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米国では、5人に1人が「逆ザヤ」ホームオーナー

  • 米国在住ジャーナリスト

(記事概要)

 驚いたことに、ラスベガスのあるネバダ州でローンを抱えるホームオーナーの半数近くは、家の価値よりもローン残高が上回っている。さらに、カリフォルニア、アリゾナ、フロリダ、ジョージア、ミシガンの各州を含めると、6割近くのホームオーナーが同様の状況に陥っている。

 全米に対象を広げると、こうした現象に見舞われているのは約5人に一人のホームオーナー。しかし、先にあげた各州を差し引くと、その割合は約10人に一人まで減少する。10月31日にファーストアメリカン・コアロジックスから発表された資料によって明らかになった。

 このデータは、いま米国で起きている住宅リセッションのよろめきを強調している。何人かの専門家は、問題はさらに悪化すると予測し、そのうちの一人であるニューヨーク大学で経済学教授を務めるノーリエル・ロービニ氏はこう分析する。

 「全米的な住宅価格は2006年中盤をピークに下降を続け、すでに20%の落ち込みを見せているが、住宅市場が底を打つまでには恐らく40%の下げ幅を記録する」。「4割のホームオーナーが住宅価値よりも多くのローン借入残高を抱えることになる」。おまけに、いつ住宅市場が底を打つのかは予測できないという。

 アメリカン・エンタープライズ・インスティチュートのデスモンド・ラクマン氏も悲観的な予測を立てるアナリストの一人だ。「政府が大規模な介入に動くまで、真に底を打つことはないだろう」という。(USA Today 10月31日付け AP配信記事から)


(解説)

 サブプライムローン問題に端を発する米国の住宅問題は、差し押さえに遭い家を失った人だけでなく、ローンを支払い続けている人々にもじりじりと影を落とし始めている。住宅価格が急激に落ち込んだことで、マイホーム時価が住宅ローン残高を下回る「逆ザヤ現象」が起こり、売るに売れない状況に陥っているためだ。

 高い利息を含んだローンを支払い続けるぐらいなら大損を覚悟で売ってしまうか、それとも長期的な住宅市場の持ち直しを期待して持ち続けるか。低金利を背景に安い利率のローンへの借り換えという手もあるが、金融機関の体力が弱っている現状では審査に通ることも難しくなってきている。30年ローンの固定返済利率の平均はこの1週間で0.5%上昇し、6.46%になった。金融市場の混乱が原因だ。

 ファーストアメリカン・コアロジックスでチーフエコノミストを務めるマーク・フレミング氏によると、過度な住宅建設を行った施工者や、頭金ナシもしくは少ない頭金で物件を購入した人の多い郊外地域で問題が一層深刻化しているという。

 数年前に住宅価格の高いこれらの地域で家を購入した人々にとって、現在の価値の下落は深刻な問題となって降りかかってきている。今年7─9月に住宅を売却した人の割合がここ4年間で最低の数字を記録したのを見ても、下がり続けるのを分かっていながら塩漬け状態にせざるを得ない苦悩が浮かんでくる。

 公的に大規模な介入がない限り市場の盛り返しは見込めないとする声も出るなか、政府も腰を上げ始めた。住宅オーナー向け救済計画が検討され、まもなく決定する。連邦預金保険会社(FDIC)が中心となって実行される見通しで、住宅差し押さえの危機に瀕する300万人のホームオーナーを救うものとなる。複数のプランを検討中ということで内容は未定だが、政府による低金利貸付金なども予想されている。

 米国の住宅市場を眺めていると、どうしても暗い方向へ行きがちだ。なにか明るい話はないのだろうか。

 相場の下落は資金を用意できる人にとって買い時でもある。何しろ、差し押さえ競売物件など1年前の住宅相場の半額以下で手に入るのだ。少々通勤時間が長くなるのを我慢すれば、場所によってはわずか5万ドル(約490万円)程度から一戸建て物件が転がっている。

 こうした格安物件を狙う人たちも徐々に増えていて、それが住宅市場の安定化に少しずつ貢献しているという。相場が落ちるところまで行き着けばいずれ需要は回復する。自然発生的な市場バランスに期待するといったところか。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○神と悪魔の狭間で...  2008/10/03
 ドル崩壊への序章:米国金融機関を襲うCDSという「大量破壊兵器」 
 CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)市場は1995年頃に誕生した。
 初めは相互保証によるリスク分散を目的とした銀行間契約が主で、市場規模も
 小さかった。しかし、そこに保険会社とヘッジファンドが目をつけ、住宅ローン
 などの小口契約に適用した。保証がつけば怪しい債権にも高い格付けができる。
 これがサブプライム層への融資を加速させ、同時にCDS市場も急激に拡大した。
 その結果、CDS市場は、2007年末には想定元本で62兆ドル
 (6600兆円)までに膨れ上がった。その約6割はヘッジファンドが
 抱えるという。
http://cybervisionz.jugem.jp/?eid=110


○LiveStrongを目指すブログ 「金融危機:ここまでのまとめ」 2008/10/07
 CDSとは一種の貸し倒れ保険のようなもので、貸し倒れのリスクの高い
 債権を第三者に保障してもらい、その第三者は変わりにリスクプレミアム
 を受け取るシステムです。これにより銀行や証券会社は莫大な貸倒れ準備金
 を積む必要がなくなったため、さらに市場での不動産債権の販売に精を
 出すことになりました。
http://blog.livedoor.jp/cozmolivestrong/archives/375649.html


○新保豊の時々感想帳 2008/10/10
 【一言】「ポスト金融危機のグローバル資本主義」の勝手な解説
 「誰が危ない資産を保有しているのかわからず」とは、今はその通りです。
 しかし、当初はそうでもなかったはずなのです。つまり、
 サブプライムローン問題は、ちょっと前の勝ち組(最近、証券業から
 銀行業へと慌てて稼業を鞍替えしている金融プレイヤー)が中心になって
 仕掛け、他人の資産を収奪することで自分では大もうけをしてきたと推測
 できるからです。米国の主要金融機関は、「疑心暗鬼」になっていますが、
 今の勝ち組も負け組も、サブプライムローン・ビジネスでは、過去大いに
 儲けてきたことを世界は忘れてはなりません。何せ直接には関係ない
 まともな産業や人々の生活まで、いまや脅かされてきたわけですから。
http://shimbo-yutaka.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/post-1885.html

 

 

 


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