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シリコンバレーが全米初、電気自動車の街へ

  • 米国在住ジャーナリスト

(記事概要)

 サンフランシスコ・ベイエリアは、電気自動車の充電ステーション、電源、奨励金などを整備した全米初の地域となる計画だ。サンフランシスコ、オークランド、サンノゼのそれぞれの市長は20日、電気自動車を早急に普及させるための9項目に上る計画を発表した。

 この中には、手続き関係の迅速な処理、バッテリーの急速充電や交換、充電コンセントの設置などが含まれている。電源施設を設置するための奨励金の設置も要求しているほか、地域輸送や大気環境に考慮した電気自動車計画ともつながっている。

 「我々の目標は、ベイエリア、そして最終的にはカリフォルニア州全域を全米のなかの電気自動車に関する首都とすることだ」。サンフランシスコ市長のギャビン・ニューサム氏は声明の中でそう述べた。

 計画の第一歩は12月から始まる。だが、プロジェクトに要する資金がどこから来るのかは不透明だ。サンフランシスコ市長の広報担当者は、地域、州レベルから資金を捻出することを明らかにしているが、それが明確になる2009年までははっきりとした発表はしないだろう。

 今回の発表でもうひとつ明らかになったことは、シリコンバレーのパロアルト市にある電気自動車インフラ企業のBetter Placeが、計画を進めるためにベイエリアとカリフォルニア州のインフラを担当するということだ。充電用コンセントの開発に加えて、同社では会員制の充電方式を導入する。携帯電話の通話料システムと同じように、ユーザーアカウントに応じて自動的に充電する。(サクラメント・ビジネスジャーナル11月20日付)
 

(解説)

 サンフランシスコ・ベイエリアの人たちは、とにかく新し物好き。新進の気鋭に富み、常に時代の先を考える。ジーンズ、コンピューターマウス、ヒッピー文化、シリコンバレーと、いろいろなものがこの土地から生まれてきた。今度の挑戦は、ここを電気自動車の聖地にしようというものだ。

 総予算10億ドルとも呼ばれるこのビッグプロジェクトでは、ベイエリアに電気自動車を走らせるために必要となるインフラを敷き詰める。各地に急速充電ステーション、バッテリー交換所などを設け、それに付随して奨励金制度の設置も進める。

 電気自動車はガソリン車やハイブリッド車と違って、航続距離やメンテナンスの点でまだ不安が残るといわれる。ガソリンスタンドのように街角に充電ステーションがなければ、安心して遠出もできない。今回の計画は、それを変えようとする試みだ。同エリアは北はサンフランシスコ、南はサンノゼまで南北約100キロメートルに渡って経済圏を構成している地域。域内一帯に充電ステーションを配置すれば、電気自動車の促進に大きく貢献する。

 インフラを担当するBetter Placeは2007年に設立された新興企業だが、2億ドルの資金を集めるなど鳴り物入りで登場したハイテクカンパニー。すでに、デンマークやイスラエルの電気自動車プロジェクトで実績を収めている。

 同社の計画図によると、州都サクラメントのさらに北から州南端のサンディエゴまでの主要高速道路に沿って、バッテリー交換所を設ける。電気自動車の駆動源となるバッテリー残量が少なくなった車はここへ立ち寄ると、満充電されたバッテリーに交換してくれる。時間はわずか3分程度で済むというから、給油と同じ感覚だ。「ドライバーはBetter Placeの会員になることで 交換所を利用できる権利を得られる。携帯電話が通話時間を買うように、ここでは走行距離を購入することになる」(Better Place)という。

 このバッテリー交換所と同時に、道端のあちこちには急速充電器が設置される。パーキングメーターのような形をした充電器から電気コードが延び、路上駐車中に充電ができる仕組み。買い物で1─2時間駐車しておく間に利用する形だ。

 折りしも、主要自動車メーカーは、2010年から次世代電気自動車の投入に踏み切る計画。環境浄化を推し進めたい行政としては、これら電気自動車の普及を後押しするためにも関連インフラの整備が欠かせないところ。25億ドルに上る経済効果があるというから、州財政の改善にも貢献すると踏んでいるに違いない。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○Yorozubampo 「誰が電気自動車を殺したか」 2008/07/23
 電気自動車が出現した背景には、アメリカのカリフォルニア州の深刻な
 環境問題があった。特にアメリカの典型的な車社会であるロサンジェルス
 では排気ガスによる大気汚染が社会問題化していた。1990年、
 州政府は州内で自動車を販売しているメーカーに対して、2003年
 までに年間販売台数の10%を無公害車つまりZero Emission car
 (排ガスゼロの車)とするよう義務付ける州法を制定した。メーカーが
 本気にならざるを得なかったのはそうした事情があった。そんな環境が
 一変したのがブッシュ政権の誕生だった。電気自動車に対する熱気は失せ、
 カリフォルニアのくだんの州法も廃止されてしまった。それよりも多くの
 期待を担ってきた電気自動車そのものも道路から姿を消してしまったのだ
http://ch01617.kitaguni.tv/e594314.html


○WIRED VISION  2008/12/01
 三菱の電気自動車『i MiEV』、試乗レポート
 11月30日(米国時間)まで開催されたロサンゼルス自動車ショーを見れば、
 電気自動車が少しずつ主流になろうとしており、i MiEVなどの車がそれを
 後押ししているのがよく分かる。このショーでは、米Chrysler社が
 電気自動車のプロトタイプ3種類を披露し、ドイツのBMW社は
 [リチウムイオン]電池式の『MINI E』500台を数ヵ月以内に市場に投入
 すると約束した。また、日産自動車のカルロス・ゴーン取締役会長兼社長は、
 電気コードを使う車の時代が来ると発言している。
http://wiredvision.jp/news/200812/2008120123.html


○ECO NEWS DIGEST 2008/11/29
 「日産がポルトガルに電気自動車の充電ネットワーク」
 日産とポルトガル政府は25日、2010年までにポルトガルに電気自動車(EV)の
 充電ネットワークを構築すると発表しました。
http://econewsdigest.seesaa.net/article/110384533.html


○ITmedia News  2008/11/25
 「カリフォルニア州ベイエリアに電気自動車向け充電スタンド網構築へ」
 カリフォルニア州政府と私企業が協力し、10億ドル規模の電気自動車販売
 および充電スタンド網構築プロジェクトを立ち上げた。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0811/25/news026.html


○シリコンバレー地方版 2008/11/21
 「ベイエリアでの電気自動車普及に3市の市長が合意」
 Better Place社の計画では、携帯電話と同じような仕組みで、バッテリーと
 充電設備に対して月額利用料を支払う契約をする代わりに、自動車自体は
 安価で入手できる。同社の試算では本格導入が進めば、一台あたり
 7000ドル程度で提供できるという。
http://www.chihouban.com/blog/2008/11/post_601.html


○Eliica - Super Electric Car - Part 1 of 5(YouTube 10:26)
http://jp.youtube.com/watch?v=J95Lh3NnL4A


○Tesla Roadster(YouTube 01:44)
http://jp.youtube.com/watch?v=w1C44JQU7Pc


○Who Killed The Electric Car?(YouTube 02:14)
http://jp.youtube.com/watch?v=nsJAlrYjGz8

 

 

 


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