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トリビューンが破産法を申請。危機迫る米国新聞社

  • 米国在住ジャーナリスト

〈記事概要〉

 トリビューンが12月8日に破産裁判所へ申請をしたのは、新聞産業の経営悪化の表れと受け取れる。

 トリビューンは、76億ドルの資産と129億ドルの負債を同裁判所に申請した。裁判所の申請資料によると、同社の関連会社として申請されたメディア企業には、ロサンゼルスタイムス、ボルチモアサン、それにたくさんのテレビ局が含まれる。

 トリビューンの代表者は、この件に関するコメントを即座に発表できないでいる。広報担当者はコメントを拒否した。同社を顧客に持つ法律顧問会社や会計会社も、コメントを拒否している。

 トリビューンの破産裁判所への申請は、同社や他の新聞社の深い苦悩を強調している。広告売上げの先細りによって打ちのめされ、多くの会社は現在の不透明な市場の中で扱いづらい借金を抱えている。新聞社の経営に精通するある人は、今後数ヶ月の間に数社の新聞社が廃刊に追い込まれるか、再編を余儀なくされると予想する。

 トリビューンは昨年12月から足元がよろめいていた。不動産王と呼ばれるサミュエル・ツェルが昨年12月、負債返済のために同社を個人所有にしたときからだ。トリビューンは資産売却をしたおかげで120億ドルの借り入れができていた。しかしながら、縮小する利益が、しめ縄を引き締める結果を生んでいる。

 現在のキャッシュフローでは、10億ドル近い利息の支払いをするためにも十分ではないだろう。加えて、トリビューンは6月に5億1200万ドルを借り入れている。

                               (ウォールストリートジャーナル12月8日付)


〈解説〉

 トリビューンの破産法11条の申請は、米国の新聞界の実情を表すものだ。広告収入比率が日本の新聞と比較しても高い米国の各紙は、クライアント企業のインターネットへの広告シフトに加えて、景気後退から来る広告収入の悪化が経営に大きな打撃を与えている。

 同社がデラウエア州の破産裁判所に提出した申請書類によると(http://online.wsj.com/public/resources/documents/tribunebankruptcypetition12082008.pdf)、破産法11条の適用を受ける関連会社は110社を超える。ロサンゼルタイムス、シカゴトリビューン、ザ・ボルチモアサンといった傘下新聞社やケーブルテレビ局など、多くのメディア企業が含まれている。一方、債権者となる金融機関の中では、JPモルガンチェース銀行とドイツ銀行が特に大口資金を貸し付けていて、それぞれ10億ドルと7億ドルに上る。

 当事者となったロサンゼルスタイムスは8日付の紙面(電子版)でトリビューンの破産法申請を伝え、「同社は現在300億ドルの手持ち資金があり、支払期限が今日に迫った70億ドルの返済は可能だった。しかし、負債引き受けの再構築に関して貸し手を説得できなかった」とし、債権者の説得に失敗したことが破産法申請に結びついたと報じた。

 オーナーのサミュエル・ツェル氏が社員向けに出したコメントも紹介。「収入の急落と苦しい経済情勢が金融恐慌と一体となった結果、負債を支えるのはきわめて困難となった。我々の全ての広告分野もドラマチックに影響を受けている」とし、広告収入の落ち込みが経営維持を困難にした主因であることを明らかにした。

 不動産事業に成功し、メジャーリーグのシカゴ・カブスも所有するツェル氏がメディアビジネスに乗り出したのは90年代。自らのファンド会社を通じて、ラジオとテレビ局を抱える大手メディア企業のジャコア・コミュニケーションを買収して99年に売却した。

 その後2007年4月には、買収先企業の資産を担保にして資金調達を行うレバレッジド・バイアウトによってトリビューンを買収した。自身がCEOに就任して同社を非公開企業にするなど経営に乗り出したが、名門メディア企業の所有から2年を待たずして躓くこととなった。

 トリビューンが再建に向けて選ぶ選択肢はいくつかある。ひとつはシカゴ・カブスの売却。現在、計画が進行中だ。また、料理番組を流す専門ケーブルテレビ局など、資産価値の高いグループ企業を切り売りする方法も残されている。ニューヨークを拠点に新聞を発行するニュース・デイは今年7月、大手ケーブルテレビネットワークのケーブルビジョンに650億ドルで売却された。

 ただ、グループ企業を片っ端から売りに出したところで、新聞不況が続く中でそうそう買い手が付くとも思われない。保持したままでリストラを進め、再建を行うのが現実的だとの見方もある。

 


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