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世界に議論を投げかける「ブラインドネス」の映画監督、フェルナンド・メイレレス

フェルナンド・メイレレスは、1955年サンパウロ生まれのブラジルを代表する映画監督で、数少ないアカデミー賞に投票できるブラジル人の一人でもある。人間の本質を鋭く描く社会派映画で知られており、その作品は常に世界に議論を巻き起こしている。

新作は、カナダのトロント、ブラジルのサンパウロ、ウルグアイのモンテビデオで撮影されている。監督自身は幼い頃、医師である父に付き添い世界中を旅しており、そんな経験が「映画の舞台を特定の国に限定せず、一般的な、人類としての物語として描きたい」という監督の思いに繋がっているのかもしれない。

サンパウロ大学の建築科をぎりぎりの成績で卒業した彼は、学生時代に日本で購入したプロ用のカメラを片手に様々なプロジェクトに参加する。その後1989年にTVCulturaで「Rá Tim Bum」という人気子ども番組の監督を務めたのをはじめ、テレビ、広告業界で活躍していた。そして自身のプロダクションをつくり、映画制作に携わるようになる。

フェルナンド・メイレレスの大きな転機となったのは、1997年にパウロ・リンスの小説「シティ・オブ・ゴッド」を手にしたことだった。2002年に映画化。スラム地域を舞台に、強盗、麻薬ディーラーなどに関わる子ども達を描いたこの映画は、ブラジル国内で大きな議論を呼び、また2004年アカデミー賞において監督賞など4部門にノミネートされた。

ジョン・ル・カレの小説を映像化した2005年の「ナイロビの蜂」は、製薬会社の陰謀をあばこうとして殺された女性の夫が、その真相究明に乗り出すストーリーだ。アカデミー助演女優賞を受賞している。

そして新作である「ブラインドネス」は、カンヌ映画祭のオープニングを飾った、カナダ、日本、ブラジル合作の映画で、ノーベル文学賞受賞作家ジョゼ・サラマーゴ氏の「白の闇」が原作だ。ジュリアン・ムーアとマーク・ラファロが主演、日本からは伊勢谷友介と木村佳乃、そしてガエル・ガルシア・ベルナル出演の豪華キャストとなっている。原因不明の伝染病により、世界中の人々が盲目となった状況下を描く心理サスペンスである。

フェルナンド・メイレレスの3つの代表作は、どれも高い評価を得ているが、特に「シティ・オブ・ゴッド」はブラジル国内で、「ブラインドネス」はアメリカ合衆国で大きな議論を呼んだのも事実だ。

「ブラインドネス」でいえば、原作者であるジョゼ・サラマーゴ氏は映像化された「ブラインドネス」を賞賛している。この原作者は自身の小説の映画化には積極的でなく、ようやく許可を出し撮影された映画をどのように評価するかが注目されていた。また監督の母国ブラジルでは大成功を収めた。しかしアメリカ合衆国では高い評価を得られなかった。ニューヨーク・タイムズ紙は、偉大な映画とは評せない理由として、原作を生かせていないと批判。また公開前からアメリカ盲人協会が、公開当日のデモを企画する騒ぎとなった。

ブラジルには他にも新作「Linha de Passe」がブラジル公開中のウォルター・サレス監督(「セントラル・ステーション」「モーターサイクル・ダイアリーズ」等)、ヘクトール・バベンコ監督(「カランジル」「蜘蛛女のキス」等)、ジョゼ・パジーリャ監督(「ジ・エリート・スクワッド(Tropa de Elite)」「バス174」等)、カリン・アイヌー監督(「スエリーの青空」「マダム・サタン」等)、アンドルーチャ・ワディントン監督(「私の小さな楽園」「Casa de Areia」等)など、世界に知られる映画監督が多く存在する。いずれも社会的な問題を多く扱っており注目されてきた。しかし、フェルナンド・メイレレス監督ほど、世界に向けて大きな議論を巻き起こしてきた監督はいないだろう。

「ブラインドネス」は11月22日に日本で公開される。監督は、日本で行われた完成披露舞台挨拶で、「自分自身、本当の意味で物事が「見えている」のか、「本当に見る」ためにはどれほど苦労しなければならないのかを知る“旅”というものを描いています。」とメッセージを残している。映画にはたった一人「見えている」女性が登場する。そして、映画を「見ているもの」、「見える」存在である観客を旅に誘う。旅から戻ったとき何が見えてくるのだろうか。もしかしたら今まで「見えていなかった」ことに気づくのかもしれない。

 

参考記事  Globo.com 10月27日付 (ブラジルの日刊紙Globoのオンライン版)
http://g1.globo.com/Noticias/PopArte/0,,MUL839164-7084,00-EM+PORTUGAL+SARAMAGO+VOLTA+A+ELOGIAR+FILME+ENSAIO+SOBRE+A+CEGUEIRA.html

 

◆フェルナンド・メイレレス監督作品

「ブラインドネス」公式サイト
http://blindness.gyao.jp/

「ブラインドネス」予告編
http://jp.youtube.com/watch?v=UySaDKVsZq0

「シティ・オブ・ゴッド」予告編
http://jp.youtube.com/watch?v=hqD7MksivSo

「ナイロビの蜂」予告編
http://jp.youtube.com/watch?v=0YdSH2DNvBc


◆ブラジル映画

「Linha de Passe」予告編
http://jp.youtube.com/watch?v=htb3pX-6CVA

「セントラル・ステーション」予告編
http://jp.youtube.com/watch?v=rD_Wli7H-w8

「モーターサイクル・ダイアリーズ」予告編
http://jp.youtube.com/watch?v=7u0U3dbVMHk

「カランジル」予告編
http://jp.youtube.com/watch?v=ZlTPEmjyyvI

「Tropa de Elite」予告編
http://jp.youtube.com/watch?v=_V_nZNWPYQk

「バス174」予告編
http://jp.youtube.com/watch?v=I7In1tc-PQs&feature=related

「スエリーの青空」予告編
http://jp.youtube.com/watch?v=oowIQS5_HiU

「マダム・サタン」予告編
http://jp.youtube.com/watch?v=ZJ5SWF-Ox8A

「 Casa de Areia」予告編
http://jp.youtube.com/watch?v=BlxSR1-sErk

「Rá-Tim-Bum」のオープニング
http://jp.youtube.com/watch?v=Z3hMfPhVKak

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○映画評論家 兼 弁護士坂和章平の映画日記 2008/10/15
 「ブラインドネス(カナダ、ブラジル、日本合作映画・2008年)」
 面白いのは、人間は集団生活になれば必ず「派閥」(?)が生まれること。
 当初は当局からの指示で各病棟1名の代表者を選んでいたが、医者を
 代表者とする民主主義体制の第一病棟に対して、第三病棟に銃を持った
 自らを王と称する独裁者が登場したから大変。彼が支配下におこうとした
 のは食料品。銃の力を利用して食料を独占した彼は、「食いたければ金を払え」
 ときたからビックリ。さらに、収容者の金目のものが底をついたと知ると、
 今度は何と「女を出せ!」と理不尽な要求を。こりゃ、某国の某独裁者以上の
 暴挙だが、そんな中で提示されるさまざまな人間ドラマは秀逸。
http://sakawa.exblog.jp/9384062/


○豆酢館  瞳に映るは、世界の終り―「白の闇」 2008/04/14
 9.11テロ事件、その後に続く報復の連鎖。今世界は急速に閉塞状況に
 追い込まれている。これは誰しもが少なからず感じていることでは
 ないだろうか。逃げ場を失う青色吐息の世界情勢。暗澹たる時代の気分は、
 そのまま各国の政治、経済、文化、生活各方面に暗い影を落としている。
 ジョゼ・サラマーゴのこの寓話を初めて読んだときの衝撃たるや、言葉に
 することは出来ない。まるで今現在の世界の状況をそっくりそのまま予見
 して見せたかのような内容は、到底安っぽいデストピア小説の範疇に
 収まりきるものではないのだ。
http://blog.goo.ne.jp/mamesumaldini/e/4d2d826829a23fb8d535e65db3530f0c


○映画最新ニュース 2008-10-21
 『ブラインドネス』ジュリアン・ムーア初来日記者会見
 『ブラインドネス』に主演した演技派女優ジュリアン・ムーアが初来日を
 果たし記者会見に臨んだ。今年の第61回カンヌ国際映画祭のオープニングを
 飾り注目を集めた本作は、カナダ・ブラジル・日本の合作映画。ムーアと
 共演した伊勢谷友介、木村佳乃、『シティ・オブ・ゴッド』『ナイロビの蜂』
 と秀作が続くブラジルの実力派監督フェルナンド・メイレレス、カナダ
 からは脚本家ドン・マッケラーとプロデューサーの二ヴ・フィッチマン、
 そして『シルク』に続いて合作映画の製作を担った酒井園子が顔を揃える
 国際色豊かな会見となった。
http://eiganavi.gyao.jp/news/2008/10/post-47c4.html


○中原仁のCOTIDIANO  2008/08/13
 フェルナンド・メイレレス監督『ブラインドネス』
 音楽(オリジナル・スコア)は、マルコ・アントニオ・ギマランイスと
 ウアクチ(ミナスの手製楽器工房)。既成の音楽の文脈から外れた、
 いい意味で無国籍な、独得の音響が、ストーリーとマッチしていた。
http://blog.livedoor.jp/artenia/archives/51476688.html

 

 


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