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楽観的で貯蓄志向の低い国民性が、オーストラリア経済を支えてる

<記事要約>

毎日のように悪い知らせが続いているにも関わらず、オーストラリア人の大半は、国内経済の見通しについて、楽観的なままでいることが、最新のヘラルド・ニールセン世論調査で分かった。

金融危機が急速に悪化した先週実施された同調査において、回答者の58%が向こう2から3年の国内経済を楽観視していると答えた。消費パターンを変えていないとした人が全体の69%を占め、以前より消費が増えているという人も4%いる。

連邦政府はこの先、困難な状況がやってくることをたびたび警告すると同時に、世界経済崩壊の矢面に立つ態勢がほかのほとんどの国よりも整っている、と国民に請け合っている。

ラッド首相による危機対応は、全体の76%、労働党支持者に限ると92%の強い支持を得ており、10月14日に発表された104億豪ドル(10月23日現在のレートで約7,000億円、以下同)規模の景気対策も、76%が支持している。

2008/10/20 Sydney Morning Heraldより


<解説>

意外に思えるかもしれないが、オーストラリアは過去17年にわたって景気拡大期にあり、プラス成長を続けてきた。サブプライム問題が表面化してからも、直接的な影響は限定的なもので、政府はインフレ抑止のために金融引き締め方針を維持し続け、昨年8月から今年3月の間に4度も政策金利を引き上げている。

先月発表になった国際通貨基金(IMF)の国別レポートは、サブプライムローン関連損失が少ないことを指摘し、「健全なマクロ経済政策を運営しているオーストラリアは、世界的不況を乗り切れるだろう」と評した。

構造改革が成果を上げ、近年の資源ブームもあって、国家予算はこのところずっと黒字続き。今年7月から向こう4年間で、総額約470億豪ドル(3兆1,400億円)の所得税減税が実施されることになっている。それでも今年度の政府予算は、GDPの1.8%に相当する217億豪ドル(1兆4,500億円)の財政黒字を確保。緊急発表された景気刺激策の財源には、その約半分を充てればいいわけで、まだ余力がある。金融危機が世界的に広がる中で、「国内経済は堅調」と繰り返されれば、そうなのか、という気にもなる。

ただし、減税による還元効果は、度重なる金利上昇による負担増やガソリン代等の高騰で相殺され、それほど実感をともなってはいなかった。

個人消費に陰りが出て、景気減速感が強まった先月、オーストラリア連邦準備銀行(RBA)は、約7年ぶりの政策金利引き下げ(7.25%→7%)に踏み切った。さらに今月には、大方の専門家や市場の予想を上回る1%の大幅利下げ(7%→6%)を敢行。銀行は下げ幅そっくり、またはそれ以上に、住宅ローン金利を段階的に引き下げたため、平均的な30万豪ドル(約2,000万円)のローンを抱えた家庭では、月に200豪ドル(約1万3,400円)以上の負担減となった。持ち家率は約7割で、その半数は住宅ローン返済中だから、インパクトはかなり大きい。

相次いで発表された景気刺激策のもと、子どものいる中低所得層の世帯や高齢者には、一時金が支給される。初回住宅購入者に対する補助金は、新築住宅の場合、これまでの3倍の2万1,000豪ドル(140万円)に増額されることになり、低迷が続いていた不動産市場の回復を期待する声も高まっている。

オーストラリアの家計資産に、住宅などの「非金融資産」が占める割合は7割。日本とは正反対に貯蓄指向は低く、金融機関の預貯金は総資産の4%弱に過ぎない。クリスマス商戦目前という時節柄もあり、予定外に個人の懐に入ったお金は貯め込まれることなく消費に向かう可能性が高く、そうなれば経済活発化への好循環が見込まれる。

折しも、世界的な金融市場の混乱の中、商品価格は下落傾向にあり、主要貿易相手国である中国の需要減速がクローズアップされ、資源関連株は不安定な展開が続いている。あれだけ騒がれていたインフレ懸念は、あっという間に収束した。この状態で消費マインドが悪化したり、投資意欲が減退すれば、オーストラリア経済は急失速することにもなりかねない。

中長期的には商品市況は上向きと見られているものの、好景気を牽引してきたもう一つの車輪=個人消費や投資に代表される内需拡大が、今こそ必要とされている。オーストラリア人が多分に楽観主義であることは確か。けれど、それがこの国の経済を支えることに繋がっているのも、また真実ではないだろうか。


○日本人の資産管理、大研究(1)--経済学の手法が通用しない日本人特有の心理--
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/a/85/index.html

○国際比較で見る1世帯当たりの資産と負債(PDFファイル)
http://www.nli-research.co.jp/report/econo_report/2007/ke0706.pdf

○20代若者は皆消費をしないのか
http://www.tourism.jp/report/2008/02/report2/

 

 

 


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