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ドイツのゴミ屋敷問題で自助グループが提言する精神疾患「メッシー・シンドローム」の対応策

殺人事件が発生するたび、国民の精神が病んでいることを日本のメディアでは良く取り上げているが、ドイツでも最近注目されている精神病がある。名づけてメッシー・シンドローム(Messie-Syndrom)。つまり自宅の掃除や整理ができなくなり、古いものやごみまで集めてしまう精神疾患である。この同概念は実際サイコセラピストの世界では余り使用されていない、メディア用語だ。その語源はアメリカの教育者であるフェルトン氏自身がこの疾患に襲われ、自己解放のために書いた著書のなかで用いたのが最初であるそうだ。

症状として現れるのは、物の収集癖であり、物質の価値判断が出来なくなることから、ものが捨てられずにたまっていくのである。ひどくなると本当に足の踏み場がなくなり、辛うじて住居内での移動ができるよう、ごみでトンネルを作ったりする人がいるほどである。マンションの中が食べカスの入ったパッケージや古新聞などの紙で、数メートルの高さにまで覆われるケースも多い。このような整理能力の欠乏は、物質に対してだけではなく、自己の生活プランなどを優先順位に従ってオーガナイズする能力にも影響を与え、効率よく仕事を運ぶことが出来なくなってしまうため、約束の時間に遅れたり、大事な資料の提出さえ出来なくなってしまうのだ。

住居がごみで埋めつくされ悪臭を放ち、足の踏み場もなくなってくると、知人を招くこともできず、益々社会から孤立してしまい、しまいには自ら溜めたごみの下敷きになってしまった老婦さえいたほどだ。勿論、集めるのはごみだけではない。猫を十数匹ほど飼い、餌をやることもできずに、アパートの一角で死なせたままにしていたケースもある。中には電気代を支払うことさえできなくなり、明かりを取ろうと灯したろうそくの火で、集めた紙切れが燃え上がり火事を起こした男性もいた。

但し一般的にTVで報道されるメッシーのように、外観から判断がつく人物は意外と少なく、外での生活は普通に行い、教師や医者のような仕事に就き、周囲から完ぺき主義者と思われているというメッシーが多いようだ。これは一見矛盾しているようであるが、完ぺき主義であるからこそ、完璧な解決法が見つからないと不安になり、それならいっそのこと解決しようとしないことを選択してしまうために、整理整頓をやめてしまうのが原因らしい。実際メッシーになってしまった人は、こうした自らの家庭事情を恥じるため、助けを受けるのが遅れることが多く、隣人等に見つかった頃には、酸素マスク無しでは作業員が中に入れないほどの酷さになっている。

自助グループによれば、解決法としてまずは自身をメッシーであると認知すること。助けを提供してくれる人の援助を受ける心の準備を持つこと、そしてメッシーになるきっかけを与えてしまった原因などを話し合い、トレーナーをつけ所有品に別れを告げて、廃棄する勇気を持つようにすることが第一である。そして精神学の世界でもいまだ認知されていないメッシー・シンドロームについての情報を公にしようと自助グループはドイツ全国で既に2000年初めから活発な行動を起こしてきたようだ。


▼北ドイツ・メッシー団体
http://www.messie-syndrom.de/

▼「ノック人とツルの森」(作者:アクセル・ブラウンズ/邦訳:河出書房新書)
メッシー・シンドロームの母を持つ子供の話


【編集部ピックアップ関連情報】

○ミユウのいろいろ日記  2009/01/10
 「ノック人とツルの森 アクセル・ブラウンズ 河出書房新社」
 廃棄物を家に持ち込み続けるアディーナの母、庭付きの大きな家(屋敷)
 の中はゴミで埋め尽くされていて、部屋への移動はゴミ崩れの危険を伴う
 “命がけ”。学校では、クラスのいじめっ子グループから受ける毎日の
 暴力。主人公アディーナの視点で語られる3年間(6歳から9歳)の物語は、
 気が滅入るほど暗い内容ですが、何故か軽やかにさえ思えてしまう読み
 心地で、読了後も「もっと続きを読みたい」と思える、不思議な魅力
 (もしくは、魔力)を持った作品です。
http://blogs.dion.ne.jp/inthesky/archives/7989067.html

○おいしい本箱Diary 2008/09/12
 「ノック人とツルの森 アクセル・ブラウンズ 浅井晶子訳 河出書房新社」
 段々激しくなる、母カーラの奇行、同級生の激しいいじめ、そのストレスから、
 ゴミの上におしっこをしてしまうアディーナの行動、と物語は悲惨なのだが、
 作者アクセル・ブラウンズは、独特な言葉遣いとリズムのある文章で、
 そこから生理的な不快感をあまり感じさせない。アディーナという少女の
 視点で描かれる世界は、まさにミクロな価値観に支配されていて、独特の
 美意識の世界。モノも、動物も、人間も、筆者の目を通すと、別の輝きを
 帯びるようで、なにやら懐かしい気配なのである。そのせいだろうか、舞台は
 ドイツなのだが、隣近所で起きていることのように身近な気持ちで読むことが
 できた。
http://oisiihonbako.at.webry.info/200809/article_6.html

 

 

 


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