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アメリカに見切りをつけ、海外で職探しを始めた米ビジネスパーソンたち

  • 米国在住モチベーション・コンサルタント&コーチ 
  • 菊入 みゆき

 失業率6.1%、雇用者数は前月から15万9000人減少。9月の米労働市場の実態だ。雇用者数は9ヶ月連続して減少しており、特に9月は、2003年3月の21万2000人減以来、5年半ぶりの大幅な落ち込みである。失業率全米ワーストワンのミシガン州では、9%近い数字が出ている。金融危機、景気後退で労働力需要は減っているにもかかわらず、夫の失職や収入減などから家庭にいた主婦たちが職場復帰を試みたり、金融資産が激減してしまったリタイア予定者たちが退職時期を引き延ばしたりと、労働力供給は増えるばかりだ。

 そんな中、国内で職を探すことに見切りをつけたビジネスパーソンたちが、海外に就職先を求め始めた。

 管理職専門の人材紹介会社コーン・フェリー・インターナショナルが最近行った調査では、438人の回答者のうち53%が、「最良の雇用機会は、ブラジル、ロシア、インド、中国といった発展途上経済圏にある」と答えた。アメリカ国内では供給過剰になっている金融専門家の就職口も、アジア、中東、中欧、東欧には、まだ十分ある、という。 「ドバイ(アラブ首長国連邦)などへのゴールドラッシュ現象が起きています」と、人材紹介会社のアレックス・アルコットさんは言う。北京、上海、モスクワなども、金融関連の人材募集が多い都市リストに挙げられる。

 ヘッジファンド、投資銀行専門の人材紹介会社社長、ロバート・オルマンさんは、少なくとも2009年の第二四半期までは、米金融業界での雇用安定はないと見る。昨年以来、海外への就職を希望する顧客は増え続け、3倍にまで達している。以前の顧客で、数十億ドル規模のヘッジファンドに勤めていた男性が、6月に退職、上海の株式投資業界で可能性をあたるため、家族とともに引っ越して行った、という例もある。

 ヨーロッパも、求職者が目を光らせる地域だ。人材紹介会社スタントン・チェイスのダラス支店では、あるデンマーク企業のCOO(最高執行責任者)募集という案件を扱っているが、現在、7人が応募してきている。昨年なら、このようなケースには一人か二人の応募があればいいほうだった。ダラス支店の責任者エド・モーブさんは、20年間人材紹介に携わっているが、「人々が、これほど喜んで海外に就職して行くのは、これまで見たことがない」と言う。7人の応募者の一人、ジェイ・キャロンさん(37歳)は、製造会社の取締役副社長だったが、8月中旬に失職。妻と幼い子供二人を抱えており、就職口があるなら国内・海外問わず、どこへでも行く覚悟だ。デンマークは英語が通じるし、経済が安定しており、地政学的な状況も魅力だという。

 とにかく今、米国内で就職するのが、ほんとうにむずかしい。アルバート・リムさん(30歳)は、ニューヨークの金融サービス会社に勤めていたが、5月にレイオフされ、以来就職活動を続けるも、いまだ朗報はない。アメリカでの職探しは無駄だと悟り、今は、上海に移って就職先を探すことを考えている。中国語は話せないが、とにかく現地の経済が伸び続けているというのが、上海にターゲットを定めた理由だ。

 大学も動き出した。マサチューセッツ工科大学のスローン経営学大学院は、学生たちが香港、ロンドン、上海、中東の投資銀行会社への関心を高めているため、今回初めて、香港への求職ツアーを企画する。コネチカット大学大学院の就職課でも、海外オフィスでの人材募集がある会社を、キャンパスの就職イベントに招こうとしている。これは、失職した卒業生たちの救済策でもある。

 景気の先行きはいまだ見えない。労働市場にも明るい要素はなく、好転の兆しはない。アメリカ人の海外での求職という動きは、今後も増えていきそうだ。これまで、世界中から多くの人が、自由と成功を求めてアメリカにやってきた。この金融危機で、逆の人口移動が一つの流れになるのかもしれない。海外に新天地を求めて行くアメリカ人たちは、どのような形で、世界経済に関わるのだろうか。

 海外での就職、特に家族を伴っての移住には、多くの困難が伴う。言語、子供たちの教育、異文化への適応など、問題は山積みだ。アメリカに渡ってきた人たちが直面してきた問題に、彼らもまた取り組むことになる。それらをクリアしつつ、ビジネスでも成功しなければならない。しかし、もしそれが成し遂げられれば、海外就職者たちは、アメリカとのネットワークを活かし、母国と現地の経済活性化に一役買うなど、新たな動きを形作ることも考えられる。彼らの動向に注目していきたい。


<参考記事サイト>
Wall Street Journal 2008/10/16  Financial Jitters Spur Interest in Jobs Abroad
http://online.wsj.com/article/SB122411853414838967.html

 

 


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