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イタリアのバールが生き残るには

 ミラノの大学で消費社会学を教えるファブリス教授が、これからのイタリアのバールのありかたについて次のように述べていた。

<記事概要>
 
 イタリア人消費者から絶大な信頼を得ている薬局をみならうべき。薬局は、薬、化粧品などの信頼するに足る商品を売るにとどまらず、顧客の健康相談に答え、健康情報を満載した冊子を用意するなど、付加価値を提供してきた。

 バールが庶民生活にかかせない場所でありたかったら、飲み物を売るだけではなくて、一層のサービスを生み出さなくては。提供できる飲み物、食べ物を増やし、ネットに接続できるようにするなど、できることはいくらでもある。スターバックスの経営者が言っていたことだが、家と職場の中間地点にありながら、家にいるような感覚でくつろげる場所をめざしたのがあのコーヒーチェーンだそうだ。来店してもらうためには、バールの側から顧客との接点を見出すことが大事だ。

(1月23日付 IL SOLE 24OREより)


<解説>

 FIPE(全国飲食店連合)の直近の調査によると、2008年は毎日15百万人のイタリア人が、バールに立ち寄ってコーヒーを飲んだ計算になるそうだ。ただし、1杯の値段が高くても1ユーロのコーヒーですら、最近のイタリア人は倹約する傾向にあるらしい。FIPEの同じ調査では、常習的にバールで金銭を消費する人の4割が、ここ数ヶ月間内で行く回数を減らしたそうである。

 バールの数は、イタリア全土で16万件(2007年調べ)。ちなみに日本では「喫茶店」として数えられるものが全国で8万3千軒だそうだ。人口比を考慮すれば日本の4倍ほどになろうか。

 チェーン店がなく、そのほとんどが小規模経営の店舗ばかりのイタリアのバール。顧客が離れたら店を手放す羽目になるのは必須。しかし他店舗との差別化を図ろうとしている店がどれだけあるだろうか。

 教授が例にだしたスターバックスを目指す前に、特別な設備投資をしなくてもできることはいくらでもあるのに、と思う。小さなことだが、まず床をいつもきれいにしておくこと。個人的な体験で恐縮だが、電車で国境を越えてオーストリアの町を訪れたときに驚いたことは、どのバールの床にも、ちりひとつ落ちていなかったことだ。イタリアのバールだったら、紙ナプキンやレシートぐらい落ちているのが普通なのに。掃除する暇がないほど顧客が次々やってくるということなんだろう、と思ってはみたものの、あれはいただけない。顧客が捨てたら目の前で、さりげなくイヤミにならないように掃除すればいい。そうすれば顧客だって捨てなくなる。

 それから水。水道水を日本の飲食店のようにセルフサービスでもいいから無料提供したらどうか。実はイタリアの水道水、案外おいしいのである。飲み水の検査は厳しく、ディスカウントショップで売っているようなミネラルウォーターなどよりずっと信頼できる、と少なくともわたしは思っている。

 ネット環境を整えるのもいいが、難しそうだ。せめて女性が1人で入って、ゆっくり読書でもできる場所になってくれればいい。そうしたら、多少コーヒーの値段があがっても(イタリアではテーブル席のコーヒー一杯は立ち飲みのそれより値段が高い)、気晴らしに出かけることもあるだろう。

 さて、お目にかかれない外国の食べ物が一体ここにはあるのか、というほどなんでも食べられるグルメ都市東京だが、さすがにコレだけは味わえないだろう、とあきらめていたのが、イタリア式の濃いコーヒーだ。ところがここ数年、イタリアのコーヒー豆ブランド、SEGAFREDOの看板を掲げたバールを東京で見かけるようになった。そしてつい先日、試しに入ってみて驚いた。調度から商品まですべてイタリアのもの。コーヒーもまさに本物のイタリアのバールの味だった。さらに、ウェイター(ここはバリスタというべきか)が顧客に挨拶するのも、注文を厨房に伝えるのもイタリア語。イタリアらしさを出すのにここまで徹底するのか!とすなおに感心したものだ。

 日本の飲食店に見る活気とバリエーションは、外からやってくるこうした「新しいもの」に支えられているのだろう。イタリアのバールにも新しい風が吹いてくれることを望む。たとえそれが世界不況の産物だったとしても。オバマ大統領じゃないが、イタリア人だって「変われる」はずだ。


<参考文献>

IL SOLE 24ORE (2009.1.23) 
http://www.b2b24.ilsole24ore.com/articoli/0,1254,24_ART_2229_cmsBG,00.html?lw=24;6

FIPEの調査報告書「イタリア人とバールについて」
http://www.fipe.it/fipe/Centro-stu/Ricerche/italiani-al-bar.pdf

日本の飲食店数
http://www.pref.osaka.jp/aid/naniwa/naniwa2006/n2006_08_04.pdf

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○Europe Salsa 「コーヒーについてあれこれ 日本編」2008/11/24
 というわけでボクは、日本で旨い「カフェ」を探すことにした。
 まず思いつくのは、日本に進出しているイタリアンブランドの
 コーヒー会社が出店している店。きっと日本でも旨いコーヒーを
 出しているだろう。思いつくのは以下の3ブランド。どれも
 コーヒー豆のブランドとしてはメジャーだ。
http://euro-salsa.cocolog-nifty.com/blog/2008/11/post-2bbe.html


○spot Segafredo(YouTube 00:47)
http://jp.youtube.com/watch?v=tryv4Ojb6OM

 

 


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