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クリント・イーストウッドにオスカーを! 新作『グラン・トリノ』大ヒット

(記事要約)

『グラン・トリノ』(イーストウッド監督・主演の新作映画)はパーフェクトにほど遠いながら、パーフェクトなクリント・イーストウッド作品だ。他者がこの脚本を映画化したら、心温まる高尚な作品にはなっても、感傷と月並みな表現でありふれたものにとどまるだろう。

『グラン・トリノ』は、知的で滑稽でものすごく考えさせられる美しい作品だ。エンディングもこの作品にはパーフェクトである。

2009/1/15/VERNON MORNING STAR(カナダ、ブリティッシュ・コロンビアのコミュニティ紙、文Jason Armstrong)


(解説)

クリント・イーストウッド監督・主演の新作映画『グラン・トリノ』への評価がにわかに高まっている。イーストウッド演じる朝鮮戦争退役軍人が隣に住むミャオ族移民を守るために不良少年たちに立ち向かうという話は、老人版『ダーティー・ハリー』とも言われ、全米映画ファンを魅了している。

昨年12月12日、配給元は6館のみで同作品を公開し、その後少しずつ上映館を増やす「プラットフォーム・リリース」という手法で口コミ効果を狙った。1月9日には一気に公開館数を2808館に広げた結果、週末興行成績で2900万ドルを記録し、これまでのイーストウッド作品を凌ぐ勢いで全米1位を獲得した。

通常、その年の優秀作品はアカデミー賞(2月22日)に先立って行われるゴールデン・グローブ賞(1月11日)に引っかかるものの、『グラン・トリノ』はわずか「ベスト・オリジナル・ソング」にノミネートされただけだった。しかし過去2005年には、イーストウッド監督の『ミリオンダラー・ベイビー』が、ゴールデン・グローブ作品賞を獲得したマーチン・スコセッシ監督の『アビエイター』を一気にまくってアカデミー賞主要部門(作品、監督、主演女優、助演男優)を受賞した例もある。

冒頭の「クリント・イーストウッドにオスカーを」と絶賛する記事に共感する人も多いはずだ。素人役者をたくさん使った『グラン・トリノ』は、芝居が荒削り過ぎるため作品賞の受賞は厳しいだろう。一方でイーストウッド(御歳78歳)最後の主演作になるかもしれないので、主演男優賞で華をもたせる可能性はある。

いずれにしても、『グラン・トリノ』は是非オスカーをとらせたいと思わせるほど、いかにもイーストウッドらしいユニークな作品なのだ。

まずは、イーストウッド演じる主人公ウォルト老人がミャオ族の隣人を守るという設定が面白い。しかも敵は少年のギャング集団。「ブロンド美女を巨大マフィア組織から守る」というような陳腐な設定ではなく、アメリカで身近にありそうな現実的シチュエーションである。

タイトル「グラン・トリノ」の意味も興味深い。グラン・トリノはフォードの名車、主人公が大切にしている宝物であり、いかにも古きよきアメリカを象徴している。大手自動車メーカーが経営危機に瀕している今、我々が守るべきものは何だろうと考えさせられる。

政治評論家の副島隆彦氏が指摘するように、イーストウッドはリバタリアン、すなわちアメリカ民衆保守思想の支持者である。リベラル政治による過剰な統制を嫌い、だれもが自由に暮らせる世の中を目指す。

イーストウッド自身2004年USA TODAYのインタビューで「リバタリアンの観点から・・・人々はなりたいものになって、やりたいことをするべきだ。人々に害を及ぼさないかぎりはね」と応えている。

ハリウッドは一般的にリベラルで、弱者を救済し人権を守るという理想を掲げる傾向にある。これが行き過ぎて偽善に陥るのを批判するのが、民衆保守思想だ。社会で蔑まれがちな売春婦をも「大切にしろ」と訴えたイーストウッド作品『許されざるもの』には、彼独特の保守思想が現れていると言えよう。

2009年バラク・オバマ新大統領が就任し8年ぶりの民主党=リベラル政権が誕生する。アメリカ経済危機からの救済が求められる一方で、イーストウッドが投げかけた民衆保守思想=反過剰リベラルの映画が支持されている状況は、誠に興味深い。

これから映画を見る人のために『グラン・トリノ』の結末は伏せておく。しかし『ミリオンダラー・ベイビー』の最後に主人公が尊厳死を選んだように、「これがイーストウッドの回答か!」と共感できるからこそ本作はアメリカで大ヒットしているのだ。これぞ紛れもない深イイ話である。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○CIA☆こちら映画中央情報局です 2008/10/25
 「クリント・イーストウッド俳優引退作品「グラン・トリノ」は、ライフル片手の
 イーストウッドが不良と闘う、老人と少年の過激ふれあい映画だった!! 」
http://blog.livedoor.jp/hirobillyssk/archives/1236780.html


○シネマトゥデイ 2009/01/19
 イーストウッド健在!新作『グラン・トリノ』が1位!
 同作品は、イーストウッド作品の中で歴代ナンバーワンを守っていた
 2000年度の映画『スペース カウボーイ』の週末最高記録である、
 1,810万ドル(約16億3,000万円)の記録を塗りかえた。年を重ねても
 素晴らしい活躍を続けるイーストウッド。ハリウッドのいぶし銀とは、
 まさにこの人のことである。
http://cinematoday.jp/page/N0016588

 

 


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