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需要の伸びに有機農家の確保が追いつかないデンマークのオーガニック事情

「オーガニック」--デンマーク語では“Økologisk”。デンマークではここ数年、オーガニック食品・製品の人気が急激に高まっている。5、6年前に比べても、自然食品店に出入りする人の数は目に見えて増えているし、スーパーマーケットのオーガニック・コーナーも、かつての3から5倍ほどの大きさに拡大。日本からのゲストをこちらのスーパーに連れて行くと、必ずと言っていいほど「これ、ぜんぶオーガニック?」と、その品揃えの豊富さに驚かれる。

なにしろ、野菜や果物をはじめ乳製品、パン、パスタ、香辛料、肉、お菓子、ワイン、ビール、コーヒー、紅茶、調味料、そして子供の肌着なども揃っていて、オーガニックとそうでないものとを選べるのだ(ちなみに、オーガニック・タバコ(!)もあります)。

デンマークでの有機農業への取り組みは、再生可能エネルギーへの取り組み同様、早かった。1960年代から始まった有機農業についての議論は、62年に出版されたレイチェル・カールソンの『沈黙の春』をきっかけに本格化。農家が実際に有機農業に取り組み始めたのは70年代後半である。そして81年に全国有機農業協会が発足、その6年後に国会で国内初の有機農業生産に関する法律が制定された。当時のEC(欧州共同体)が初めて有機農業による植物生産に関する法令を公布したのは91年、畜産に関する法令配布は99年。国際的には、国連の食料農業機関FAOが世界規模の条例づくりに取り組んでいる。

では、オーガニック商品を買うメリットとはなんだろう? 全国有機農業協会では、その答えとして以下の12項目を挙げている。1.残留農薬なしの食事を摂れる。 2.ビタミンや抗酸化物質など、身体にいい成分がより多く含まれる。 3.より味わい深い。 4.地下水を農薬から守ることができる。 5.添加物や合成着色料など、不必要な物質を含まない食事を摂れる。 6.遺伝子組み換え食品を食卓から排除できる。 7.川や湖などの環境改善に貢献できる。 8.自然保護に貢献できる。 9.家畜としての動物たちに、より自然でよい環境を与えることができる。 10.国が認可した印としてオーガニックマークがついているので、みんなが信頼し、安心して購入することができる。 11.例えば貧しい国など海外からの輸入品を購入する場合は、コストがかかる人工肥料や危険な農薬を使わない農業を支援できる。 12.自然に即した農業を行う有機農家を支援することができる。

中でも、9.の「家畜福祉」はデンマークの人々にとって大切な事柄の一つ。今年8月には国会において、新たに向こう4年間で9000万DKK(約17億5千万円)を家畜の福祉と健康に当てる法案を可決したことも、それを物語っている。しかし、デンマーク人でなくても、例えば従来の畜産農家では子豚が麻酔なしでしっぽを切られ、歯を削られたり、抜かれたりする現実を知ってしまうと、たまらない気持ちになる。できることなら肉類やたまごを食べる回数を減らし、のびのびと幸せな時間を過ごした動物たちを、感謝の気持ちで頂きたいと願う。

日本での生協にあたるSuper Brugsenは、オーガニック商品の品揃えが最も充実しているスーパーマーケットのひとつだ。75デンマーク・クローネ(DKK約1500円)を払えば会員になれて、支払い時に見せれば割引になるカードがもらえるが、もちろん会員にならなくても買い物はできる。オーガニック野菜や果物は独立して棚が設置されているし、その他のオーガニック商品は店内の至る所で見つけることができる。

ホームページを見てみると、「オーガニック商品の需要の伸びに、有機農家の確保が追いつかない状況です。現状でも最低250の有機農家が不足しており、このまま需要が増え続ければ、近い将来深刻な商品不足が懸念されます」と記されている。そのため、Super Brugsenでは昨年の8月8日に、その日のオーガニック商品の全売上の20%にあたる30万DKK(約590万円)を全国有機農業協会に寄付、オーガニック・コンサルタントが農家の現状診断をして、農家の人と一緒に、どうやって持続可能な形で有機農業にシフトしていくかについてアドバイスやサポートをする費用にあてて有機農業を支援している。

消費者の求めるオーガニック商品の供給をより増やすため、販売する側も積極的に協会や農家に働きかける姿勢は、国民からも好意的に受け入れられている。そういう理由に加えて、デンマークの好景気もあいまって、一時はこうしたスーパーに客が流れかけたが、安売りスーパーもオーガニック商品の品揃えを充実させ、巻き返しを図っている。

オーガニックとそうでない商品の価格差は、商品の種類によって、また店によって大きく異なる。ある調査を例にとると、平均してじゃがいもは34%、オートミールは37%の価格差があるという結果が出ている。また、私がスーパーをまわって簡易調査をした結果、牛乳はおよそ2から4DKK(約40から80円)、牛ひき肉は1kgあたり約30から50DKK(約600から1000円)の差があった。はっきり言って高い。この国では付加価値税が25%なので、ただでさえモノが高いと感じるのに、それでも、自分のこと、家族のこと、有機農家のこと、動物のこと、大地のこと、水のこと、自然のこと、環境のことを考えてオーガニック商品を選び、有機農業を選ぶデンマーク人は確実に増えているのである。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○オーガニック・ブログ  2008/10/05
 「BioFach Japan 2008 (オーガニック専門展示会)」
  今年のビオファッハジャパンでは、オーガニックコスメやオーガニックコットン
 など食品以外のオーガニック商品の出展が目立っていた。諸々の事情で、日本の
 オーガニックマーケットを代表するビオマーケットさんが出展できなかったこと
 もその印象に輪をかけたのかもしれない。生活のシーンで食べること以外にも
 オーガニックが広がっていることは、とても素晴らしいことだと思うが、やはり
 オーガニックは有機野菜をはじめとしたおいしい食べ物が主役。
http://organic.no-blog.jp/weblog/2008/10/bio_fach.html

 

 


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