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オバマ対マケイン 大統領選挙直前にして囁かれる“ブラッドリー効果”

大統領選挙まで一ヶ月を切った。ある意味で、ここまでドラマチックな大統領選挙はなかっただろうと思う。昨年までの選挙の争点はイラク戦争だった。イラクからいかに米軍を撤退させるか、あくまで完全勝利を目指すマケインと、早期撤退を主張するオバマの間で派手な論陣が張られていたが、今年に入って起こった原油価格の高騰が、イラク戦争の話題をはるか彼方に押しやってしまった。

脱石油社会を目指すという点ではオバマもマケインも同じ方向性だったが、原発推進を目指すマケインと、代替エネルギー派のオバマでは、これまた大きな齟齬があった。オフショア石油の採掘によって少しでも早く現状を回復させようというマケインと、当初はオフショア採掘に反対の立場をとってきたオバマの間で再び熱いディベートが行われた。

そして起こったのが経済問題である。リーマンブラザースの破綻で幕を開けたこの騒ぎによって、ダウジョーンズは歴史的な下げ率を記録し、政府が用意したベイルアウト(救済策)も効果薄。サブプライムの影響による大恐慌の到来まで囁かれている。

そんな中での大統領選挙の大詰めシーンは、マケインからオバマの方にバランスが傾いている。共和党による経済体制の結果のバブル崩壊だ、というオバマの主張が受け入れられて、現在のところ50対42でオバマがリード。投票日まであと一ヶ月の現在、この差はかなり大きい。このままオバマがゴールイン、という見方をするマスコミも多いが、ここで囁かれているのが“ブラッドリー効果”である。

ブラッドリー効果という名前は、かつてのロサンゼルス黒人市長、トム・ブラッドリーから来ている。1982年、カリフォルニア州の知事に立候補したブラッドリーは、それまでの世論では優勢が伝えられていたにも関らず、対立候補のジョージ・デュークメジアンにあっさりと敗退した。原因は単純なことだった。当時、市長としてその手腕が広く認められていたブラッドリーだが、黒人知事の存在に関してはまだまだ多くの市民が抵抗感を持っていた。しかし、当時実績、手腕の両面でデュークメジアンをしのいでいたブラッドリーを支持しないことは、人種差別主義者であることを表明しているようなものであり、それを恐れた人々が虚偽の申告をした、というのが真相らしい。

CNNは10月、今回の選挙戦でブラッドリー効果は果たしてどの程度まであるか、という特集を組んだ。この中である政治学者は、6%程度まで考えられると発言している。現在のところオバマとマケインの差は8%、ブラッドリー効果を勘案すると磐石とはいえないリードということになる。

CNNラリー・キングライブに登場したミシェル・オバマ婦人は、ブラッドリー効果は過去の遺物と笑い飛ばしたが、依然としてかなりの接戦であることは間違いない。乱暴にいえば、民主党支持者にとってオバマを支持しない理由は、人種以外に見当たらず、オバマ支持を表明するのはリベラルにとってのひとつの踏み絵なのだ。直前になってマケインに投票する層が殆どいないと考える方が不自然である。21世紀になってアメリカはブラッドリー効果を乗り越えたのか。結果が分かるのはあと一月弱である。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○園田義明めも 2008/10/19
 「ブラッドリー効果」と「逆ブラッドリー効果」
 最近明らかになったのが、「逆ブラッドリー効果(reverse Bradley Effect)」
 の存在。今年の予備選ではサウスカロライナ、アラバマ、ジョージアなど
 黒人が多い州では、事前の世論調査より、実際のオバマの得票の方が高くなる
 という逆転現象が生じています。これが「逆ブラッドリー効果」。
 いずれにせよ人種問題が大きく左右するということ。しかも、依然として
 「逆」よりも「ブラッドリー効果」の方が影響大だと思われます。
http://y-sonoda.asablo.jp/blog/2008/10/19/3831069


○海洋戦略研究  「ブラッドリー効果」 2008/10/19
 黒人候補には投票しないとの回答は、1958年の53%から2003年の
 6%へと激減した。黒人候補に対する米社会の受け止め方は、大幅に改善
 しているようである。ブラッドリー効果は、既に以前から分かってたこと
 であるが、今頃騒がれるようになったのは、オバマ氏に対し油断すること
 なく頑張れとするマスコミの応援なのであろうか。興味深いことである。
http://blogs.yahoo.co.jp/hiromichit1013/57235091.html

 

 


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