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チーズやワイン---本当は怖い薬と食品の飲み合わせ

  • グリーンフラスコ株式会社 代表・薬剤師 
  • 林 真一郎

ある薬と別の薬を一緒に飲むと、お互いに影響を及ぼし合って思わぬ副作用を起こすことがある。これを薬物相互作用というが、93年には皮膚病の帯状疱疹の新薬として開発されたソリブジンという薬と、特定の抗がん剤を一緒に飲んだ患者さんに副作用が出て10名以上が死亡するという事故が起きたように、注意が必要だ。では、薬と薬ではなく、薬と食品ではどうなのか?

ある種の高血圧の薬をグレープフルーツジュースで飲むと血圧が下がりすぎたり、副作用に苦しめられる危険があることはご存知だと思う。こうしたリスクは他のケースでも起こり得る可能性があるのだが、残念ながら、わが国ではこの種の情報の普及が遅れているのだ。そこで今回は、意外に知られていないが、本当は怖い薬と食品の具体的な飲み合わせ(食べ合わせ)について具体例をあげて紹介したいと思う。


1) チーズと抗結核薬のイソニアジド

チーズに含まれるチラミンというアミノ酸は、ある種の興奮作用をもつため血圧を上昇させる。チラミンは通常、体の中ですみやかに代謝を受けるのだが、イソニアジドにはこの代謝を阻害する働きがあるため、結果として血液中のチラミンの濃度が高まり血圧が上がったり、頭痛やほてり、発汗や吐き気などの症状を起こすことがある。ちなみに、チラミンを多く含むチーズはエメンタールやブルーチーズで、ワインやキャビアにもチラミンは含まれる。


2) アルコールと鎮痛薬や睡眠薬

アルコールは体内で代謝される際に肝臓にダメージを与える。普段からお酒の量の多い人はアスピリンなどの鎮痛薬を飲むことによってアルコールの肝毒性が増強され、また胃の粘膜の損傷のリスクが高まる。一方、アルコールは鎮静作用をもつため睡眠薬の効果を増強し、自動車や機械の操作能力を著しく低下させて、事故を引き起こす可能性が高まる。最近では、清涼飲料水にもアルコールが入っているので注意が必要だ。


3) コーヒー・紅茶と鉄剤やジアゼパムなどの精神安定剤

コーヒーや紅茶に含まれる渋味の成分のタンニンは鉄の吸収を抑制する。このため、鉄剤を水ではなくコーヒーや紅茶で服用すると鉄剤の効果を弱める可能性がある。ただし、鉄剤を飲んで60分以後にコーヒーや紅茶を飲む場合には、ほとんど影響はないようだ。また、コーヒーや紅茶に含まれるカフェインには興奮作用があるため、精神安定剤や睡眠薬の効果を低下させる可能性がある。


4) 牛乳とテトラサイクリンなどの抗生物質

牛乳や乳製品に含まれるカルシウムなどのミネラルは、テトラサイクリンなどの薬と結合するため薬の吸収が悪くなり、薬の効力を弱める可能性がある。したがって、テトラサイクリンなどの薬を飲む場合は、牛乳やミルクではなく水で服用すべきである。また、カルシウムやマグネシウムなどの含有量の高いミネラルウォーターや鉱泉水も同様の注意が必要である。


5) 緑色野菜とワルファリンなどの抗凝固薬

抗凝固薬とは血液を固まりにくくすることで血栓などを防ぐ薬である。一方、緑色野菜に含まれるビタミンKは抗凝固作用を阻害する働きがあるため、緑色野菜と抗凝固薬を一緒に摂ると薬の効果を弱める可能性がある。このため、抗凝固薬を服用している際には緑色野菜を大量に食べるのを避けるのが賢明だ。ちなみに、一般的には緑色の濃い野菜(ホウレンソウや芽キャベツなど)ほどビタミンK含有量が多いことも覚えておくとよいだろう。


以上、いろいろと具体的なケースを述べてきたが、こうした飲み合わせ(食べ合わせ)を気にするあまり薬を飲むのをやめてしまったり、飲む時間をずらそうとして薬を飲むのを忘れてしまう人がいるが、そうしたことはすべきではない。何か気になることがあったら、遠慮なく医師や薬剤師に相談しよう。彼らはそのために存在するのだから…。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○米国統合医療ノート 「薬とフルーツの相互作用」 2008/09/02
  先日の米国化学会で、グレープフルーツだけでなく、オレンジやリンゴにも
 薬との相互作用があるという報告がカナダからありました。しかも、これまで
 知られていたのとは逆に、薬の効き目を思いのほかに弱めてしまうという
 ものです。この報告をしたのは、20年ほど前にグレープフルーツと薬の
 相互作用を初めて特定した研究者たちです。
http://d.hatena.ne.jp/appleflower/20080902/p1

 

 


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