Entry

YouTubeを起点に活性化する世界のトリビュート/コピー・バンド・シーン

 あれっ?と思ったのは、チープ・トリップの『レコード・コレクターズ』の特集号を作っていた時のことだった。そもそも何でYouTubeを検索してみることになったのか、その理由はハッキリと覚えていないのだが、とにかくそのグループの動画に突き当たったのだった。グループの名前は、Budokan '78。しかし日本のバンドではない、米国、イリノイ州ロックフォード出身の米国人たちによるチープ・トリック・トリビュート・バンドなのだ。
http://www.myspace.com/Budokan1978

 そのグループの動画を見て感心したポイントが三つある。まずはそのグループ名。これはチープ・トリックのファンならすぐにピンと来るはずだが、あの日本が生んだ名盤『at武道館』が1978年に録音/発売されていることを意識した名前である。当然のように、動画の中でも、『at武道館』そのままのMCまで再現していたりするし(笑)、メンバー個人の名前が、当のチープ・トリックのオリジナル・メンバーの名前のパロディになっていたりするのは、この手のバンドのお約束だろう。そして第2には、その演奏が達者なこと。そして第3のポイントだが、驚くことに、彼らの動画の中には、チープ・トリックのギタリスト、リック・ニールセンがゲスト参加しているのだ。なんと言う微笑ましさ! しかし、彼らって本家公認なのか!?

 このグループの動画を見て以来、面白くなって、欧米のいろんなバンドのトリビュート(カヴァー)バンドをYouTubeで探してみた。その結果、筆者が見つけたそうしたトリビュート・バンドで、楽しめそうだったグループの名前を列記してみることにする。グループ名の公式ページを見つけることができたものに関しては、そのURLを次の行に記しておいた。

■レッド・ツェッペリン
Led Zepplica(レッド・ツェッペリンの「レプリカ」バンド)
http://www.led-zepplica.com/
Lez Zeppelin(女性メンバーだけによるカヴァー・バンド)

■ローリング・ストーンズ
Tattoo You(ニュージャージーの典型的コピー・バンド)
http://www.tattooyoustonestribute.com/theband.htm
Hollywood Stones
(チャーリー・ワッツの右手の動きまでコピーの'70年代系。
 二人のギタリストの役割分担を時々間違ってるのがイタい)
http://www.stickyfingerslive.com/
The Unauthorized Rolling Stones
(ヴィジュアル&音のイメージは80年代以降。
 プロのミュージシャンの集合体のようだ)
http://www.theurs.com/
Hot Rocks Chicago(有名べスト・アルバムのタイトルから)
http://hotrocksband.tripod.com/
Strolling Rons(名前が面白い)

■エアロスミス
Eurosmith(イタリアのエアロスミス・カヴァー・バンド)
http://www.eurosmith.net/index.asp
AEROMYTH (顔が似ている、色々な国にツアーに出かけているようだ)
http://www.aerosmithtribute.com/
Mama Kin(カナダのトロントで活躍中)
http://www.mamakinrocks.com/home.htm

■クイーン
Almost Queen(from U.S.A.)
http://www.almostqueen.com/
Kind Of Magic(from イタリア)
One Vision(from アイルランド)
0vueen(from韓国)

■ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス
Axis(残念ながらギタリストが右効き)
Are You Experienced?(右利きだが、敢えて左利き用ギターを使用)
http://www.areyou-experienced.co.uk/

■クリーム/エリック・クラプトン
Whipped Cream(ギターというより、むしろ歌の雰囲気が良い)
http://www.whippedcreamband.com/
Just Cream
http://www.justcream.net/bandsite/
Classic Eric Clapton(ソロ・アーティストのトリビュートだとやはり顔が問題か?)
http://www.fakebands.co.uk/bands.html?band_id=184

■ロッド・スチュワート
Martin Andrew in Forever Rod(ラス・ヴェガス等で幅広くやってそう)
http://www.martinandrew.embarqspace.com/
Rud Stewart(名前は「ルッド」と読むようだ。ちょっと太め)
http://www.tributeuk.com/

■キッス
Kisstroyer(音もなかなかだが、それ以上にビジネスとしての完成度が高そう)
http://www.kisstroyer.com/
Kiss This(ステージでの様々なアトラクションも再現!)
http://www.kissthistribute.com/
KISSES(セクシーな衣装とメイクの組み合わせがスゴい、女性バンド)
http://www.myspace.com/femalekisstribute
Kissexy(ここもコンセプトは上のバンドと似ている、イタリアの5人組)
http://www.kissexy.com/
SSIK(ロゴ・デザインを見ると、この名前のセンスも悪くないと思える)

■ポリス
ミニスカ・ポリス(日本の女性によるコスプレ系カヴァー・バンド!)


 切りがないのでこの辺にしておくが、こうしたグループは、普通に本家のバンド名と曲名等で検索しているだけで引っかかることも多いし(というより、そういう検索結果になりやすいようなバンド名を考えてつけている可能性が高い)。本家グループ名と「tribute」といった単語を一緒に打ち込んで検索をかけてみると、ざくざく出てくる。

 これらの人たちの動画やサイトを眺めていると、グループ別にトリビュートの仕方の方向性が微妙に違っていたりするのが、面白い。いわゆる「ものまね」的な要素と音楽的完成度のバランスをどうとるか、あるいは、あくまで細かく、マニアックな意匠を折り込んだ「コピー」に徹するか、エンターテインメント度を高めるか? ステージ・アクションが派手なバンドほど、トリビュートのつもりが「お笑い」になってしまいそうになるし、グループの歴史が長い場合は、そうした歴史のおいしいところを適度に盛り込むか、それともある一定の時期(場合によっては一度のステージ)に絞って「再現」を目指すか? コピー・バンドの国籍の多様さから、クイーン人気のインターナショナルな広がりを実感できたりもする。

 日本でも、すでに30年以上、レッド・ツェッペリンのコピー・バンドを続けているという老舗のCINNAMONや、その対抗馬(?)MR. JIMMY、あるいはヴォーカリストの強烈なキャラクターでメディアに登場の機会も多いクイーンのトリビュート・バンド、KWEEN(註)のようなグループの存在は、音楽ファンの間で結構知られていると思う。

 しかし欧米の場合、日本以上に、本家の代わりに、ファンそれぞれの地元で「ライヴ」を見せてくれるバンドということで、日本以上に大きな需要があるように見える。そして、乱立するそうしたバンドたちとユーザーの出会いの場所として、YouTubeが機能し始めているようなのだ。そこで彼らのパフォーマンスを見て気に入ったユーザーは、今度は彼らの名前で検索をしてみる。そうすると、彼らの公式サイトやMySpaceに辿りつくことができ、そこにはバンドの連絡先やライヴのスケジュールが掲載されている、といった具合である。これがひとつのビジネス・モデルとして成立しつつあるのだろう。上で挙げたサイトを見ただけでも、いくつかのバンドはかなりプロフェッショナルに演奏活動を繰り広げているようだ。

 しかしYouTubeの影響は、そうしたバンドたちの「営業」レベルを超えて広がりつつある。上で紹介した女性によるツェッペリン・カヴァー・バンドのLez Zeppelinは、ツェッペリンのエンジニアだったエディ・クレイマーのプロデュースにより、メジャー・レーベルからアルバムをリリース、08年10月には来日公演まで実現させている。今のところ、彼女らのブレイクがYouTubeをきっかけにしたものだというハッキリした証拠はつかめていないが、驚いたのが、ジャーニーの例だ。


『レズ・ツェッペリン』
(カッティング・エッジ)
グループはニューヨーク出身の女性4人組
「胸いっぱいの愛を」「ロックン・ロール」など、ツェッペリン・カヴァー
中心のアルバム


 ジャーニーは、'70年代から活躍しているサンフランシスコ出身のヴェテラン・バンドだが、現在のヴォーカリスト、アーネル・ピネダは、ちょっと前までフィリピンのマニラでミュージシャンとして活動していた人物。サンフランシスコの大物バンドが何故、突然にフィリピンのローカル・バンドのヴォーカリストをメンバーに迎えたのか? その謎を解く鍵がYouTubeだった。


ジャーニー
『レヴェレイション』
(キングレコード)
新ヴォーカリストを迎えて08年の10月にリリースしたアルバム。2枚組
のうち1枚には、自分たちのヒット曲のセルフ・カヴァーが収められて
いる

 過酷なツアーのため、当時ジャーニーに在籍していたリード・ヴォーカリストが喉を痛めて脱退することになり、グループ活動の継続が難しい局面に差しかかっていた2007年。ギタリストのニール・ショーンがYouTubeで、ザ・ズーという無名のバンドのヴォーカリストがジャーニーの曲「Faithfully」のカヴァーを、スティーヴ・ペリー(ジャーニーの初代ヴォーカリスト)そっくりに歌っているのを見つけたのだという。

 それを見たショーンは、つてを頼って、このヴォーカリストと連絡を取り、彼のジャーニーへの正式加入まで実現させてしまった、というのだ。そのことは彼らの公式サイト(www.journeymusic.com)でも明かされている一方、YouTube上では現在も、そのマニラのバンド、The Zooによる見事な「Faithfully」のカヴァー演奏を見ることができる。この新たな「伝説」は、世界中の多くのカヴァー・バンドに、これからも大いに勇気を与え続けていくことになるに違いない。


<註>
KWEENの公式サイト(http://www.kween.com/)を見てみたら、その強烈なヴォーカリスは、08年11月で脱退して、新しいトリビュート・バンドを結成することになった、とのこと。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○たまには日記でも・・・  2008/08/17
 「トリビュートライブ2008は大いに盛り上がったのでした!」
 昨夜は、カーペンターズ、ジャコ・パストリアス、デフ・レパード、フリー、
 リトルフィート、ローリングストーンズ、スティービーレイボーン、等の
 カバー曲が披露されました。
http://yasu-kob.blog.so-net.ne.jp/2008-08-17

 

 

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/941
他人語り47 - T99 / Anasthasia 2009年01月19日 15:43
T99 / Anasthasia & Remixes [Oldskool Ha......