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治安対策でイタリア各自治体ごとに多様な罰則発令。観光客はご用心

<記事概要>

内務大臣マローニが主導する、安全に関する措置法が8月5日に発令された。これにより、イタリアの各市長はその裁量で法令を出すことができることとなった。主に公共の安全に寄与するための法律を市の実情に応じて市長が定め、罰金をいくらにするかもすべて市長が決められる。アメリカ開拓時代の保安官のように権限が大きいとして、「保安官市長」の暴走を懸念する向きもある。

8月17日 ラ・スタンパ紙より


<記事解説>

イタリアには8000以上の市がある。日本でいうと市・町・村に相当し、その規模に関係なく、人口3000人の町でもミラノのような大都会でも「コムーネ」と呼ばれるひとつの行政区分となっている。ここでは市、市長という呼び方で統一する。

左派政権のプロディ内閣のときから掲げられていた治安対策が、ベルルスコーニ政権に引き継がれ、強化されていることを示す記事である。主導しているのは「北部同盟」から入閣したマローニ。保守派の中でも不法移民への措置や犯罪の罰則強化など、厳しい治安対策を打ち出してきた。

先ごろ、日本ではフィレンツェの大聖堂への落書き事件が報道された。謝罪した日本人観光客への教会の対応を見て、イタリアという国はなんと寛容なのだろう、と感じた日本人は多かったと思う。しかし行政レベルでは、イタリア国民でさえも窮屈と感じざるをえないような、規則だらけの住みにくい国になりつつあるようだ。

市がそれぞれ独自の法令を発しているのですべてを網羅できないが、例を挙げよう(カッコ内は実施される市の名前)。

▼電動草刈機を使用していいのは平日の朝だけとする。違反者には罰金最大500ユーロ。
 (フォルテ・デイ・マルミ)

▼車の中でキスしてはいけない。罰金最大500ユーロ。(エボリ)

▼公園内ではタバコを吸ってはいけない。違反者には罰金最大500ユーロ。
 (ナポリ、ボルツァーノ)

▼パンくずを捨てるためにテーブルクロスを窓から振り払ってはいけない。
 罰金最大500ユーロ。(フィレンツェ)

▼鳩にえさを与えてはならない。罰金50から500ユーロ。
 (ほとんどの大きな市で適用される)

▼街の中心部でのスケートボードの使用を禁止する。罰金25から500ユーロ。
 (ヴィアレッジョ)

▼海岸沿いで食事してはいけない。罰金25から30ユーロ。(ヴェネツィア、カプリ)

▼海岸の砂で城などを作ってはいけない。貝殻を集めてはいけない。砂を
 持ち帰ってはいけない。罰金25から250ユーロ。(エラクレア)

▼キノコを踏んではいけない。罰金41から113ユーロ。(ボルツァーノ周辺)

▼木製サンダルで街の中心部を歩いてはいけない。理由は音がうるさいから。
 罰金50ユーロ。(カプリ、ポジターノ)

▼アルコール類の瓶や缶を手に持ったまま歩いてはいけない。罰金50ユーロ。(ジェノバ)

▼海岸でタバコを吸ってはいけない。罰金360ユーロ。(サルデーニャ島オルビア)

▼23時30分以降、ベンチに3人以上集まってはいけない。(ノヴァーラ)


イタリアの街のあちこちでみかける物乞いも厳しく罰せられる。実施されるのは今のところローマ、フィレンツェ、ヴェネツィア、ラヴェンナ、ヴェローナなど。聖フランチェスコで有名なアッシジも、聖堂付近は禁止される模様だ。物乞い禁止に関しては教会関係者から、キリスト教の博愛精神に反する、弱者を見捨てるのか、という反対が多い。ただし、物乞いを生業としている人たち(主にジプシー、ロムと呼ばれる半定住者)の背後には犯罪組織の存在が指摘されていることから、規制はやむなしとする声もある。

これ以外に、多くの市で実施されるのが、主に幹線道路沿いにたむろする売春婦とその客への取り締まりだ。たまたまそこに立っていた「おねえさん」に道を尋ねただけだったとしても、売春婦と商談した「客」とみなされ、500ユーロほどの罰金を課せられるおそれがある。

住民としてならば、帰属する市の規則を守ることはそれほど難しくはないだろう。問題は観光客、とくに海外からの旅行者である。彼らに、これらの細かい規則や罰則に関する情報は伝達されるのだろうか。また、日本人のような、イタリアの街を一度の旅行で何箇所も周遊する旅行者は、観光地をかわるごとに規則を暗記せねばならないのだろうか。

イタリアに来て間もないころ、国鉄の電車の切符に印字するのを忘れたことが何度かあった。購入した切符は、電車に乗る前に日付・時刻を印字する機械に通す必要がある。そうしないと、たとえ切符を購入してあっても無賃乗車扱いされるのだ。しかし、わたしに罰金を請求した国鉄職員はひとりもいなかった。いずれの場合も、車掌が手書きでわたしの切符に時刻を書き込み、印字忘れをなかったことにしてくれた。たぶんわたしが外国人だったからだと思う(女性だったからかもしれないが)。

国鉄職員や教会や、市井の人が外国人に寛容だったからといって、イタリアの市職員や警察まで同じだろうと考えてはいけない。実際に、規則を知らなかった外国人観光客が罰金を払わされた、というニュースも見聞きする。

イギリスのインディペンデント紙の日曜版は、こんな記事を掲載した。
「イタリアを訪れるツーリストは注意せよ。旅行者にとって楽しいことは、かの地では禁止事項である」

イタリアを訪れる日本人の方々もくれぐれもご用心のほどを。


<参考>

ラ・スタンパ紙 (8月17日付)
http://www.lastampa.it/redazione/cmsSezioni/cronache/200808articoli/35694girata.asp

インディペンデント紙(8月17日付)
http://www.independent.co.uk/news/world/europe/tourists-beware-if-its-fun-italy-has-a-law-against-it-899787.html

イタリア立法情報(pdf)
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/legis/23601/02360107.pdf

イタリアに好奇心
http://senese.cocolog-nifty.com/koukishin/2008/08/post_65e9.html

 

 


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