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米国、準備不足でアナログから地上デジタル放送への切り替え延期?

日本では2011年7月にアナログ放送を終了することになっているが、米国では1ヶ月後の2月17日にアナログ放送から地上デジタル放送への全面切り替えを行うことになっている。しかしここへきて、移行準備ができていない家庭が多数あることがわかった。ケーブルや衛星放送を利用している人や、地上デジタル・チューナー内蔵の比較的新しいテレビを使っている人でないと、2月17日以降はテレビを視聴できなくなるということだ。

米国の1億2500万世帯のうち、約2000万世帯はアナログの電波でテレビを見ていると推定されている。この2000万世帯の人々にとって、一番安い対応策は、デジタル・チューナーの購入だ。チューナーは40ドルから80ドル程度。米国政府はチューナー購入のため、40ドルの補助金クーポンを先着申し込み順で1家庭あたり2枚まで発行してきた。

先日、ラジオのニュースで、刑務所内のテレビについて、刑務所は「家庭」の定義に入らないのでクーポン支給の対象とならないが、チューナーを買う予算がなく頭を痛めているといった話を聞いた。それから数日しないうちに、頭を痛めているのは刑務所だけでないことがわかった。

ニールセン・メディア・リサーチの先月調査によれば、全米家庭の7%はデジタル放送への切り替え対応ができていないままだという。さらに1月5日までに、補助金クーポンは連邦議会が予定していた13億4000万ドル分を発行し終えてしまった。今からクーポンを申し込んでも、順番待ちリストに名前が載るだけで、到底、2月17日には間に合わない状態だ。すでに110万世帯がクーポンの順番待ちリストに載っている。

もちろんクーポンなしでもデジタル・チューナーは購入できるが、クーポンがあれば40ドル節約できるとわかっていて、全額自費で購入しようという人はいない。不況の津波が押し寄せる中、月に50ドル程度(5000円程度)するケーブルや衛星放送サービスへの切り替えをためらう家庭も多い。

実際、急速な経済悪化で、政府や業界の予想は大きくはずれてしまった。デジタル放送への移行で、高画質テレビへの買い替え需要が進むと目論んでいた家電メーカーの希望は吹き飛び、逆に安い地上デジタル・チューナーが予想以上に売れ、品切れになっている。

不況下で娯楽費を削っている家庭が、テレビまで視聴できなくなっては、政府に対する不満が爆発するだろう。オバマ大統領の政権移行チームは、連邦議会に対して、「周知が徹底しておらず、特に遠隔地や低所得家庭、少数民族地域などに与える影響が大きい」として、急遽、アナログ放送から地上デジタル放送への切り替え日を延期するよう求めている。

すでに発行済みのクーポンでも使用していない家庭もあるので、クーポンが無効となる4月10日を待って、今の財源枠のなかで未使用分を別の家庭向けに再発行するという手もあるが、これではやはり2月17日の切り替えに間に合わない。現政府は追加クーポン用に、2億5000万ドルの追加財源を求めているが、新たな税金の投入に反対の声も強い。

デジタル放送への切り替えは連邦議会が2006年に決定し、昨年の夏からはテレビ各局もさかんに「2009年2月よりアナログ放送は終了し、普通のアンテナではテレビが視聴できなくなるので、デジタル・チューナーを用意して」と呼びかけてきた。しかし実際には電気店の販売員でも、どのような場合にデジタル・チューナーが必要なのか、どのように政府に補助クーポンを請求するかを説明できない人がほとんどだというニュースも耳にした。多様な国民を持つ広い米国で、全国民への周知がいかに難しいかを表す一例である。


米国政府のデジタル・チューナー補助クーポン申し込みサイト。財源分発行済みなので、今はウェイティングリスト状態
https://www.dtv2009.gov/

日本は大丈夫? 総務庁地上デジタルテレビ放送案内
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/whatsnew/digital-broad/

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○CNET「オバマ米大統領、デジタルTV移行延期を提案」2009/01/09
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20386285,00.htm

 

 


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