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問われるインド製アーユルヴェーダ薬品の安全性。伝統の叡智保存やいかに

<記事要約>

「JAMA( Journal of American Medical Association )」によって公表されたところによると、インターネット上に出回っているアメリカ製及び、インド製のアーユルヴェーダ薬品を調査した結果、五分の一の製品に、鉛、水銀、砒素等の重金属が検出されたとのこと。

重金属は体内に蓄積され、めまいや筋肉の痙攣、慢性的な関節炎、精神障害等の障害を起こすと言われている。調査は、25のサイトで確認された673の商品のうち、ランダムに選ばれた230商品が対象にされ、その中の193の商品から分析結果を得たもの。結果、20.7%の薬品(メディスン)の成分に重金属が見つかったとのこと。

アロパシック薬品(逆症療法、つまり化学物質を用いた薬品)は、使用許可取得のための安全性と効果のテストを受けているがインドのアーユルヴェーダ製品にはそのようなテストはない。安全性に対する保証を誰もしていないということになる。やっかいなのは、アーユルヴェーダ薬品がしばしば、ドラッグのカテゴリーとしてではなく、食品やサプリメントのカテゴリーとして売られるということだそうだ。食品とドラッグの安全基準は異なるのだ。

品質に関する同様の課題は、インドのアーユルヴェーダだけではなく、ギリシアのユナーニーや、ヨーロッパのホメオパシーにとっても、長いこと問題の種であるという。厚生省下にあるAYUSH局(Ayurveda, Yoga & Naturopathy, Unani, Siddha & Homeopathy)はアーユルヴェーダ薬品の中の、危険性を秘めている可能性のある内容物への許可水準を設定しようとしているところだそうだ。

だが専門家によると、微量の重金属は多くのアーユルヴェーダ製品にとって欠かすことのできないものなのだそうである。何世紀もの間、それらはずっと守られてきたレシピであり、何百、何千万人もの人々が安全に使用し、その恩恵を受けてきたという歴史もある。

ニューデリーの肝臓&胆嚢科学学校の肝臓学の助教授であるアシーシュ・クマール博士は、「今、我々がすべきことは、現代の科学的方法で、これらの伝統医学の薬品を検査し、安全性の基準を再設定することだ。もし、薬品が安全でないと仮定したとした場合、それらの薬品には処方箋を出す必要があるだろう」と述べている。インドにおいてAYUSHは、伝統の薬品が出来る限り安全に作られることを、より確実にするために時間をかけているところだそうだ。

「規格化や、科学的な認可取得、品質の保証に対する取り組みが現在進められている。私たちは、それにより、伝統の薬品がアロパシック薬品よりもポピュラーになることを願っている」とアシーシュ氏は付け加えた。

Hindustan Times 2008年8月30日


<解説>

確かにインドではアーユルヴェーダ製品が、食品コーナーで売られている事が多い。他の東洋医学同様に、インドのアーユルヴェーダも、病気を「治す」のが目的と言うよりは、病気を「予防」することに重きを置いてきたことの象徴かもしれない。漢方のお茶同様、「病気の人が飲むとよいとされているが、薬というわけではない。健康な人が飲めば、予防医学にもなる」というようなものが多いのだ。

また、アーユルヴェーダコスメティックには逆に、「これはコスメティックではありません。アーユルヴェーダメディスンです」と記載されている。顔の欠点をカバーする、というよりは、体の毒素が表面に出た結果の肌荒れや吹き出物を「治す」という考えがもとにあるのだろう。アーユルヴェーダコスメには「NOT FOR EXPORT」と記載されているものも多いが、もしかしたらカテゴリー別の安全基準の問題で、輸出することができないのかもしれない。

今回の記事のような問題には、インド国内でもいろいろな意見が聞かれている。確かに、誰も安全を保証していないのは危険ではある。パッケージに内容物がすべて記載されているものもあるが、わけの分からない粉や液体を、粗末な入れ物にただ入れて売っている場合もそうとう多い。

だが、古代から伝えられてきたアーユルヴェーダの経典にも書かれている伝統のレシピを「現代の科学で分析」したところ、イケナイものが出てきたからヤバいのでは? と即判断するのは、確かに安易な判断である気もする。アーユルヴェーダの専門家も言っているとおり、それらは微量であり、また、むしろ必要だから入っているのである。具体的に何をどれくらい摂取すると、体にどう作用するのかについては、私は専門家ではないので分からないのだが、一般に「毒」と言われているものも、微量を指示通りに摂取する場合は体によい作用をもたらすものというのは、よく存在する。

懸念されるのは「現代の科学で分析」し、「他の文化の分類法でカテゴライズ」することにより、地球上からまたもや、守られ続けてきた叡智が消滅、変形することである。たしかに、そうすることにより、ある意味では安全になるのかもしれないが、この世はますます平ったくなっていくだろう。

いまの世の中、「なんでもかんでもを、誰かのせいにできる用意を整えることにだけ、やたら熱心」と言えなくもない。かといって、やはり内容物が自分で確認できないとか、それを専門家がしっかりバックアップしていないらしいとなれば、不安である。何かしらの安全基準は、やはり欲しいところだ。このように、インドでも伝統の叡智の保存との間で、賛否両論がある。調査結果により、アーユルヴェーダ製品の印象が悪くなり、売れなくなってしまうではないか、という懸念も聞かれる。

だが、「インドでは、記載されているものが本当かどうかが、疑わしい」という問題のほうが、よほど深刻だと私は思う。最近は日本でも、産地を偽ったり、賞味期限をごまかしたり、内容物を正しく表記していなかったりする問題が後を絶たないようだが、インドはそういった物事に関しては、世界一ゆるい国だ。そもそも、国民に正しい消費者意識というものが、ほとんど根付いていない。騙すほうも悪いが、騙される方も同じくらいバカだ、という感じの風潮なので、「騙す」ということに、それほど「悪事」という通念がないようにすら思う。

新聞に定期的といっていいくらいによく出る記事のひとつは、「また内容物詐称が発覚」というものだ。だが、日本のように、皆が大騒ぎといった感じは皆無である。調査は、インドの食事には欠かせないスパイスなどが対象で、「チリパウダーを調査したら、半分は赤レンガの粉だった」とか、「ダニヤパウダーにワラくずを混ぜていた(確かにダニヤパウダーはワラくずっぽいのである」などが、お決まりの調査結果である。

インドのスイーツには銀箔を貼ったものが多いのだが(もちろん、それも食べられる)、その銀箔も実はアルミを使っているところが多いそうである。その他にも牛乳、水、オイルにいたるまで、あらゆる不安なウワサをよく耳にする。宗教的な理由から、インドでは食品にはすべて、「ベジ」か「ノンベジ」の記載がされているのだが、それらも疑わしいのだという。先日は、あるスワミ(お坊さん)が声高々に売っていた「ピュア・ハーバル食品」に、動物や人間の頭蓋骨の成分が検出されたとか。

その他、食品に限らず、例えばツアーの内容だとかサービスの内容に関しても、うたい文句と実際が詐欺まがいに違うことなど日常茶飯事なのだが、人々は「やられた」とか「まったく」と言っているわりには、どこか「まぁ、でも彼らは商売をしてるんだから」と妙に納得すらしている風なのである。詐欺に対して、はっきりとした被害者意識を持つ空気がないのだ。

よって、アーユルヴェーダ製品の中の成分よりも、「その成分が正しく記載されているか」「製造元が信頼できるか」のほうが、インドではよほど問題なのでは? と思うのだ。そのアーユルヴェーダ製品が、本当に伝統のレシピで確かな製造者によって作られたものならば、内容物を見て、伝統のレシピを信頼してみるか、現代の科学的な知識を信頼するかの判断で済むが、申告された内容が実際と違うとなると、もう何もわからない。非常に危険な可能性もあるだろう。申告内容と実際の内容の一致を徹底することに、まずは取り組んでほしいところだ。

 

 


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