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争点ミスマッチの米国初「ネットいじめ」裁判

(記事要約)

11月下旬に米国初の「ネットいじめ」に関する刑事裁判がロサンゼルスの連邦地裁で行われた。しかし実質はコンピューター犯罪に対する審議であり、「ネットいじめ」に関する裁判の難しさを浮き彫りにした。2006年にMySpaceで13歳の少女をいじめ、自殺に追い込んだとして起訴された49歳のロリー・ドリュー被告は、11月26日、MySpaceのサービス規約違反などの軽犯罪で有罪となったものの、重罪容疑については無罪となった。起訴の根拠となった法とのミスマッチが指摘する声が強い。

記事リンク:
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/11/26/AR2008112600629.html

http://voices.washingtonpost.com/washingtonpostinvestigations/2008/11/myspace_suicide_ruling_a_water.html?nav=rss_blog


(解説)

事件は2006年、米国中西部のミズーリ州で起こった。自分の娘と同級のミーガン・メイヤーさん(13歳)が仲たがいをした後、ロリー・ドリュー被告はMySpaceにジョッシュ・エバンズという架空の少年のプロフィールを作り、嫌がらせの目的で、ミーガンさんを誘惑するメッセージを送り始めた。これにはドリュー被告の娘、及び18歳のアシスタントも関わったとされている。

ミーガンさんはジョッシュ・エバンズを、近所に引っ越してきた16歳のハンサムな少年だと信じ、オンライン上での交際を楽しんでいた。4週間後、ジョッシュ・エバンズは「君がいない方が、世界はよくなる」というメッセージを最後に、ミーガンさんへの連絡を突然断ち切った。この最後のメッセージを受けた後すぐに、うつ病だったミーガンさんはベルトで首をつって自殺した。

悲劇的な結末を迎えたこのネットいじめ事件に対し、全米から怒りの声が上がったが、州当局は州法に対する違法行為はなかったとして、起訴しなかった。そこで米国連邦検事が、連邦法の「コンピューター詐欺及び濫用」に関する法を根拠に、「ミーガンさんが不安定で自殺志向があるのを知りつつ、からかい、屈辱感を与え、傷つけた」として、ロリー・ドリューさんを共謀重罪容疑及びコンピューターの違反アクセス等の軽犯罪容疑で起訴した。裁判は、MySpaceのサーバーがあるロサンゼルスの連邦地方裁判所で行われた。

ドリュー被告の弁護士は、今回の裁判が殺人事件ではなく、コンピューター詐欺事件であることを強調した。5日間にわたる審理の結果、ドリュー被告は重罪容疑については無罪判決となり、ユーザーに「真実かつ正確な」登録情報提出を義務付けたMySpaceの「サービス規約」違反など3件の軽犯罪について、有罪判決が言い渡された。ドリュー被告には、3年を上限とする懲役及び30万ドルの罰金が課せられる。

今回の陪審評決は、ネットいじめに対するストレートな回答とは言いがたい。根拠となったコンピューター詐欺、濫用防止法は、ハッカーによるコンピューター犯罪対策として1986年に制定されたもので、この法をソーシャル・ネットワーク・ウェブサイトに関わる事件に使うのは誤用だという批判の声もあがっている。

もしドリュー被告が重罪容疑で有罪判決を受けていたら、大抵の人は読まない「サービス規約」違反で、多くのユーザーが刑事責任を問われる可能性がでてくると、ワシントン・ポスト紙は伝えている。また、オンライン・セキュリティーの専門家は、今回の評決により、ソーシャル・ネットワーク・サイト運営側にユーザーの活動を取り締まる責任を負わせたことになると、ロサンゼルス・タイムズ紙にコメントしている。

事件後の2008年6月、ミズーリ州はハラスメント対策法にネットいじめを含める週報の改正を行い、成人による未成年へのネットいじめを軽犯罪から、重罪に変更した。このほか、ニューヨーク州、アイオワ州、アーカンソー州、バーモント州などでも、ネットいじめ対策の州法を定めているが、連邦レベルでのネットいじめ対策法を求める声が高まりそうだ。


【編集部ピックアップ関連情報】

○MediaSabor  2007/12/19
 「13歳少女メガン・メイアーのネットいじめ自殺─
  MySpaceで知り合った少年は存在しなかった」
http://mediasabor.jp/2007/12/13myspace.html

 


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