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2011年4月から病院レセプト業務が原則オンライン請求化、NTTデータとNECが協業で合意

 NTTデータとNECは去る10月27日、医療機関が医療費を審査支払機関へ請求する際のレセプト(診療報酬明細書)をインターネットでオンライン請求化するというサービス事業において、協業することで合意したと発表した。

 会見では、NTTデータから医療福祉事業部長の富田茂氏、NECからは医療ソリューション事業部長の山口琢也氏がそれぞれ出席した。今回の協業は今年4月に厚生労働省が示した「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン(第3版)と、改正された「療養の給付、老人医療及び公費負担医療に関する費用の請求に関する省令」によるオンライン化スケジュール(平成23年4月までに原則すべてオンライン化)の開示などが、医療分野への進出を狙う両社に拍車をかけたようだ。

 レセプト請求におけるオンライン普及率は、400床以上の大病院ではすでに90%を超えている(ほとんどが専用線によるオンライン化)が、400床以下の病院、診療所、調剤薬局ではまだ20%にも達していない。この4月からはセキュリティーの高いIPsec + IKE によるVPNを利用する事を条件に公衆網のインターネットを利用したレセプトデータ送付が認められるようになった。そこで、NTTデータがOD─VPNアダプタというルータを使った接続サービスの基盤を提供し、NECがビッグローブをはじめ専用端末などの周辺機器を提供するという協業のカタチが出来上がった。

 ところで、「病院の保険請求業務なんて一般人には縁が無いではないか」「それがいったい患者にどう関わってくるのか…」と訝る読者の方も多いと思うので、ここで改めて健康保険の仕組みとレセプトについて簡単に説明を加えておきたい。私たちが普段目にすることのないレセプトだが、患者にとっても重要なものであることがお分かりいただけるのではないかと思う。

 私たちは病院で診察や治療を受けるとき、必ず「健康保険証」の提示を求められるが、この健康保険証を使った診療はすべて「保険診療」ということになる。そして病院は、窓口で患者から受け取る患者負担額(3割)を控除した残りの7割を審査支払機関というところを通じて保険者(健康保険組合など)に請求するのだが、このときの請求書がレセプト(診療報酬明細書)と呼ばれるもので、レセプトには診療行為の内容が細かく記載される。

 診療報酬という予め定められた価格に照らし合わされたもので、1点が10円で計算されレセプトに記載されるので、このレセプトを見れば自分の受けた診療内容とかかった医療費がわかる。もしも、受けてもいない検査項目などが記載されていたとしたら、それは不正請求という可能性もあるのだ。レセプトは治療を受けた本人、あるいはその遺族であれば一定の手続きで開示請求ができることになっている。このように、レセプトは患者にとってカルテ(診療記録)と並んで重要な書類といえるのである。

 言うまでもなく医療行為を行うのは医師や看護師などの医療者だが、病院の医療事務担当者がこのレセプト業務を行うことによって初めて、それらの医療行為が医療機関の収入になる。レセプトによる保険者(国民健康保険や社会保険など)への請求は、月単位で月末締めの翌10日までに提出することになっている。その後、審査支払機関のチェックを受け、およそ2カ月後に保険者から医療機関に支払われるというのが流れである。

 さて話しを戻すと、レセプトは現在のところ「紙」でも「電子媒体」でも請求が出来るが、前述のように国は平成23年4月までに約22万の医療施設・調剤薬局において、原則として全てオンライン請求化することを目指している。しかし、大病院はともかく小規模病院や診療所、薬局などではオンライン化のための専用回線を結ぶのは経費がかかりすぎて現実的ではない。通常の電子メール添付ではあまりに危険なため認められていない。レセプトには氏名、年齢、性別はもとより、生年月日、病名、診療内容、投薬された薬の名前までこと細かに記載されているからだ。

 そこで、この4月からデータを送信する時だけ、インターネットの中にトンネルを通すような形で、安全な送信ルートを構築できるIP─VPN(Internet Protocol─Virtual Network)での利用を認めた厚生労働省のガイドラインが発表された。この接続方法は、通信事業者が保有する広域ネットワーク網と医療機関に設置されている通信機器とを接続する通信回線が他のネットワークサービスと共用されない接続方式で、盗聴、侵入、改ざん、妨害の危険性は低い。これが、今回NTTデータが提供するルータでIPsec + IKE というオンデマンドな接続を可能にする。また、NECはレセプトオンライン請求に必要な専用端末MDGR(メドギア)などをパッケージで提供する。この両者の方向性が今回の協業に繋がったものといえる。

 しかし、これですべてが解決するかというとそうではないようだ。実際にレセプト業務を担当する現場の意見を聞いてみると、レセプトのIT化にはまだ乗り越えなければならない問題があるようだ。

 たとえば、レセプトが審査支払機関に提出されると、請求内容が保険診療として相応しいかどうかのチェック(一次審査)をされるが、それは人間の眼によるチェックであることがあげられる。電子レセプトといっても「紙」のかわりに画面を見るというだけで、ロジカルチェックを行うわけではないという。したがってチェック漏れやチェックの甘い辛いなどの問題が発生する。

 つぎに、保険診療が認められ、審査支払機関から医療機関に診療報酬が支払われると、その代金は保険者に請求することになるが、このときの請求書はまだほとんど「紙」だというのだ。電子 → 紙 → 電子といった非効率的な情報伝達になっているという。

 さらに、保険者は審査支払機関では行わない入院前後の数ヶ月を串刺しにした縦覧点検と調剤突合点検というものを行うのだそうだが、これらはすべて手作業での捜索、抽出、目視という人海戦術でこなしているという。つまり、レセプトの具体的な中身はほとんど電子化されていないのが現状だという。病院、審査支払機関、保険者の業務を一元的に電子化するには医師会の協力など、まだまだ多くの問題を抱えているようである。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○薬事日報 「薬局のオンライン請求、早期対応を」 2008/07/09
 万が一、医療情報が漏洩した場合、漏洩した薬局の信頼が著しく損なわれるのは
 言うまでもない。セキュリティの高い回線確保が、薬局の大きな課題になっている。
http://www.yakuji.co.jp/entry7343.html

 

 


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