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2008年PC市場を大きく揺るがせた「ネットブック」をフォーキャストする

KNN 神田です。

1年前には、まったくなかった市場出現により、2008年PC市場が大きく揺れている。
それは、「ネットブック」市場である。またの名を「ミニノートPC」市場ともいう。

台湾のボードメーカー(であった)のASUSTeK Computer(ASUS:アスース)社が、2007年10月に199ドルノートPCとして、EeePC701を発表したのがこのムーブメントのすべてのきっかけであった。

低価格とするためWindowsではなく、カスタマイズしたLinuxを搭載し、Office互換ソフト、そして、ハードディスクドライブではなくSSDを搭載するという意欲的な製品で注目を集めた。当初、発展途上国などPCの未成熟マーケットを狙ったこの戦略商品であったが、2台目および3台目PCとしての需要があった。さらに、この流れを大きく変えたのが、インテル社が2008年3月に発表したインテルAtomプロセッサであった。

インテルのAtomを搭載することによって、ノートブックPC市場は、省電力化による長時間、軽量化、低価格化という新ジャンルを生み出し、単なる低価格帯の商品ではなく、ネット専用端末としての価値観「ネットブック」というコンセプトが浸透する。

先行したAsusのEeePCシリーズは、この間に、世界で400万台(年内500万台予定)という販売数をたたき出し、EeePC901では、WindowsXP搭載、ハードディスク搭載、そしてAtomを搭載で攻勢をかけた。そして、このムーブメントは、世界中のPCベンダーを震撼させることとなった。

まず、台湾のエイサーがこのネットブック市場に参入し、シェアを獲得する。さらにHP、DELLなどの主要PCメーカーが参入。日本国内では、イー・モバイルなどの通信端末と2年契約すれば、100円などという携帯電話抱き合わせ販売が効を奏してか、注目を浴び、2008年夏以降売上を伸ばしている。

2008年7月から9月期の四半期ベースでの家庭内PC市場は、前年比31.6%増となり、2001年以降最大の成長率を樹立した。
http://www.idcjapan.co.jp/Press/Current/20081117Apr.html


そして、この秋、国内PCベンダーの大手、東芝、NEC、エプソン、オンキョーらがこぞって、この「ネットブック」市場に参入した。オンキョーはソーテックブランドで販売する。当初からミニノートPCを発売していた工人舎にも注目が集まる。

この動きは、他のベンダーにも大きく影響を与え続けた。

2008年9月、国内ネットブック市場のシェアは、エイサー53%、Asus32%に対し、HPは6%弱にとどまっていた(BCN調査)が、HPはシェア獲得のために、10月に25%の値下げを行い、低価格ミニノート市場の土俵をさらに低価格化へと引きずり込んだ。

ソニーは、ネットブックではない標準サイズのVAIO Type Nを5万円台という価格帯で、ついに対抗せざるをえなくなった。

そう、ネットブック市場はすでにAtom搭載マシンだけではなく、ノートブック市場全体にその影響を与え、今年のボーナス戦線は、各社とも利益なきシェア確保という戦いにならざるをえなくなってしまった。

パーツやスペック料金が、明確なPC市場なだけに、各社とも差別化が非常に難しい。少なくとも円高要素が活かせるこの時期ならではの破格値を提示することも考えられる。しかし、一度出してしまった価格はもう戻せない。

一度ノートブックPCを、5万円以下で購入してしまった人に、次に10万円以上出させるのは至難の業だ。

また、ネットブックなら、WindowsXPでも快適という事実を知ってしまったら、誰がVistaモデルを選択するのだろうか? XPへのダウングレードサービスという変な?サービスがあることそのものがサービスとしては異常なのである。

2008年11月、過熱化するネットブック市場をよそに、キングジムから「ポメラ」というデジタルメモが発売された。ネットなしのモノクロ端末が1万7000円もするが、すでに初期ロットが一週間で完売という快挙を成し遂げ、キングジム内でも予想外の市場の反応であるという。

EeePCが登場してから、たかだか約1年。されど、この1年はノートPCの使い方を根底から考えさせられた1年でもある。ハイスペックでなくてもよい。ネットにつながり、メールができればいい。そんなシンプルなニーズが、一番市場を牽引しているのである。

PSPからニンテンドーDSi、ネット対応端末のバラエティ化、さらにポメラというネット非対応端末の登場によって、市場は予測しがたいものとなっている。

2009年は、これらのトレンドがさらに広がり、デジタルカメラやiPhoneのような電話も融合してきそうな勢いだ。

そろそろ、日本のメーカーならではの新たなカテゴリーでの製品を投入し、需要の後追いではなく、需要と景気を喚起するような新たな市場を作ってもらいたいと願うばかりだ。コストダウン戦略は長い目で見ると、メーカー、ユーザーにとって不毛の地となってしまいかねないからだ。


<参照URL>

http://plusd.itmedia.co.jp/pcuser/articles/0711/16/news037.html

http://www.jp.sonystyle.com/Style-a/Product/N/index.html?s=ad_iip_price0001

http://www.yomiuri.co.jp/net/frompc/20081126nt11.htm

http://121ware.com/lavie/light/

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20081104-00000001-diamond-bus_all

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○MediaSabor  2008/06/16
 「台湾で起きていることは日本を変える事なのかも? 
  Computex 2008 台北リポート」
http://mediasabor.jp/2008/06/computex_2008.html


○私的ワールドワイドウェブ
 「急拡大するミニノートPC市場に足りないモノ」2008/09/15
 バリューPCを浸食するのかは別にして、そこに市場は間違いなくある。
 ミニノートPCを手がけなければ、確実に市場シェアを失う。PCビジネスを
 グローバル展開している企業であれば、東南アジアをはじめとする
 新興諸国の市場を丸ごと失うことになるかもしれない。
http://z432.way-nifty.com/www/2008/09/pc-f0aa.html


○GIGAZINE  2008/11/18
 EeePCなどのミニノートを一気にパワーアップさせる
 マルチパッド「素[simple:]」
 これで低価格ノートパソコンで大容量ファイルを扱うことやDVDを焼くことなどが
 可能になるほか、携帯性も重視しているため、ホームユースだけでなくモバイル
 も強力にサポートしてくれるようになるかもしれません。
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20081118_suntrust/


○みんなの知 「HPの新ミニノート HP Mini 1000発表」 2008/11/25
 まずまずのスペックとデザインだと思います。
 またストレージは顧客に選択権ありですね。
http://kmarketing.blog120.fc2.com/blog-entry-438.html

 

 


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