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オンデマンド自動製本機「エスプレッソ・ブック・マシン」が豪大手書店チェーンにお目見え

<記事要約>

無名の作家や絶版になった本の在庫が、常にいつでもあることが分かっている書店に入ることを想像してみてほしい。

今日、アンガス&ロバートソン社(Angus & Robertson)は、数分でペーパーバックの印刷、裁断、製本を完了できるオンデマンドの「エスプレッソ・ブック・マシン」を設置したオーストラリア初の書店チェーンとなった。

タイム誌は、この自動製本機を「本のためのATM」と呼び、2007年の最も優れた発明(The Best Invention of the Year 2007)の一つに選出している。

最初は絶版になったり、入手しにくい本、数百種類が対象だが、アンガス&ロバートソンによると、範囲は日々拡大され、18ヵ月以内に1万種類に届く予定。値段は、現在書棚に並んでいるペーパーバックと同じか、それ以下になるという。

同書店の標準的な店舗での物理的な在庫は2万種類ほど。取り扱いアイテム数の大幅増は、アマゾンなどのオンライン書店による深刻な脅威に直面する中で、競争力の維持に役立つことになるだろう。

最大のライバルであるディモックス社(Dymocks)は、昨年電子書籍のオンラインストアを立ち上げ、電子書籍リーダーも取り扱っている。現在の電子書籍の総タイトル数は13万超。ただし、グローヴァー最高経営責任者の話では、売り上げは約1万冊で、端末の販売数は数百台に過ぎない。

オーストラリア人は、従来の紙の本の見た目や手触りに飽きた様子を少しも見せていない。

2008/9/18 Sydney Morning Heraldより


<解説>

注文に応じて、その都度本を作るオンデマンド印刷は、これまでにもあったけれど、このエスプレッソ・ブック・マシン(EBM)が大きく違うのは、ほぼ完全自動化を実現していること。電子化されたリストからタイトルを選んでクリックすれば、数分後には、できたてほやほやのほんのり温かい本が出てくるのだ。

【Espresso Book Machine from YouTube】
http://jp.youtube.com/watch?v=mkQa7tHpnn4


人の手が必要なのは、紙詰まりを直したり、裁断された紙のトレイを空にしたり、紙を補給したり、トナーを取り換えたりするくらいで、見た目も扱いもオフィスのコピー機とほとんど変わらない。サイズがもう少し小さくなれば、それこそエスプレッソ・マシンやATMのように、カフェの片隅や街角で見かける日も、そう遠くないのかもしれない。

電子書籍に人々の注目が集まる中、最新のテクノロジーを活かした別の方向で、「アナログな本」が生き残る試みもまだまだあることを感じさせるニュースは、ちょっとうれしい。

EBMは米国のオンデマンド・ブック社(On-Demand Books)が開発し、2006年4月に世界銀行のインフォショップにベータ版が設置された。正式版(バージョン1.5)の一般公開は昨年7月で、90日間に渡ってニューヨーク図書館でデモンストレーションが行われ話題を呼んだ。

現在はサンフランシスコのOCA(Open Content Alliance)やミシガン大学図書館、ニューオリンズ公共図書館などのほか、米国外ではカナダのアルバータ大学キャンパス内の書店、エジプトのアレキサンドリア図書館といった公共性の高い場所を中心に、両手で足りるくらいのEBMが稼働している段階で、今回のような一般書店での導入は珍しい。

アンガス&ロバートソン社は、1年以内にオーストラリアとニュージーランド合わせて50店舗にEBMを設置する計画を明らかにしている。競合するディモックス社は、同様のサービスを1年以内に立ち上げるとしながらも、理論的には何百万というタイトルの提供が可能なのに、現時点では選択が限られているとして、成り行きを見守っている状況だ。

確かに、書籍のデジタル化や、それをめぐる権利うんぬんに関しては、解決すべき課題がたくさんあるけれど、本そのものだけでなく、書店や流通システムのあり方、ひいては出版業界全体を大きく変える可能性を秘めた動きは、現在進行形で起こっていることだけに、さてどっちへ向かっていくのか、と興味深い。

もし、EBMのようなオンデマンド印刷が普及すれば、物理的な店舗の規模と取り扱いアイテム数には相関関係がなくなる。どんな本も決して絶版にならず、在庫切れもなく、どこでも同じように手に入るとしたら、ただベストセラーの本を書棚に並べるだけの書店は存在価値を失う。同時に、「アマゾンでないと買えない本」も存在しなくなるわけだ。そこに行って、手に取って本を見つけたくなるような「魅力的でこだわりのある本屋」が真価を発揮する時は来るだろうか。


【関連情報】

○本屋はやはり重要です---79%が書店での書籍購入頻度は「月に1回以上」
http://www.gamenews.ne.jp/archives/2007/11/791.html


○意識調査:ネット時代に図書館も人気、半数が電子書籍より紙の本派
http://blogch.jp/up/2008/07/15103627.html


○ニートの19歳女の子を札幌『紀伊国屋』に連れてったら感動して泣かれた話
http://e0166.blog89.fc2.com/blog-entry-408.html


○電子書籍、「購入したことがない」が8割を超える
http://japan.internet.com/research/20080130/1.html


○電子書籍端末売れず──ソニーと松下が事実上撤退
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0807/01/news122.html


○“Universal Library”を目指して - Million Book Project
http://current.ndl.go.jp/e727

 

 


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エスプレッソ・ブック・マシン 2010年09月26日 08:22
「マシン」なのか、「マシーン」なのか、そもそも日本語の「ミシン」でしょという突っ......