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ブラジルの選挙電子投票システムは安全性が問われるも環境保護に貢献

<記事要約>

選挙司法高等選挙裁判所(TSE: Tribunal Superior Eleitoral) は、この12年間の電子投票機器による選挙が環境保護に貢献したことを発表した。1996年の全国電子投票システムの確立から、1万8720本の木、もしくは11万2千平方メートルの森林を伐採せずにすみ、紙を生産するために使用する5億544万リットルの水が節約された。2008年の統一地方選挙では、14万8200キロの紙、2千965本の木が節約されることになる。

http://www.agenciabrasil.gov.br/noticias/2008/09/21/materia.2008-09-21.2887483492/view
ブラジル通信社(Agência Brasil,)2008年9月21日

 

<解説>

2008年10月6日に行われた統一地方選挙の第1回投票では、約1億2800万のブラジル人が投票所へと足を運んだ。1万5千人の候補者から5千563人の市長、34万8千人の候補者から5万2千人の市会議員を選ぶ大規模電子投票だ。選挙司法高等選挙裁判所によれば、9万4034地区に46万2600の投票機器が配置された。

今回の選挙で結果と共に注目されているのは、世界でも進んでいるとされる、ブラジルの電子投票システムだ。今回の選挙司法高等選挙裁判所の環境保護貢献への発表は、安全性の問題が指摘される中、海外輸出に向けて少しでも電子投票の印象をよくしたいという意図も含まれているのだろう。

ブラジルの電子投票の誕生については様々な議論がなされているが、80年代の軍事政権時代には、電子投票に向けた研究がなされていたという。1982年のリオデジャネイロ州知事選挙で起こった「Proconsult事件」と呼ばれる不正未遂事件がきっかけとされる。当時の選挙は電子投票ではなかったが、最終集計はコンピューターで行われていた。軍事政権の一部が、当時リオデジャネイロの州知事候補であったレオン・ブリゾラ(PDT)を落選させるべく、コンピューター集計を担当していた企業、Proconsultと共謀し不正を図ったのである。その後不正を不可能にすべく、軍事政権自ら研究に乗り出した。

電子投票プロジェクトはComando-Geral de Tecnologia Aeroespacial (CTA)と、ブラジル国立宇宙研究所(INPEInstituto Nacional de Pesquisas Espaciais  Inpe)のエンジニアグループが企画し、その中でもPaulo Nakaya (INPE) とOswaldo Catsumi(CTA)という、日系ブラジル人が中心になった。IBM社、Procomp社、ユニシス(Unisys)社が企画に参加し、最終的にユニシス社が大きく台頭することとなった。

1985年選挙司法高等選挙裁判所により試験使用が行われ、また1989年にサンタカタリーナ州、Brusqueで、初めて電子投票システムが使用された。しかし今日使用するテンキー方式は1995年に開発され、1996年に地方統一選挙で初めて使用された。選挙のたびに新しいモデルが採用されており、1998年から2000年までは、VirtuOS、2002、2004、2006年のモデルはWindows CE、そして2008年は Linuxだ。

連邦共和国選挙法に規定されるブラジルの電子システムは、投票集計のスピードアップと選挙の透明性を高めるのを目的としている。投票終了時間から最短6時間で開票結果が出るこのシステムは、集計に何日もかかっていた時代に比べれば革新的だ。候補者の顔写真と候補者番号がディスプレイに表示されるため、文字が読めない有権者の投票簡易化にもなった。


ブラジルの電子投票システムは、2001年より他国に輸出されてきたが2006年を境に停滞気味だ。パラグアイは2001年、2003年、2004年、2006年にブラジル式を採用。しかし2008年の大統領選挙では安全性を理由に、裁判所により使用が禁止された。アルゼンチン、メキシコ、エクアドルでは使用テストの結果、ブラジル式の不採用を発表。米州機構もブラジル式に疑問を投げかける。

2008年統一地方選挙の第1回投票では、機器の故障や盗難問題が大きく報道された。安全面での疑問は国内だけでなく世界中が注目している。ブラジル選挙司法高等選挙裁判所は、新しいモデル、Linuxが安全だということを強調している。しかし機器故障多発も含め、ブラジルの模索はまだまだ続きそうだ。そして世界では、電子投票そのものへの安全性の問題もさらに議論されていくことだろう。

<参考>
http://www.rondonoticias.com.br/showNew.jsp?CdMateria=78248&CdTpMateria=7

 


【編集部ピックアップ関連情報】

○MediaSabor  2008-07-31
 「経済混乱を乗り越え、環境変化に柔軟に対応するブラジルIT業界動向」
http://mediasabor.jp/2008/07/it_2.html


○わからない日本文化  「ブラジルの選挙」 2008/10/17
 ブラジルでは投票が義務となっています。即ち、何か用事があったり、投票する
 候補者がいないような時でも投票に行かなければならない。
http://blogs.yahoo.co.jp/ken_izuyama/2176500.html

 

 


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