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オリンピック研究者が下した結論「経済波及効果なんてない」

<記事概要>

 「オリンピックで街に経済効果を!!」というのは全くでたらめ、というのはオリンピックを研究しているウエスタンオンタリオ大学オリンピック研究センターのケビン・ウォルムスリー代表。1984年に開催されたロサンゼルス夏季大会以外は、結局借金を作っただけだと研究結果を語っている。

 最も身近な例はモントリオール夏季大会。大盤振る舞いの建設費は結局15億ドルの借金を作り、完済したのは去年の話という。実に30年以上もオリンピックの付けを払っていたことになる。

 そして今、バンクーバーにもその悪夢が襲いかかろうとしている。

Vancouver Sun(2009年1月14日)


<解説>

 ウォルムスリー代表は、オリンピック開催は、都市再生方法でも経済的波及効果を期待するイベントでもなく、これまでの開催都市に共通しているのは、利益どころか費用超過による負債を抱えるだけだと結論付けている。

 その証拠に、アテネ夏季大会では17億米ドル、トリノ冬季大会では2億米ドル、中国夏季大会では500億米ドルの借金が残ったと例を挙げた。そして、開催地にできることと言えば、五輪開催という『ブランド』を大会後に商業価値として利用できるくらいのことであると説明している。

 来年開催されるバンクーバー冬季大会はどうかというと、ウォルムスリー代表の言葉がグサグサに突き刺さるほど当たっている状況だ。


建設中のバンクーバー選手村一部


■バンクーバー市10億ドルの借金

 去年紹介した選手村建設問題に関して、今月になって状況が悪化していることが1月9日バンクーバーのロバートソン市長の発表で明らかになった。最悪の場合、10億ドルの借金をすべて市が負担することになるという。55万人が10億ドルを抱えるとやっぱりモントリオールの二の舞かということになる。

 経緯はこうだ。選手村建設費は当初7億5000万ドルを予定していた。建設工事は2006年4月、地元のミレニアム・ディベロップメントが2.6ヘクタールの建設予定地を1億9300万ドルという破格で落札し、請け負うことになった。これがそもそもの間違いだった。

 工事が着工し建設は順調に進んでいるかに見えた。しかし、去年11月地元グローブ・アンド・メール紙により、市が建設会社に1億ドルの融資を秘密裏に決定していたことが発覚し、財政難が明らかになった。

 当初建設費は全額をアメリカのヘッジファンドであるフォートレス・インベストメントが融資することになっていたが、建設費が1億2500万ドルも超過したことを理由に、去年の9月フォートレスは3億1700万ドルで融資を停止。市は4億5800万ドルの資金不足に陥ったのだ。

 そこで、市長は資金調達のための今回限定法改正をBC州政府に承認してもらい、現在4億5800万ドルを融資してくれるようフォートレスと交渉中で、それ以外にも融資元を模索中である。

 融資を取り付けたにしても、市が8億7500万ドルとミレニアムが未払いの土地落札価格1億9300万ドルの借金を抱え込むことには変わりない。景気後退が襲ったという不運があったにしても、市のあまりにもお粗末な対応に、現在疑問の声が上がり、調査委員会が設置された。

 実際には、選手村は大会後一般住宅として販売されるので、分譲された販売額が借金返済に充てられる。最終的には1億ドルの借金が残るのではと予想されているが、景気回復次第という情けない状況だ。


■五輪スポンサーが破綻

 年明け早々、こうしたごたごたが明るみに出たかと思えば、14日にはノーテルが破産法適用をカナダ、アメリカで申請し、事実上破綻したというニュースが世界を駆け巡った。ノーテルは、バンクーバー五輪スポンサーで、最大で1億5000万ドルに相当するテレコミュニケーション機器の提供を約束している。

 これに対して同日バンクーバーオリンピック委員会(VANOC)は、直接的な影響はないと発表した。ノーテル側は破綻してもスポンサー契約を継続すると約束している。

 スポンサーで破綻の危機にあるのはノーテルだけではない。最も危ないのはゼネラル・モーターズで、すでに30億ドルの救済をカナダ政府から受けている。また、オリンピックメダルを制作する金属を提供するテック・コミンコも今年に入って業績悪化が深刻化している。

 ただ、今のところスポンサー契約取り消しを申し出た企業はないということだが、スポンサー契約先の選択に問題がなかったか疑問は残る。


■オリンピックで街の活性化を!! は、本当か?

 BC州キャンベル州首相は、大会前も中も後も、バンクーバー、BC州、さらにはカナダに大きな経済活性効果をもたらすとして、五輪招致を推進した。2003年に誘致が決定し、バンクーバーは空前の不動産バブルにも見舞われ、カナダドルが米ドルを超える史上最高値も更新した。2007年のことだ。

 しかし、これは資材費と人件費の高騰という負の副産物も発生させ、建設費はうなぎのぼりに上がっていった。その結果、BC州が現在建設中のメディアセンターは費用が4億ドルから8億ドルに膨れ上がり、バンクーバーとウィスラーを結ぶSea to Sky Highwayの改修費も予算オーバーが確実だ。すべて州の負担、つまり税金である。

 そして、去年不動産バブルははじけ、世界同時経済不況という最悪の状態に陥った。今月発表される連邦政府の予算に、少しはBC州への予算が盛り込まれる。国に泣きついた形だ。VANOCは今月修正予算案を発表する予定で、大幅な緊縮対策が取られていることは公表済みだ。

 こうしてみると、「経済波及効果なんてない」というウォルムスリー代表の言葉が真実味を帯びてくる。せめて2010年頃には景気が回復してくれることを期待するばかりだ。

 ところで、オリンピックと言えば、今年は10月に2016年の開催地が発表される。ウォルムスリー代表は、ロスが2億2500万米ドルもの利益を生み出せたのは、すでにインフラ整備が整っていたし、改修工事費は企業が負担したからだと理由を分析していた。

 そうすると、東京はこの利益を生み出せる条件に当てはまる。2016年には景気も完全回復という楽観的な経済予測もおまけにつけると、かなりの期待大だ。『オリンピックで経済効果は夢のまた夢?!』という、オリンピックの常識を覆せるかもしれない。どちらにしても、政府が推進する五輪招致。地元市民に有益な運営をしてもらいたいものである。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○MediaSabor  2008/11/20
 「オリンピックの光と影。金融危機で窮地に立たされたバンクーバー」
http://mediasabor.jp/2008/11/post_529.html


○大きな国で 「オリンピックの経済効果」2008/08/05
 オリンピックの3大効果として
 (1)関心経済(アテンション・エコノミー)
 (2)ブランド経済
 (3)特需経済
 の3点をあげているが今回の北京オリンピックは 『特需経済』だけが
 期待できそうだ。
http://blog.livedoor.jp/touxia/archives/51001441.html

 

 


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