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トップ女優「チェ・ジンシル」の自殺に見る韓国ネット社会の暗部

 2008年10月2日早朝、女優のチェ・ジンシル(崔真実)さんがソウル市内の自宅で首吊り自殺を図っているのが発見された。このニュースは韓国を震撼させ、事件から1ヶ月以上が過ぎた現在でも韓国内ではチェさんの自殺に関連したニュースが度々取り上げられ、衝撃の大きさを物語っている。

 チェさんはモデル活動などを経て、1989年に本格的に女優デビュー、以後、テレビドラマや映画に数多く出演、国民的トップ女優として人気を博していた。(人気度や年代からして日本で言えば、天海祐希さんや黒木瞳さんに近いポジションである。)2000年代に入り、自身の離婚問題など私生活でのトラブルにも見舞われ、一時は芸能生活から遠ざかっていたものの、ここ数年は、演技派としてのイメチェンにも成功し、高い評価を得、新たな活躍が期待された矢先の訃報であった。

 チェさんの自殺をめぐっては、ネットでのチェさんに対する誹謗中傷のコメントが原因と言われている。チェさんは自身の自殺の数週間前、芸能人仲間であった男性タレントをやはり自殺で亡くしたばかりであった。この男性タレントの自殺後、男性タレントが生前に事業の失敗で多額の借金を抱えていた事実が発覚、これと同時に突如として、「実はチェさんが副業で高利貸しを始め、男性タレントに大金を貸していた」という噂がネットの掲示板に書き込まれるようになった。

 チェさんは「噂は事実無根だ」と強く反論し、警察に名誉毀損とネットに書き込みをした人物の特定を訴え、最初に噂を流したとされる20代の女性会社員が検挙された。被疑者の女性会社員は事実無根の噂を故意にネットに書き込んだと容疑を認めたが、その後も、チェさんに関連した噂の書き込みは続き、チェさんはネットで自分に関する噂を夜通しチェックしたり、自分の噂によって子供が受ける精神的なダメージを心配し、周囲に苦しい胸の内を吐露していたという。

 今回のチェさんの自殺に限らず、韓国ではここ数年、芸能人の自殺が相次いでいる。いずれも自殺に追い込まれるまでの一因にやはり、「演技力批判」や「整形疑惑」、「私生活の噂」といったネット上での書き込みが挙げられている。日本でもYahoo!掲示板や2ちゃんねるといった不特定多数のユーザーが自由に書き込みできる場に、著名人のゴシップが盛んに書かれているが、あくまで「噂は噂」、「書き込みの全てが信じられるものではない」とどこか冷めた捉え方をしているネットユーザーも多いように見受けられる。ネットの書き込みをめぐっての芸能人のトラブルは韓国と比較して少ないのではないだろうか?

 韓国では日本のような芸能人のゴシップネタを扱うワイドショーや週刊誌、スポーツ新聞は少なく、ネットの掲示板への書き込みが発端となり、波紋を広げたケースが大部分である。また、このようなケースは芸能人にとどまらず、最近では学生の集団暴行や教師の体罰の現場を学生が携帯カメラで撮影、ネットにアップされたことによって社会問題となった事件もあった。

 1990年代の中盤からネットによる国の活性化を打ちたて「ネット大国」として、常に国民とネットが密接な関係にある韓国であるが、ネット普及率やインフラ整備、技術面が世界でもトップクラスにある反面、ネット絡みの事件や問題が多く起こっていることを考えるとネットユーザーのマナーやモラルに対する意識は残念ながら低いと言わざるを得ない。ネットの普及ばかりに重点を置き、それが増えることによって生じる弊害を想定していなかったことは韓国の誤算とも言えよう。

 今回のチェさんの自殺の反響の大きさを受け、にわかにネット上の悪質な書き込みの規制や取り締まり、処罰を明確にした法の制定を行おうとする動きが国会で出ているが、その場しのぎの法の制定にとどまることなく、ネットモラルについての指導やネットトラブルに巻き込まれた際の対処法など、教育現場や職場での指導や意識向上の浸透といった地道な努力を着実に行うことが望まれる。まさに、チェさんの自殺は「ネット大国韓国」が、その面子を保てるかどうかの正念場を迎えたことを突き付けたと言えるかも知れない。

 

 


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