2009年のメディア&広告ビジネス予測
- ビデオジャーナリスト
2008年、サブプライム問題の焦げ付きは、石油やバイオエタノール問題を問題としないほどの、より深刻な経済危機の連鎖を招き、2009年へと引き継がれる。クルマが売れなくなり、米国だけでなく世界全体へ、その影響を及ぼしている。
出版業界では「世界恐慌」の文字が踊り、不安を煽りながら、それをビジネスチャンスへと変えた。広告業界では、テレビスポットに対する枠が、割安なインターネット広告へシフトしはじめるが、米国大手新聞サイトでは広告費ダンピングが始まり、ネット広告でさえ、少ないパイの争奪が始まっている。
誰もが、そして世界中が、不安な気持ちをもって2009年に突入しようとしている。
オバマ米国次期大統領1人が解決する問題ではなく、1人1人が問題意識を持ち、チェンジしなければならない年となりそうだ。
2009年、新たな年に我々に課せられたのは「個人の創造性」だと思う。
かつて、消費者と一方的に呼ばれた人たちは、創造性どころか、想像することすら求められていなかった。マスメディアにプッシュされた情報に歓喜し、テレビを見続けた。消費の最先端はテレビによって記憶を洗脳し、需要という名の欲望を作り、カタログ的な雑誌で追加情報を与え、売り場で製品が存在することによって、購入までの広告サプライチェーンが完結した。
しかし、その流れが、インターネットによって、最終消費者(エンドユーザー)たちはどこにもいなくなってしまったのである。
購入した人たちが、消費して終わるのではなく、リサイクルしたり、オークションに出品したり、ブログで使用レポートなどを語りだしたからだ。エンドユーザーはユーザーとして自立したのだ。ユーザーはある時には、クリエイターの側面も持ちあわせ始めている。
米国の調査によると、ベビーブーマー世代(43─61)は、週に19.2時間もテレビを見たが、ミレニアム世代(14─25)は10.5時間しか見なくなった。ベビーブーマーの半分の時間しかテレビを見ていないのだ。
携帯に、インターネットに、SNSに、ポータブルゲームに忙しく、テレビにかまっている時間がないのである。
2008年は、オリンピックや大統領選挙などで、テレビにとっては、プライムタイムならぬ、プライムイヤーだったはずだ。しかし、それらの情報は、もうテレビ以外で楽しめる代替手段が浸透してしまった。ネットメディアだ。オバマ候補の発言は、テレビで見るよりも、YouTubeで検索してみたほうが便利だ。
オリンピックの試合も、海外ではネットでオンデマンド配信がなされたので、好きな時に放送が視聴できた。時差がある国にとってはライブよりもオンデマンドのニーズの方が高かったのだ。
5年後、10年後、テレビ広告のポジショニングが変わることは、火を見るまでもなく明らかである。
当然、広告業界も、テレビという斜陽産業を変えつつある。30秒300万ドルといわれるスーパーボウルのコマーシャルでさえ、1社39万5000ドルで8社募集という珍プランが登場している。スーパーボウルのCM30秒を8社で同時に分け合うのだ。放映が楽しみなのはいうまでもない。
もしかすると、Wウィンドウに慣れたユーザーにとっては、複数の広告主が同時に登場するような同時分割されたCMの方が、アイボールを釘づけにするほど熱中するのかもしれない。何社の広告を同時に認識できたかという新しい広告枠になるのかもしれない。奇をてらったアイデアに見えるが、模索、挑戦しなければ、広く伝える広告の意味がなくなってしまう。ネットでは、狭く深く伝える「狭告業界」へとチェンジしているからだ。
ここでも新たな創造性が求められている。企画会議で勇気を持って提案した個人の創造性が生んだまったく新しい広告枠だろう。
放漫経営のビッグ3が、政府に支援をせがんでいる間に、独メルセデス・ベンツは、合法音楽サイトとしては世界最大規模を誇るメルセデス・ベンツmixed tapeとして、エンタメサイトのプロモーションをチェンジしている。ユーザー数は約250万、累計ダウンロード件数2,800万件に及ぶ。もしかすると、ミレニアム世代には、メルセデスといえば、エンタメサイトという認識の時代になっているのかもしれない。しかもユーザーが投稿してデビューができる登竜門システムも搭載している。
これはつまり、広告主が直接、自社メディアを持ち、自社で番組を企画し、番組を制作し、配信し、自社製品の販売に結びつけるというメディア直結のダイレクト販売システムを作り始めていることではないだろうか? 現在はメルセデスのターゲットではない若者も、このようなメディア接触を重ねることで、メルセデスのトータルブランドイメージを金持ちのおじさんの車とは全く思わなくなるだろう。自動車屋がネットメディアをやってはいけないなんて法律はどこにもない。
http://www.mercedes-benz.tv/en/channel-8/
米IBMの調査によれば、今後5年(2007年調査なので、今後4年)の間には、テレビ視聴時間の15%、パソコン使用時間の25%を、ユーザー生成のものが占めると予測されている。
日本のテレビ番組制作も、コストのかかるドラマや歌番組よりも、吉本芸人と情報だけで作る情報バラエティ番組がかなり増えてきた。少ない制作予算で視聴率が取れる番組づくりを目指しているからだ。当初は、番組制作費が安く、視聴率が取れるものという考え方で進む。しかし、それがもっと進み、もっと安く、もっと視聴率となると、それはもう、テレビではなくなってくる。
ジャパネットたかたは、すでにテレビの広告枠の購入スタイルを変えた。佐世保の自社スタジオから地上波テレビ局に向けて番組を配信しているのだ。テレビ局はジャパネットたかたの前では、単なる電波のレンタル屋さんにすぎないのである。その間にジャパネットたかたは、ハイビジョンシステムを備え、小さな地方局よりも豪華な設備となった。ジャパネットに必要なのは、テレビではなく、視聴者ネットワークだけなのである。そのうち、携帯やネットに視聴ネットワークがシフトした時、ジャパネットは自前でそれを持ってしまうことだろう。
また、制作スタンスは、物を売っているようではあるが、実はライフスタイルを売っている点がメーカー発想とは全く違う。
高田社長のカラオケマイクで、歌の二番まで気持ちよく歌い、マイクをはなさないのに、あきれかえりながらも、思わず気持ちよさを共有してしまうことがよくある。普通の地上波なら、放送事故として、苦情が多量に寄せられるシーンだ。しかし、視聴者もこの番組(広告?)の個性を認めているからそんなことがない。
ジャパネットがセレクトした製品をジャパネットでサポートもおこなうという徹底ぶりだ。分割払いも、年金暮らしの人が買える料率に設定されている。
そのうち、ジャパネットたかたが情報バラエティ化したり、ホームドラマ化、歌番組化するとますますテレビ局の立場は見えにくくなってくる。
クライアントにとっては、テレビというフレームワークの中で広告を考えるのではなく、人々に自社製品を伝えるためにどうするのかが一番重要なのだ。広告という枠の提供ではなく、クライアントの製品やサービスと、ユーザーのライフスタイルとのマッチングを考えるのが広告業界の役割であり、メディア業界の創造性だ。
枠や紙面、バナーサイズをゼロベースで新たに創造しなければ未来はない。プロが作る、アマチュアが作るということが問題ではなく、ユーザーのライフスタイルを、どのように創造的にチェンジできるかを一番考えなければならない年となることだろう。
そうでなければ、ネットやケータイから生まれる新たな生態系に、旧型メディアが浸食される日は意外に早い。
【参照URL】
▼Ad Innovator「ミレニアム世代はテレビを見ない」 2008/12/21
http://adinnovator.typepad.com/ad_innovator/2008/12/%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E3%83%9F%E3%83%AC%E3%83%8B%E3%82%A2%E3%83%A0%E4%B8%96%E4%BB%A3%E3%81%AFtv%E3%82%92%E8%A6%8B%E3%81%AA%E3%81%84.html
▼Study: Young people watch less TV
http://www.hollywoodreporter.com/hr/content_display/news/e3ic41d147829e712a6a6ecd990ea3a349c
▼スポーツビジネス from NY スーパーボウルに「共同CM」が出現? 2008/12/24
http://tomoyasuzuki.jugem.jp/?eid=509
http://biz.yahoo.com/prnews/081219/la53871.html
▼WIRED VISION 2007/08/28
「IBM社5カ国調査:ネットコンテンツとビジネスモデルの変動予測」
http://wiredvision.jp/news/200708/2007082822.html
【編集部ピックアップ関連情報】
○CNET 2008/07/24
「マスとは違う、ネット広告クリエイティブのモードと作法」
この調査結果を眺めていて面白かったのが、ネット広告では最初に企業の
ロゴが出てしまうと結果はあまり良くないということです。例えばネットの
バナー広告で、最初の方にロゴが大きく出るケースは、総じて
パフォーマンスが悪いということがわかりました。
http://japan.cnet.com/blog/fukutoku/2008/07/10/entry_27012123/
○業界人間ベム 2008/10/21
「ネット広告のクリエイティブとポストインプレッション」
ちょっと前のエントリーで日本のネットマーケティングが広告レスポンス評価を
クリックベースばかりでやっていると書いた。ポストインプレッション効果を
評価しないので結果、クリエイティブによる最適化の概念も希薄になる。
http://g-yokai.com/2008/10/post-133.php
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