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米ソフトウェア会社がポッドキャストのポテンシャルを徹底追求

世界最大のポッドキャスト・ネットワークを展開するWizzard Media(※1)は、2008年9月9日コカコーラ社POWERadeとのスポンサー契約を獲得した。

Wizzard Mediaは自社ネットワークのSports Enthusiasts(スポーツ・ファン)カテゴリーにおいて、POWERadeのキャンペーンを兼ねたオーディオ・ポッドキャスト・ショーを配信する。サイクリングやランニング愛好者はワークアウトの際にヘッドフォンでポッドキャストを聴く習慣があるため、水分補給用スポーツドリンクの宣伝は効果的と考えられている。(2008年9月9日付BUSINESS WIREより)

※1
音声認識、音声合成を得意とするソフトウェア会社Wizzard Software社(本社ピッツバーグ、1995年創業、従業員50名)の一部門。同社は2005年6月ポッドキャストのホスティング・サービスとしてSwitchpod.comを立ち上げ、2007年3月Wizzard Mediaの名の下にポッドキャスト関連ビジネスを本格化。2007年7月には750万ドルの資金集めに成功。2008年上半期の歳入は2007年同時期より46%増の313万ドルと発表している。

Wizzard Mediaリンク:
http://www.wizzard.tv/
POWERadeリンク:
http://www.powerade.com/


2005年、アップル社iTunes およびiPodにポッドキャスティング機能が追加され、英国BBCが精力的に対応ラジオ番組を配信するなど、ポッドキャストがにわかにメディアで騒がれる時期があった。

3年が過ぎた今日、もはやポッドキャスト熱は冷め切ったように思われる。オンラインでコンテンツを楽しむ場合、YouTubeなど動画共有サイトの方がネタになる。iTunesストアではメジャーな音楽、映像コンテンツが前面に押し出され、ポッドキャストは片隅に追いやられている。

しかしWizzard Mediaは声高に訴える。2007年自社ネットワークを通じたダウンロード・リクエストは10億件以上。視聴者数は1300万人以上。1日のダウンロード・リクエストは平均275万件(2007年)で、前年より300%増。しかも視聴率調査でおなじみニールセン社の裏づけがあるという。

Wizzad Mediaは1万以上の制作者による40万以上のコンテンツをホスティングする。2007年同社が扱ったポッドキャストには、iTunesの各カテゴリーでTOP25になったコンテンツのおよそ3分の1が含まれているとのこと。

Wizzard Mediaの役割は放送局に等しい。ポッドキャストの制作者が同社のホスティング・サイトに番組をアップする。ユーザーがアクセスして番組をダウンロードする。広告主が番組中にキャンペーンやCMを展開する。同社は広告収入を得る。

Wizzard Mediaの広告料は、1000ダウンロードに対していくら(=CPM)と設定されている。ビデオCMは15秒でCPM25ドル、オーディオCMは30秒でCPM15ドルが相場だ。10万ダウンロードのコンテンツに15秒のビデオCMを入れた場合、広告料は単純計算で25×100000÷1000=2500ドルとなる。

広告の例を示すサイト:
http://www.wizzard.tv/advertising-overview/advertising-ad-units-and-examples/


Wizzard Mediaのホスティング・サイトSwitchpod.comでは、ポッドキャストのアップロードに対する課金も行っている。料金は200mbまで無料で、500mbまで月額5ドル、最大で2000mbまで月額30ドルに設定されている。

これらサービスがどの程度成果を上げているかは、社外秘だ。ただし同社2007年の年間報告によれば、Wizzard Mediaは同年10のポッドキャスト広告キャンペーンを行い、中には10万ドル規模に達するものもあったとのこと。広告主にはパナソニック、プーマ、ケーブル局Spike TV、米国海軍などが名を連ねている。

クリス・スペンサーCEOは2008年7月9日の『FOX Business』におけるインタビューで「ポッドキャストの強みは予約視聴(subscription)にある」と差別化している。雑誌の定期購読と同様に番組予約を申し込めば、コンテンツが更新のたびにダウンロードされる。よって、ランダムにブラウズする通常の動画共有サイトよりも、視聴者へのリーチが確実となる。

Wizzard Mediaは、ネットワークの拡大にも精力的だ。動画共有サイトYouTube、veoh、dailymotion、あるいはiTunes、ZuneでもWizzard Mediaのコンテンツが見られるよう提携関係を進めている。最近では複数の動画共有サイトに一括アップロードするサービスtubemogul(http://www.tubemogul.com/)とも提携を始めた。

ちなみに気になるコンテンツだが、たとえばMusicカテゴリーの目玉がクインシー・ジョーンズ(ジャズ界の大御所)の慈善活動ドキュメンタリーというくらい地味である。そもそも低予算でも手軽に作れるポッドキャストだけに、コンテンツもマニアックになりがちだ。

つまらないコンテンツばかり集めても商売にはならない。Wizzard Mediaは優秀なコンテンツを確保するために、広告効果のあったコンテンツには一定の報酬を分配するという前提ありきで、「ある制作者は3ヶ月で5万ドル稼いだ」と成功例をウェブサイトで告知し、制作側のメリットを訴えかけている。

スペンサーCEOが認めるとおり、ポッドキャストはまだ「新参者(new kid on the block)」のメディアであり、あらゆる可能性を徹底追求する段階にある。ワークアウトの際ポッドキャストがヘッドフォンで聞かれる点に着目したスポーツドリンクとのスポンサー契約は、まさに好例と言える。

ダウンロード年間10億件、ニールセン社の裏づけなど、広告主への説得材料は整いつつある。Wizzard Mediaの巧みな戦略が今後どれほどポッドキャストのポテンシャルを開拓するか注目してみたい。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○CNET  2008/02/06
 「電通とcci、ポッドキャスト音声コンテンツへの広告配信システムを
 運用開始」
 PodcastAD(仮)では、複数の媒体およびコンテンツへ動的に広告配信する
 ことを実現した。これにより媒体社は、自社ポッドキャストコンテンツに
 設定された広告枠に効率的な広告集稿ができ、また自社広告や番組宣伝枠
 運用でも柔軟な対応が可能となる。広告主は、期間や露出量に応じて複数
 のポッドキャストコンテンツへの広告出稿が可能になる。
http://japan.cnet.com/marketing/story/0,3800080523,20366737,00.htm


○ITmedia News  2007/05/11
 「Amazon、オリジナルのポッドキャストを公開」
 Amazon.comが、人気作家や俳優へのインタビューや、発売前の書籍の
 プレビューなどのポッドキャストを配信する。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0705/11/news027.html

 

 


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