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オリバー・ストーンのブッシュ大統領伝記映画『W.』に「なぜ?」

米国では2008年の大統領選挙を18日後に控えた驚くべきタイミングで、現職大統領ジョージ・W・ブッシュの伝記映画『W.』が公開された。しかし、その期待に反する内容に「なぜ?」と疑問の声も多い。

監督はオリバー・ストーン。これまでも『JFK(1991)』『ニクソン(1995)』『ワールド・トレード・センター(2006)』とアメリカ史上における大事件をテーマにした作品で今日の地位を築いた社会派の巨匠である。

リベラル(左派)で知られるストーン監督だけに保守派のブッシュをメッタ切りと思いきや、控えめな内容にアメリカ人は拍子抜けしたようだ。10月17日公開最初の週末興行成績は1055万ドルで4位止まり。評論家のレビューを総合的に分析するRotten Tomatoesにおいても、好意的評価は54%で「rotten(腐った)」と認定された。

Rotten Tomatoesリンク:
http://www.rottentomatoes.com


映画は、酔っぱらいで出来損ないのブッシュ青年が、父親にたしなめられながら、やがて福音主義にめざめ、テキサス州知事からアメリカ大統領にのぼりつめる過去を、イラク戦争に踏み切る現在と平行して描いている。多少コメディの味付けをした、まっとうな人間ドラマである。

冒頭、観客のいないスタジアムに現れるブッシュ。野球コミッショナーになりたかった男の夢が象徴的に描かれている。そして物語は優秀な父親ブッシュとの葛藤を軸に展開する。イラク戦争への決断も、父を見返す気持ちからといわんばかり。もし本当だったら大問題である。

一方で、薬物乱用、疑惑の2000年大統領選挙などスキャンダルは控えめに扱われている。マイケル・ムーア監督『華氏911』のわくわくするような陰謀論は皆無。1946年生まれのストーン監督は同世代ブッシュに極めて同情的な描き方をしていると言える。

この映画は5月に撮り始めあっという間に出来上がったやっつけ仕事との声もある。ストーン監督は、ベトナム戦争ミライ地区(ソンミ村)の大量虐殺に関する映画が昨年末の脚本家ストの影響でキャンセルされ、急遽予定を変更してブッシュ大統領の伝記映画を作ったという。

もっとも1986年からテキサスでブッシュの政治活動をカバーしてきたジャーナリスト、ウェイン・スレイター氏は10月17日付けThe Dallas Morning Newsにおいて『W』を「非常に正確」と評している。それだけストーン監督は慎重だったわけだ。

ブッシュ大統領を演じるジョシュ・ブローリン(『ノーカントリー(2007)』主演)のなまりやしぐさを忠実に再現したなりきりぶりは評価が高い。チェイニー副大統領、ライス国務長官、ラムズフェルド前国防長官、パウエル前国務長官などおなじみの面々が議論するホワイトハウスの再現も面白い。カール・ローブ前大統領上級顧問のフィクサーぶりも健在だ。

この映画、ブッシュ人気の乏しい日本でのヒットはとうてい厳しい。ましてや公開される頃(未定)には政権も変わり、映画のインパクトが薄れてしまうだろう。

しかし、アメリカ政府の裏側を理解する教育的意義はありそうだ。なぜおバカな大統領が成立するのか? なぜ国内の経済を犠牲にして戦争するのか? 『W.』を見ればそんな素朴な疑問に対する答えが見つかるだろう。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○「 W.」 Extended Trailer(YouTube映像 02:04)
http://jp.youtube.com/watch?v=weELpc3pYMs

 

 


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