

 「セックス・アンド・ザ・シティ」という題名も見過ごされがちだ。この作品のもうひとつの主人公は、4人が暮らすニューヨークという都市そのものだ。ニューヨーカーである彼女たちのライフスタイルは、ほかの都市に暮らす米国人とは明らかに異なる。ニューヨーカーにはニューヨーカーにしかない暮らしぶりというものがあり、多くの米国人にとってすら、それは憧れであり得る。

 社長、弁護士、コラムニスト、画廊勤めと、やや現実離れして見えるほどの4人の設定も手伝って、彼女たちの消費は華々しい。4人が好んで飲む「コスモポリタン」というカクテルは今やニューヨーク名物になった。作品に登場するショップやレストランをめぐるバスツアーも盛況が続く。

 結婚や出産、キャリアなど、様々な意味で人生のターニングポイントにさしかかった4人の40代は日本人女性にとっても参考になりやすい。もちろん、同世代女性をパートナーとする男性にとっても、彼女たちの本音を絶対値で感じ取れるのは、パートナーが抱える不満を膨れあがらせたり、いきなりの破局を招いたりするのを避ける上でも役に立つはずだ。ぜひともパートナーと一緒に見て、そしてその直後にたっぷり時間をとって感想を語り合いってほしい。滅多に聞けないリアルボイスがパートナーの口から聞けるかも知れない。

映画【セックス・アンド・ザ・シティ】
8月23日(土) 日劇3ほか 全国東宝洋画系にてロードショー

▼SEX AND THE CITY 映画予告
http://jp.youtube.com/watch?v=1HXjkVV1wsE

▼More, More, More-Sex & The City! (The Movie)(03:02)
http://jp.youtube.com/watch?v=1T-0xh_koGk&feature=related

▼SATC new Collection unveiled on E! News(01:56)
http://jp.youtube.com/watch?v=bbjsEY585Mg

▼Sex and the City: Back in Fashion (via Bare Necessities) 02:58
http://jp.youtube.com/watch?v=hxQhHq9ok0s&feature=related

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○海外ドラマNAVI  2008/07
 『SATC』のキャリーをファッションアイコンに仕立てあげた
 パトリシア・フィールドってだあれ?
 90年代のNYクラブシーンはドラッグクイーン真っ盛りだった。バウンサーが
 ガードする入り口にエントリーを許されるのは、クィーンが目をつけるで
 あろうとんがったファッションを隙無くきめきめに着こなす者のみ。
 中に一歩足を踏み込めば、そこはもう極彩色の世界。毛皮に羽、ラメを
 まとったクイーンたちの狂乱の世界が広がっていた。そんなパーティーに
 もぐりこむと必ずといっていいほど見かけた赤毛の女帝らしき人物。彼女こそ
 がのちには『SEX AND THE CITY』をファッションバイブルとまでいわせしめた
 スタイリスト、パトリシア・フィールドだった。
http://dramanavi-column.cocolog-nifty.com/column/2008/07/satc_16ae.html


○HOGHUGの日記 2008/08/26
 今日のお題・・・『セックス・アンド・ザ・シティ』(2008年 米国)
 俺はご存知の通りに戦争映画が大好きなんだけれど、映画終ると戦争映画
 並みにズラッとエンドロールに本作に参加されたファッション関係の
 スタッフや、そのアドバイザーの名前がこれでもかと並び、またそれに
 加えて数々の有名無名(俺が知らないだけか)のブランドまで軒を連ねた
 かのような総動員体制に加え、それを証明するかのような劇中に溢れる
 物量攻勢にはただただ圧倒されてしまう。メイン4人の女性はシーンが
 違う毎に別のモノを着てて、俺が戦争映画の装備品や銃器類をチェック
 するように、お洒落のお好きな方は動くファッション雑誌のように内容を
 超えて楽しめる体裁になっていたかと思う。
http://d.hatena.ne.jp/hoghug/20080826/p2


○シネマトゥデイ 2008/08/22
 『セックス・アンド・ザ・シティ』でブレイクしたジェイソン・ルイス
 は現在彼女ナシ!
 映画『セックス・アンド・ザ・シティ』で、ヒロインの一人である
 サマンサ・ジョーンズの年下の恋人スミスを演じているジェイソン・ルイス
 に話を聞いた。女性なら誰しもが、クラクラしてしまう挑発的な肉体を持つ
 ジェイソンの魅力に迫る。
http://cinematoday.jp/page/N0014666

 

 

○キャリーやサマンサの失敗を恐れない痛快なスタイリングにより、この
  ドラマからは数々のファッショントレンドが生まれました。そんな
 “SATC”アイテムとキャラクターたちが愛するブランドを一挙に紹介!
http://dramanavi.nifty.com/special/sp-12-satc/page2.html#brand1

 

 

 

 

 


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