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ビッグマック指数はもう古い? 各国の購買力を比較する「iPod指数」

<記事要約>

コムセック証券が発表する「iPod指数(iPod Index)」によると、アップル社のiPodが世界で一番安く買えるのは、オーストラリアだという。これは、過去数ヵ月の間に、オーストラリア・ドルが劇的に下がったことを浮き彫りにしている。

iPod指数は、各国の通貨を比較するために、世界62ヵ国で「iPod nano(8ギガバイト)」の価格を調査したもの。7月時点で14位だったオーストラリアが、今回は最安国となり、価格は米ドル換算で$131.95だった。

同証券のチーフエコノミスト、クレイグ・ジェームス氏は、「イギリス人観光客がオーストラリアでiPodを買えば、自国で買うよりも約25%安い値段で済む」という。

2008/11/03 Australian ITより


<解説>

世界各国の物価水準を測るモノサシとしてよく知られているものに、「ビッグマック指数」がある。約120ヵ国で店舗を展開するマクドナルド社のビッグマックの価格を調査した結果から、各通貨の購買力を比較して、適正水準の為替レートを探ろうというもので、イギリスの経済紙「エコノミスト(The Economist)」が1986年から毎年発表している。

英語で「ハンバーガー(hamburger)」と「経済学(economics)」を組み合わせた「バーガーノミックス(Burgernomics)」なる造語が普及したのは、ビッグマック指数が「購買力平価(PPP)」の概念をシンプルに示すことができたから。

iPod指数は、その21世紀版という触れ込みで、昨年1月に初めて登場した。ビッグマックと同様に、世界の多くの国で買えるモノという観点から、iPodのエントリーレベル製品の価格を米ドル換算して購買力を比較したものだが、大きく異なるのは、iPodが主に中国で生産(というよりは組み立て?)されているために、部品調達や生産にかかるコストが世界中ほぼ同じで同品質の商品を対象にしている点だという。ハンバーガーと違って、安いと分かった国から、個人で輸入することも可能だ。

調査を行っているのは、オーストラリアの四大銀行の一つであるコモンウェルス銀行が所有する証券会社コムセック。直近の調査対象国は62ヵ国で、生産国の中国は、輸送費や関税等の費用がかからないはずなのに、安い方から数えて30位(米ドル換算で$186.28。以下同)。日本は24位($181.64)で、スウェーデン($179.78)とペルー($183.42)に挟まれている。一番安いオーストラリア($131.95)と、一番高いアルゼンチン($353.20)の価格差は、200米ドル以上だ。

オーストラリアに次いで安い国は、インドネシア($138.47)、カナダ($138.73)、韓国($139.72)、ニュージーランド($145.06)の順。本家のアメリカは7位($149)で、最も近い価格だったのは、一つ上位の香港($148.36)という結果。購買力平価の観点から言えば、このあたりの国の通貨は過小評価されているわけだ。

たとえば、iPod指数調査時のオーストラリア・ドルの実際の為替レートは、1米ドル=1.51豪ドルであるのに対し、iPod指数から導き出される換算比率、すなわち購買力平価は、1米ドル=1.34豪ドルくらい。同様に日本円は、その購買力から1米ドル=119円あたりが妥当なレートと計算され、過大評価されていることになる。実際、今オーストラリアに日本円を持ってくれば、いろいろなものが割安に感じられるはずである。

数百から数千品目の商品やサービスを対象にした大掛かりな調査に基づいた購買力平価は、OECD(経済協力開発機構)や世界銀行といった国際機関が算出している。国内総生産(GDP)のように、異なる国の統計を比較する際にその数値が用いられる機会が増えているのは、外国為替市場で取引される為替レートよりも、経済の実態を反映しているとされるため。購買力平価は、中長期的な為替相場の行方を占う指標の一つにもなっている。

たった一つの商品だけを対象にしたiPod指数は、コムセックが言うところの「Light-hearted approach(気軽なやり方)」だけに、遊び心を持って見るべきもの。けれど、購買力平価に関して、「一物一価の法則うんぬんかんぬん……」と経済用語を使って抽象的に説明されるよりは、「いくらでiPodが買える?」という世俗的な視点から、生活感覚に近い妥当な通貨の換算レートを示された方がずっと分かりやすいことは確かだ。


○「iPod nano」の新機種の部品コストは販売価格の40%,米iSuppli社が分析
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070920/139461/?ref=RL1

○主要通貨購買力平価(PPP)
http://www.iima.or.jp/research_gaibu.html

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○worldNote 「生産性、為替、賃金」 2007/02/12
 1. 生産性は、インフラ、技術力、資金力、ブランド力、原価、大量生産等の
    相関として決まる。
  2. 為替水準が国の(平均的)豊かさを決める最大要素である。
  3. 賃金水準は予定売価から逆算されて決まる。競争的な市場によって売価が
    決まっているので、賃金の方を調整することになる。売価の自由度が高い
   「商品」は限られている。
http://blog.goo.ne.jp/worldnote/e/6688f8573f7ad8a9e366e2a9154fc0d9

 

 


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