Entry

20世紀雑誌少年が夢想する近未来のメディア

KNN神田です。

◆映画「20世紀少年」を見た

ストーリーよりも、むしろ時代設定に、大きく共感することができた。
「ALWAYS 三丁目の夕日」ほど、白黒テレビの登場に感激することを知らない世代。
団塊世代以降のジェネレーションが描かれ、21世紀への夢に満ち溢れた少年時代に完全にタイムスリップできた。

20世紀少年に登場する「ともだち」の奇妙なロゴマークは、少年サンデーのノンブルにふられている指であったというエピソードに遠い記憶が蘇った。そう、そんなマークがあった。

ボクたちは、20世紀少年の「よげんの書」を記すことはなかったが、誰もが空き地になんらかの秘密基地を持って21世紀に思いをはせた。

藤子不二雄のマンガには、必ず空き地に高度成長期の公営事業の象徴である「ドカン」が横たわり、その土管は、子供たちの秘密基地と化し、子供たちだけの限定したコミュニティを形成していた。

ウェブも、コンピュータも、コンビニも、マンガ喫茶も、ケータイもなく、貴重な情報源はマンガ雑誌とテレビがすべてであった。


◆秘密基地の世界では、原則的に何もかもが共有される

特にマンガは、サンデー担当、マガジン担当、チャンピオン担当、ジャンプ担当と購買したマンガをお菓子とともに共有し、秘密基地でむさぼり読んだ。しかし、一人一冊を購入することによる経済原則の効果は果たしていた。ボクは少年サンデー担当だったので、いまだに思い入れが強い。

少し、小遣いに余裕があると、単行本を貸本屋で借りた。お金持ちの子供は、豪華な本棚にきれいに単行本シリーズを並べた。当時のマンガに対するボクたちの小遣いエンゲル係数は非常に高かった。

そのマンガが、テレビシリーズ化され、映画となり、その映画がテレビで放映される。すでにクロスメディアプラットフォームによるビジネスモデルは昭和40年代から形成されていた。

あの頃は、習い事がブームとなりはじめ、ピアノにそろばん、習字に、お絵かき、柔道、剣道、と子供たちも忙しくなった。ビデオもないので、夜の19時台の番組を見るために必死になって帰路を急いだものだ。翌日の学校は、昨日のテレビやコマーシャル、マンガの話でもちきりだった。

20世紀雑誌少年は、常にメディアに飢えていたのであった。そして、その時間もたっぷりと残されていた。


◆時間を21世紀に戻して…

すでに、誰もが同じ時間を同じコンテンツで、同時に過ごすということは稀有になってきた。オリンピックやワールドカップなどの日本という国単位の競技でないと、大衆という大きな枠組みでは共感できない時代へとなりつつある。

雑多な情報をより深く取り扱う雑誌は、雑多な情報でもなく、深さもそれほどでなくなってきている。

そうした現象を起こした犯人は、言うまでもなく「ケータイ」と「ウェブ」である。

ケータイは、子供、若者から「財布」と「スキマ時間」と「コミュニケーション」を奪った。

ウェブは、机とイスに座っている時間の主要部分を占めはじめ、テレビからアイボール(視聴者の目)を奪い去り、テレビを「ラジオ化」しつつある。テレビは灯されているだけの存在になりつつある。灯されている限り、視聴率は下がらない。

新聞は昨日の株価を何ページにもわたって伝え、昨日までの情報を、今日の新聞と謳って販売している。雑誌はそれを一週間遅れ、もしくは一か月遅れで伝える。

テレビはネットと共謀し、1時間前の出来事、現在進行中の出来事を伝える場面もある。遅くても、夜には、今日の出来事の多くをだれもが無料で把握できるようになった。

ネットのなかった時代、ボクたちは、優秀な記者や編集者の手によって作られたコンテンツを消費することで、多くの情報を得ていた。それ以外は「噂」という信憑性のないものだった。

しかし、パソコンとウェブの普及は、情報発信ツールのコモディティ化(日常商品化)をもたらし、印刷の伴わないブログやSNSなどの、文章を誰もがいつでも書けるプラットフォームの場さえも提供しはじめた。そこで鍛えられた消費者の中には、プロをもしのぐような筆力を見せる人もいる。

消費者が、購入したものについての効能をレアな情報とともに言及し、アフィリエイトで稼ぎ、オークションで売りさばく。それはもうすでに消費者というだけではなく、サプライヤーの一端を担っているという見方もできる。

取材や編集というプロの手による商業的なデコレーションが施された情報に加えて、荒い原石のままでも、目利きの消費者たちが、同時多発的に情報発信を行っている。それらを交通整理したのが「検索エンジン」である。

消費者の行動が検索の市場を作り、市場が認めた被検索サイトはメディア化しつつある。さらに検索はコンテキスト(文脈)とコンテキストの出会いを可能にした。

かつては、どの出版社、どの記者、どのライターというコンテンツのタグ情報が重要であったが、検索はタグよりも、コンテキストを優先している。消費者が本当に求めているのは、タグ化されたブランドパッケージではなく、コンテキストへと変化したからだ。

雑誌の廃刊が続くのは、そんな消費者の変貌という背景があるのではないだろうかとボクは考えている。


ウェブ文化のイニシアティブを握るのは常に「検索」だ。編集者によるリンクも重要だが、マウスとキーボードを前にした人たちは、テレビのリモコンを持つ手と違って、よりアグレッシブで攻撃的に自分の欲望と煩悩を検索窓にたたきつけている。

検索結果を2秒で判断し、サイトを4秒で判断している(コンビニの棚からドリンクを選ぶのと同様だ)。常に、リンクをたどりながらも、インスパイアされた情報も同時にたどりはじめる。

ラジオの崩壊、雑誌の崩壊、続いて、新聞、そしてテレビの順番で秩序は崩れていく…。

ウェブ文化の「検索」というパワーツールとオンラインメディアに、幼い頃から接してきたニュータイプな人たちに対し、ボクたちは、なにを提供できるかが、今後は求められる。

そう21世紀少年たちは、昔に比して人口が少なく、金をかけられて育ち、高度な文化適応能力を持ちえている。

彼らが情報を消費するだけでなく、サプライヤーの一端でもあるかのような動きを起こす情報やモチベーションは何だろうか?

雑誌というメディアは情報を提供するだけであった。しかし「検索」は、その情報で人がどう感じ、どう動いたのかを知ることができる。重要なのはその情報で「検索した後」の行動だ。

…であれば、そこまでを情報として届けることは可能ではないだろうか?

雑誌メディアとネット「検索」文化の融合、そして会員数の増加、それに伴う広告。
雑誌で培ったノウハウとスキルを今こそ、ネットメディアで活かす時なのかもしれない。

そんなメディアの登場を21世紀雑誌少年たちは、自分の部屋の秘密基地でじっと待っていることだろう…。いや、もう自ら創作しはじめているのかもしれない…。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○メディアサボール 2008/09/29
 「雑誌休刊ラッシュに潜むメディアビジネスの地殻変動」
http://mediasabor.jp/2008/09/post_491.html


○湯川鶴章のIT潮流 2008/09/16
 「広告とマスメディアの地位を奪うもの」
 何人の米国人と話しただろうか。2週間の米国滞在中にいろいろな人と
 意見交換する中で、少しずつ自分の考えに変化が出始めた。日本に帰国する
 直前になると、考え方が大幅に変わっていた。今、起ころうとしていることは、
 オンライン広告の進化というだけの話ではない。オンライン広告がマス広告を
 凌駕するどころの話ではない。もはや「Google vs 電通」の図式などどうでもよい。
 これは、広告業界だけでは完結しない、もっともっと大きな話なのだ。
 今始まった動きは、いずれ産業全体を変革するような規模に成長する。
 その具体的な姿の骨組みや基本ルールが見え始めたのだ。このことに気づいた
 ときに、わたしの中を衝撃が走った。
http://it.blog-jiji.com/0001/2008/09/post-f17b.html


○読んだ後に  「広告会社は変われるか 藤原 治著」 2007/05/13
 電通総研社長だった著者が2006年末の退職を機に記した日本の広告会社論。
 電通や博報堂を中心とした日本の広告会社の成り立ちと現状を記すとともに、
 地上波のアナログ停波のタイミングで広告会社が直面する危機を示している。
 広告会社に就職・転職しようとしている人や新入社員、新聞テレビラジオ雑誌
 などのマスメディアの広告の未来に感心がある人にオススメ。
http://ringo.tea-nifty.com/book/2007/05/post_f18a.html


○Business Media 誠 2008/07/07
 「雑誌の読者離れが顕著に――インターネットの影響で」
 具体的にどういった雑誌が買われなくなっているのか。「この1年間で買うことの
 減った雑誌のジャンル」を尋ねると、もっとも多かったのは
 ファッション誌(22%)。以下、一般週刊誌(20%)、パソコン誌(18%)、
 マンガ・コミック誌(18%)が続く。
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0807/07/news098.html


○投資経済データリンク「出版不況--急激に進む紙媒体の衰微」2008/04/16
 この流れは日本だけでなく、世界的な現象です。紙媒体から電子媒体への
 移行は、不可逆的な流れなのでしょう。
http://blog.h-h.jp/investnews/2008/04/16/%E5%87%BA%E7%89%88%E4%B8%8D%E6%B3%81%EF%BC%8D%E6%80%A5%E6%BF%80%E3%81%AB%E9%80%B2%E3%82%80%E7%B4%99%E5%AA%92%E4%BD%93%E3%81%AE%E8%A1%B0%E5%BE%AE/


○そっとプロジェクト@DION 4.0  2008/06/07
 雑誌が売れない---今、雑誌に求められている「個性」とは
 今の日本の雑誌に「雑誌の個性」が消されている、とは自分は思わない。
 ただ、出版社側が作り出す「雑誌の個性」と、読者が求めている
 「雑誌の個性」とがズレているかもしれない。だから、雑誌が売れない
 のではないだろうか。
http://blogs.dion.ne.jp/mame_tanuki/archives/7251266.html

 

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/849