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多様化が進まないテレビ番組制作の構造を憂える

KNN神田です。

2008年10月20日、TBSの水戸黄門が39年目にして、初めての1桁視聴率、9.7%となった。http://www.asahi.com/showbiz/nikkan/NIK200810220018.html
さすがの由美かおるの入浴シーンも、これ以上は数字を稼げなくなってしまったのかもしれない。フジテレビのサザエさんも20%を割りはじめ、アニメも数字がとれない。

かつての高視聴率番組が高視聴率ではなくなりはじめた。

また、視聴率目標も下方修正され、ドラマですら20%が目標。歌番組では10%が目標となっている。

20世紀の歌謡番組全盛時代、レコードは100万枚売れて、初めて大ヒットと言われたが、今では40万枚のCDセールスでヒットとなっている。かつての4割にマーケットがシュリンクしている。当然、それに連動し、純粋な音楽番組だけでは成立しない。そこで、助けになっているのが、お笑い芸人たちによるバラエティ番組化である。

音楽よりもトーク、そして笑いによって進行されるバラエティ的な歌番組が大半を占めている。それだけではない。情報番組、ニュース番組、お笑い芸人の登場するバラエティ番組が、テレビ番組のプライムタイムを占め始めている。

芸人が1分芸を見せる番組、VTRを見て芸人がコメントするだけのもの、おバカな回答ぶりを見て楽しむ番組が、20%近くの視聴率をたたきだしている。

ドラマや歌番組とちがって、セットと芸人とVTRさえあれば、簡単なリハーサルと進行台本だけで成立する。製作費を極限にまで切り詰めることが可能だ。

それらの番組制作において、約800名ものお笑い芸人を抱える吉本興業の芸人が活躍している。ビジネスモデルは、テレビに芸人を露出させ、CMに多く起用されることによって売上を拡大していくというものだ。

ジャニーズタレントを見ない日があったとしても、吉本芸人を見ない日はないというほど、テレビ局の番組制作は吉本興業頼みになっている。

吉本芸人の強さは、企画とネタ会議さえあれば、あとはタレントが、なんとかしてくれるところでもあろう。放送作家が段取りを書いても、それはあくまでもシナリオ。臨機応変に、その場のライブ感で、おもしろおかしく変化していく。

お笑い芸人に司会ごとまかせて、ネタと企画で勝負したほうが数字(視聴率)が取れるのだから、こんなに好都合なことはない。

しかし、そんないろんなジャンルを扱うバラエティ番組が、吉本芸人一色で染められたあとに残るものは何だろうか?

ベテランから新人の登竜門まで、いろんなことをやりつくした結果、この秋からは、広告主の志向も変化してきたためか、お笑いだけでなく、エコやココロをテーマにした人間の内面に迫る番組が増えてきている。しかし、笑いのプロフェッショナルたちが繰り広げる、一瞬のリアクションだけでは、なぜだか非常に居心地が悪い思いをした。瞬間的なギャグとツッコだけではあらゆるバラエティに対応できないからだ。

ネットとちがって、テレビには、1日の疲れた頭を癒す力がある。自分からは何もせず、ただ、ボーっと見ながら、お笑い芸人たちの動向を眺めていればいいだけだからだ。反対に、ネットの場合は、自分たちがお笑い芸人同様に、マウスやキーボードで検索という「ツッコミ」を入れなければ、何の情報も得られない。1日の終わりにそんなことはしたくない。

ただ、頭を癒す、そのお笑い芸人のドタバタしたリアクション芸も、どのチャンネルをまわしても同じようなものだと、食傷気味になってしまう。それが今のテレビの状況だろう。

そろそろ、お笑い芸人個々にも知識に裏打ちされた多様化が求められるのではないだろうか。政治に詳しい、ITに詳しい、オタクに詳しい、経済に詳しい、映画に詳しい、料理が得意、英語が堪能、といった専門的な知識から、笑いがとれるような芸で勝負する芸人の登場に期待したいものだ。

するとバラエティ情報番組なども、大衆の低レベルにあわせた番組づくりから、役立つテレビ、タメになるテレビという情報バラエティ番組の制作が可能になるだろう。向上心を持った前向きな視聴者がいることにより、広告主も視聴率だけではない価値を番組に見出すことができるだろう。

プライムタイムが、お笑い芸人だけに依存している限り、情報番組のクリエイティブは発展しない。さらに、ネタ出しまでもが、ネットに依存する傾向がさらに強まってきていることに対し、ボクは危機感すら感じる。大量に番組で消費されるネタが、すでに「ネットで話題」「ブログで人気」へとスリ替ってきているからだ。しかし、すでにマウスとキーボードで検索ツッコミをしている視聴者にとって、芸人のリアクションだけでは、興味が薄れてしまう。


「朝まで生テレビ」の司会者、田原総一郎は、政治専門芸人の一人という見方もできる。

自分がよく知っている専門領域でも、視聴者のレベルにまで落として、テレビでわかりやすく伝えようとする。それくらいでちょうど視聴者には理解しやすくなる。

専門家は、専門用語でしゃべるが、簡単に言い換えることができないことでボロを出す。田原総一郎は、そんなところの演出まで考えてツッコミをいれて専門家の天然ボケを引き出すから、政治お笑い芸人の匠であるとしかいいようがない。

吉本興業が、今後NSC(吉本のタレント養成所)で育てなければならないのは、大衆と記号化された無知な視聴者の関心を集める芸人ではなく、忙しく、購買意欲が旺盛で、向学心の強い人などにも受け入れられる芸人なのかもしれない。過剰で単一なお笑い芸人の供給は、お笑い芸人のデフレ化現象を引き起こし始めている。

バラエティ番組がバラエティにならないで、テレビはいつしか似かよった番組ばかりを排出し続ける装置へと変わってしまったようだ。一度、お笑い芸人に頼らない番組づくりという手法もトライしてみたらどうだろうか?

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○CNET  2008/10/01
 「ドコモとエイベックスが合弁会社、携帯電話向けに映像配信」
 NTTドコモは携帯電話向けの動画ビジネスを強化しており、合弁会社の設立も
 その一環。「合弁会社のサービスでは、テレビや映画といった既存の
 映像メディアとは全く異なる視聴スタイルを想定しており、企画、脚本、編集、
 カメラワークなどにおいて携帯電話の小さな画面で鑑賞することを最大限考慮
 したコンテンツ作りをしていく」(両社)という。
http://japan.cnet.com/mobile/story/0,3800078151,20381191,00.htm

 

 


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