ミネラルウォーターはもう古い? 水道水の味を見直し始めたデンマークの人々
- デンマーク在住ジャーナリスト
29リットル。デンマーク人が一人当たり、2007年に飲んだペットボトル入り飲料水の量の平均である。これは、ヨーロッパにおいてフィンランド、オランダに並び低い数字で、ドイツ人はこの約5倍を消費し、気候が温暖なイタリアやスペインではこの数字をさらに上回る。
とはいうものの、デンマークでのペットボトル入り飲料水の消費量は年々増加の一途をたどってきた。統計によると、2000年の国内産、輸入を含めた総販売量が7090万リットルだったのに対し、2007年は1億6010万リットルと約2.26倍の伸びを示しており、特に、2007年の数字の中で1億3480万リットルを占める国内産の普及が顕著である。ここ数年、カールスバーグが発売している“Kildevæld”などのテレビCMに力を入れてきたこともあり、イメージ戦略が功を奏した結果、ともいえる。
しかし、デンマークの水道水がまずいのか、といえば決してそんなことはない。この国では人が生きていくために最低限必要な水、空気、食糧、エネルギーの4要素の確保に力を入れてきた結果、世界でも有数の地下水資源に恵まれた国となった。
水の質としてはカルシウムやマグネシムを豊富に含み、硬度350で非常な硬水の部類に入る。だからコーヒーメーカー、シャワーヘッド、洗濯機、食器洗い機など頻繁な石灰分落としが必要なほどだ。それでも先日、全国紙ユランズ・ポステンがデンマーク第2の都市、オーフスのカフェで前述の“Kildevæld”と水道水を客に飲み比べてもらうブラインド調査を実施したところ、20人中12人が水道水の方がおいしいと回答、4人がどちらもそれほどかわらないと答え、ペットボトル入り飲料水の方がおいしいと答えたのは4人だけだった。
私自身も、デンマークの水道水はおいしいと感じる。パーティーをする時に、スパークリングウォーターを買うこともあるが、普段は毎日、水道水を飲んでいる。「水を買うためのコスト」もばかにならない。水道水なら1リットルにつき4øre(ウア。100øreで1デンマーク・クローネDKK。4øreは約62銭)だが、スーパーで“Kildevæld”を買うと、500mlサイズで8.95DKK(約139円)。実に約450倍もの差がある(ちなみに、デンマークではビールの値段も8DKKほどで、下手をするとミネラルウォーターやスパークリングウォーターよりビールの方が安い、ということもよくある)。
それぞれの水の成分について、オーフス大学・水と塩センターのソエン・ニールセン教授は「健康的観念から言って、ペットボトル入り飲料水と水道水に違いはない」と明言。ますます、デンマークでペットボトル入り飲料水を買うことの意義が薄れてくる。
もちろん、ペットボトル入り飲料水の環境への負荷も無視できない。ノルウェーの調査リポートによると、ペットボトル入り飲料水を生産するためには、水道水の1500倍ものエネルギーが必要で、さらにはCO2の排出量も水道水に比べ80倍、スパークリングウォーターの場合は320倍にも上る。
こうした背景もあってか、ここのところ、身の回りでもペットボトル入り飲料水を取り巻く環境に変化が見られるようになってきた。会議や打ち合わせでテーブルにペットボトル入り飲料水を並べる代わりに、ピッチャーに水道水を注いでグラスを用意する、というこの国では少し前まで当たり前だった光景に戻るところが増えているのだ。ホテルでも、例えばScandicなど、ペットボトル入り飲料水を完全にやめるところが出始めた。お店でも、子供用だけでなく、大人用のおしゃれな水筒もよく見かけるようになった。
お隣のスウェーデンのヨーテボー市では、10月1日からペットボトル入り飲料水の購入、利用を一切取りやめたそうだ。老人ホームなど、例外的に許可するエリアはあるものの、同市はこれで昨年と比較して34万スウェーデン・クローナ(約400万円)のコストを削減できる見通しで、なおかつ、より環境に優しい行政運営を目指すという。
観光客にとって、訪ねた先のスーパーでペットボトル入り飲料水が手に入るのは便利なことだが、普段の生活にはあまり必要がないということに、デンマーク人はすでに気づき始めたようだ。
【編集部ピックアップ関連情報】
○MediaSabor 2007/09/04
「ペットボトル入りミネラルウォーターの商業成功がもたらした
環境への代償とは」
http://mediasabor.jp/2007/09/post_206.html
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