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在住者の視点から見た米国ネットビジネス(成功編)

  • 米国在住ジャーナリスト

 成功したネットビジネスとそうでないものとの間に横たわる壁とはなんだろう。タイミング、業態、マネジメント、その複合要素─。あるいは決まった要因などないのかもしれない。米国在住者として、利用者の目でネットビジネスを眺めてみると・・・。

 ここでは、日本でもお馴染みのamazon、eBay、YouTube、skype、PayPalといった有名なネット組は除く。日本でそれほど知名度は高くないが、米国主体でサービスが行われている(いた)ものを取り上げる。

 
▼DVD宅配のNetFlix(ネットフリックス)

 成功の一番手としてあげるのは映画DVDのレンタル宅配を行うNetFlex。97年にシリコンバレーの外れに位置するロスガトス市に創設された同社は、DVDを郵送する新しい業態で瞬く間に利用者を増やした。

 月額4.99ドルからの料金で、オンラインから観たいDVDタイトルを注文すると、大抵は翌日に郵便で指定した住所まで届く。会員である限り、借りたDVDに返却期間はない。返信用の封筒で好きなときに送り返せばよい。ただ、一度に借りられる枚数が決まっているので、それを超えてしまうと返却しなければ次が借りられないシステムになっている。

 同社によると、現在の会員数は840万人。米国の世帯数を1億1000万件と見積もると、13世帯に1件は会員ということになる。NetFlixが出来るまでは、家でビデオが見たくなると街角のDVDレンタルショップに出かけていくのが普通だったが、その必要もなくなった。

 宅配というサービス内容が利用者に受け入れられたのは間違いないが、それよりも大きなのは品揃え。10万タイトルが用意され、米国で流通するほとんどの映画を借りることが出来る。ロングテール理論の代表的な例だ。

 棚に限りのある町のビデオ店ではそうはいかない。特に大手チェーン店では売れ筋タイトルを集中的に集める手法をとるため、少しレアな映画になると店頭で見つからないケースも多い。その日に観られることを考えれば店に出かけるのはそう苦にならないが、借りたいものが置いてなくては仕方がない。

 しかも1枚あたりのレンタル料金は、NetFlixの最低月額料金とほぼ同じだ。店舗展開をする従来方式では、土地代や人件費などがかさんでしまう。NetFlixでは、豊富な品揃えと低料金が顧客を引き付けるポイントになった。

 こうなると大手の苦戦は目に見えている。私の住む町でも数年前にBlockbusterが消え、遂にはHollywood Videoも閉店した。もちろん、これらの大手もNetFlixに習って宅配サービスを打ち出している。一時は流通最大手のWal-Martも始めたほどだ。だが、いずれもNetFlixが獲得した先行者利益を突き崩すにはいたっていない。たった数年でも、市場を先んじたことで得たノウハウと実績によって、後発参入の大資本を寄せ付けない事例として興味深い。

 ところで、NetFlixのサービス自体がビデオオンデマンド時代までの命といわれてきた。だが、同社では1万2000タイトルをパソコンから追加料金なしでストリーミング鑑賞できるサービスを始めたほか、セットトップボックスを使ってテレビに配信する有料サービスを開始。来たるべきオンデマンド時代への対応に余念がない。


▼ネット上で個人間の資金調達と融資を行うProsper

 ネット上でお金を貸したい人と借りたい人を結びつけるProsper(カリフォルニア州サンフランシスコ市)も成功したビジネスだ。2006年の創業以来、順調に利用が拡大し、1億6000万ドルの融資額を達成した。サブプライム問題に端を発して金融機関の貸し渋りが起きている現在、利用者は75万人を超えたという。

 借主はウェブサイト上で2万5000ドルまでの資金調達を呼びかけることが出来る。使途、返済計画、自分についてなどの情報を写真付きで詳しく載せ、広く融資を呼びかける。一方、自己資金を貸したい人は、借主の中から資金の利用目的に共鳴したり、高い返済利息を掲げている人などを選び、希望する融資額と返済利息を指定して入札する。

 融資決定のプロセスはオークション方式で進められる。終了時点で融資希望額が満たされていれば、希望返済利率の低い順から融資者になれる。Prosperは貸し手と借り手から手数料を取ることで収益を上げる仕組み。

 融資理由はさまざま。新規事業を始めたいから、台所のリモデルをしたいから、学費を捻出したいから・・・。最近は、利息の高いクレジットカードの利用返済を済ませたいから、というのも多いようだ。

 貸し手としては知らない人に金を貸して借り逃げされるのが怖いところだが、不履行をするとローンは債権引受人に売られ、以後、借り手の与信が悪くなる。米国で普通に生活するためには与信を良好に保つことが大切なので、一定の縛りにはなる。

 Prosperは、貧困者向けの小額金融であるマイクロファイナンスのコンセプトにも近い。銀行が貸してくれなければ、それに代わる受け皿が必要とされるのは当然の成り行き。それをいままでクレジットカードが行ってきたが、高い利息を払ってキャッシングや買い物をするなら、Prosperで融資者を見つけたほうが賢い選択だ。

 こうした金融を仲介するサービスは莫大な設備投資が必要なわけでもない。ネットビジネスに馴染みやすい分野といえる。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○MediaSabor  2008/03/28
 「バンキング(銀行)2.0: 信用収縮で増えるソーシャルレンディング(P2P金融)」
http://mediasabor.jp/2008/03/20_p2p.html


○MediaSabor  2007/03/07
 「ネットと50ドルで、あなたも投資銀行家に-Prosper.com」
http://mediasabor.jp/2007/03/50prospercom.html


○P2Pとかその辺のお話@はてな  2008/01/14
 「Netflix、加入者に映画の無制限ストリーミングを提供、
 iTunesの映画レンタルに対抗」
 対象は加入者全体というわけではなく、4.99ドルのDVD2枚/月のユーザには
 このサービスは適用されない模様。となると、高額プランを利用するという
 インセンティブにもなるだろう。
http://d.hatena.ne.jp/heatwave_p2p/20080114/1200291445

 

 

 


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