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雑誌休刊ラッシュに潜むメディアビジネスの地殻変動

 雑誌市場はこの10年間で2割以上も縮んだ(金額ベース)。その落ち込みぶりは2008年に入ってさらに加速。有力誌が相次いで休刊・終刊に追い込まれた。半面、雑誌とインターネット媒体とのコラボレートや、無料誌の台頭などが起きている。

 月刊誌「現代」(講談社)は12月で休刊、11月発売号で休刊する「プレイボーイ日本版」(集英社)。思考を支える支柱としての雑誌の期待度も薄れている。朝日新聞社の「論座」休刊が報じられ、広告・マーケティングと表現の境目をとらえてきた「広告批評」(マドラ出版)も2009年4月の創刊30年記念号で休刊する。

 雑誌には文字通り、「雑」という価値があった。読者がもともと興味があったわけではないジャンルやテーマの記事に出会うことによって、見識や思考を深めるインスパイアソースとしての機能だ。

 しかし、読み手が自らの趣味や興味に引きこもる傾向が強まった結果、総合誌のニーズは薄れた。タコ壺的な関心を引き寄せやすいインターネットが新たな受け皿になった。

 実はインターネットこそ、総合的な関心を満足させる網羅性を持つのだが、今の読み手はその断片だけを利用する傾向が強い。例えば、香港旅行を計画する際、航空券やツアーの情報を一生懸命探す割に、香港の植民地史などを調べようとはしない。雑誌の衰退は「知」への向き合い方の変容を物語る。

 時代のニーズと合わなくなっていく宿命が雑誌にはある。休刊が決まった生活実用誌「主婦の友」は、タイトルの「主婦」という言葉が現在の女性になじまなくなっていたのだろう。男女雇用機会均等法が施行された時点で、働く女性を意識した誌名に変える選択肢があったはずだが、既存読者を抱える老舗誌ならではの決断の難しさが刷新のチャンスを失わせた。

 広告クライアントの出稿先選別が厳しくなったことも雑誌サバイバルを難しくしている。ファッション誌「ニキータ」(主婦と生活社)や、「Style」(講談社)、「GRACE」(世界文化社)、「BOAO」(マガジンハウス)の休刊は、雑誌そのものの勢いが落ちていると感じていなかった読者には意外感をもって受け止められただろう。景気の減速がさらに進めば、広告収入に重きを置くこのジャンルでの雑誌消滅が増える可能性が高い。

 では、雑誌市場が総崩れかと言えば、そうではない。例えば、50代女性を主な読者と想定して創刊された女性誌「HERS」(光文社)は新たな試み。表紙は女性誌としては異例のモノクロ写真だ。「JJ」で知られる同社は年代別女性誌を創刊してきた。「HERS」は「JJ」の最初の読者層が50代に達したのを受けて創刊された。

 駅や街角で配布されるフリーペーパー(無料誌)は創刊が相次ぐ数少ないカテゴリーだ。リクルートが2004年に創刊した「R25」はブームの火付け役となった。「雑誌はタダで済ませよう」という気分が若い世代に広まった。リクルートは携帯電話でも無料誌サイトを展開していて、「雑誌=無料」の流れを加速させている。1月からはウェブで「R25」の全ページが読めるようになった。

 中高年読者と無料誌の合わせ技も登場している。JTBパブリッシングもミドルエイジ向け無料誌「At Once」をスタート。主に60代を狙った無料誌「メトロエイジ」(スターツ出版)も5月に創刊された。半面、小学館の「ラピタ」はミドルエイジからシニアの読者に支持されてきたが、休刊を迎えた。

 変わったところでは日本初のセレブゴシップ・マガジンという触れ込みの「GOSSIPS PRESS」(トランスメディア)はコンビニ店頭での取り扱いが増えている。ハリウッドスターをはじめとする有名人の近況を紹介する写真主体の薄手雑誌だ。頭を使わずに読み飛ばせる造りで、今時の読者ニーズを象徴するような仕立てになっている。

 雑誌休刊の元凶として悪者扱いされているのがインターネットだ。しかし、現実にはインターネットと雑誌の関係は日々、変わりつつある。2008年に入って勢いづいているのが、有力ポータルサイトが雑誌コンテンツを取り込む動きだ。

 ヤフーは有力誌と組んで、雑誌コンテンツの集合サイト「X BRAND」を立ち上げた。「ブルータス」「ダイム」「マリ・クレール」「東京カレンダー」「GQ JAPAN」など、名の通った雑誌ばかりだ。一方、マイクロソフト日本法人の「MSN」では「Hanako」「Tarzan」など、マガジンハウスの雑誌バックナンバーの全ページを無料で読める。ヤフーの場合は各誌から少しずつ提供されているが、MSNはフルコテンツと、それぞれに違いがある。

 店頭に並ぶ期間が短く、読んだ後は捨てられてしまいがちな雑誌は、広告訴求力に限りがある。じっくりと続く広告効果を期待するクライアントからすれば、ウェブ広告は期間・頻度をコントロールしやすく、検索エンジンからのヒットも期待できる点で、雑誌にはない魅力がある。

 こうした事情から、近年はウェブと連動した広告展開を求めるクライアントが増えている。もっとはっきり言えば、ウェブと連動できない雑誌には広告出稿したがらなくなってきた。ポータルサイト側からすれば、自前ではとうてい作れないような上質のコンテンツを、有力雑誌から提供してもらえるのは、コンテンツの厚みを増す上で願ってもない。雑誌に広告出稿してきた優良クライアントを呼び込む機会にもなるわけで、双方に利があるコラボとなる期待が持てる。

 雑誌衰退の原因をインターネットだけにするべきではない。本当に読みたい雑誌は買って読む。むしろ、この「読みたい」という読み手の意欲が薄れてきてしまったのが大きいのではないか。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○That's Life  気になるニュースとブックレビュー
 「売れないから休刊、じゃなくてモデルを変えてけばいい」 2008/09/15
 結局、何をしたくて、その上で事業を継続していくにあたってどういう
 ユーザーが欲しくて、どういったコンテンツがユーザーにとっての価値と
 なるのか、ってことじゃないですかね。
http://blog.beatemotion.org/2008/0915_2320.html


○しずおかオンライン社長のブログ「U’s fieldnote」
 「“紙”を捨てるのに9年かかりました」 2008/09/19
 ギズモード・ジャパンやライフハッカー日本版を運営している
 株式会社メディアジーン代表・今田素子さんの「ブログメディアの最新事情」
 についての話を聞きました。もともとターゲットメディアであり、
 コミュニティを組成するメディアであった雑誌はウェブと相性がいいはずなのに、
 出版社はなぜウェブに進出できないのか、進出しても失敗してしまうのか、
 という理由のひとつに今田さんは、
 「出版人はウェブの機微や言語を理解していない」を挙げていた。
http://unno.eshizuoka.jp/e169821.html


○ときどき、ドキドキ。ときどき、ふとどき。 2008/02/07
 稲垣太郎 「フリーペーパーの衝撃」 
 フリーペーパーもジャーナリズムの一部なのだから、スポンサーからの収入に
 頼っていては編集や経営の独立が保てないのではないか、という危惧が
 持ち出されることがしばしばある。それに対して、著者は、ノルウェー発祥で
 世界各国で成功を収めているフリーペーパー「メトロ」の発行人である
 アンデション氏にインタビューしたときの氏の言葉を引いて、フリーペーパーの
 強みは、読者に読んでもらう(自分の時間を提供してもらう)だけの魅力を
 持ったコンテンツを提供できる力を持っていることであり、それがあれば
 広告主の一方的な支配を受けることにはならず、十分独立性を保てる、という
 説を紹介している。
http://blog.goo.ne.jp/sotashuji/e/66e92560e32816362d4c527a3015dc33


○マーケティング・ブレイン
 「Maghoundは雑誌界の黒船になるのか?」2008/08/16
 ひとことで言えば、お好きな雑誌を定額料金で毎月チョイスができ、
 タイトルを変更もできる。9月の事業開始時で300タイトル、12月までに
 400タイトルを目指すので、タイム社だけではなく、全米の雑誌発行社を
 つなぐシステムだ。公表されている料金も凄い。月間3冊3.95ドル、
 5冊で7.95ドル、7冊で$9.95ドル、8冊以上はプラス1ドルでいいそうだ。
 5冊で1,000円!ですよ。
http://marketing-brain.cocolog-nifty.com/blog/2008/08/maghound_a53e.html


○永遠のJガール 「永遠のJガールの理由」 2008/04/25
 Jガールの「J」は、光文社が発行している月刊女性ファッション雑誌
 「JJ」からとっている。実は私は17歳から毎月「JJ」を愛読していて、
 今年でもう30年目に突入である。娘のような年ごろの女の子が読む
 雑誌なので、さすがに誌面を参考にして洋服を選んだりすることはないが、
 今の女の子たちの気分を知る手がかりになるし、何より好きなんだから
 しょうがない。
http://tsujiran.laff.jp/1/2008/04/post-d5a4.html

 

 


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