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YouTubeとメジャー・レコード会社提携の一角崩れる。容易でない共存共栄への道

  • レコード・コレクターズ 編集部
  • 祢屋 康

 08年末のニュースで気になったのが、米ワーナー・ミュージック・グループがYouTubeとの契約更新にあたり、条件が折り合わず同社所属アーティストのミュージック・ビデオを削除するよう要請したというもの(YouTube側が削除しているという報道もあるが…)。ワーナーはアメリカの4大メジャー・レコード会社の中で、いち早くYouTubeと契約して自社のビデオを提供していただけにどうして、と不思議な気がしたのだ。

 ニュースを見た12月21日ごろからすでに2週間ほど経っている今では、ワーナー・ブラザーズ・レコーズのYouTubeのチャンネルでは、マドンナ、エリック・クラプトンなどのアーティストのビデオ・クリップはもうすでに見られなくなっているものが多いようだ。

 YouTubeでは、動画が1回ストリーム再生されるごとに、0.5セント程度の料金が広告収入からレコード会社に払われるというような契約になっているそうだが、ワーナーがYouTubeから受けている収益は、ワーナーのデジタル・コンテンツの総売上高の1パーセント以下だという。

 いろいろなニュース・サイトの記事を見ていると、4大メジャーの一つのユニヴァーサルのデジタル部門のヘッドは、「2005年以前はほとんどゼロに近かったミュージック・ビデオからの収益が何百万ドルにもなっている」と言っているが、こちらはデジタル部門の売り上げの何パーセントになっているのかはわからないので、単純に比較はできない。そもそもプロモーション・ビデオは見られてナンボ、という感じはするので、そこから収益を得ようというのは違うのでは、と思ったりもするのだが。

 しかし、今では僕自身も新作をチェックしたり、どこかのサイトで情報だけ得た知らない曲を“聴く”ために、まずYouTubeを検索したりするわけで、しかもそれがフルで聴けるとすれば、音楽にさほどお金を掛けたくないユーザーだったら、これだけで済ませてしまうようになっているかもしれない。

 iTunesは違法ファイル交換でめちゃくちゃになっていたインターネットでの音楽環境を、きちんとした“配信”という形でビジネスに立て直したが、YouTubeは画像の小さい動画という形ではあるし、音もモノラルだったりするけれども、ある意味ほとんど無料配信に近い状態を作り出している。以前、ナップスターやLast fmを紹介した記事でも同じようなことを書いたが、音楽が水のように無料でいくらでも聴ける、あるいは手元にファイルを持っていなくてもいつでもアクセスできるデータベースがネットにある、その何歩か手前の状況に近いものが(もちろん限られたアーティストの曲ではあるものの)、現実になっているといえなくもない。よって、そこから得られる収益はレコード会社にとってはホントに微々たるものだったりするのだろうか。こうなると“プロモーション”なのか、無料配信なのか、その線引きが難しくなってくる。

 『ウォール・ストリート・ジャーナル』インターネット版の12月22日の記事では、4大メジャーそれぞれ契約している条件が違うのではないか、とワーナーが自社のビデオをYouTubeから引き上げるという行動に出た理由を推測していた。他の会社とのスタンスの違いもそれで説明できるし、ワーナーの重役は、マイスペースやAOLなど他の動画が見られるサイトに較べてYouTubeの料金は安すぎるとも言っているようだ。

 たいていのニュース・サイトの記事でも指摘されているように、このことで、すぐに他のメジャー・レコード会社が自分たちのレーベルのミュージック・ビデオをYouTubeから引き上げる事態には至らないだろうというのが大方の見方だが、iTunesなどの配信も含めて、今の低料金では、CDの現物に比して音楽配信では十分な利益を生み出せないという状況もあるのかもしれない。あと数カ月のうちにほかのメジャー・レコード会社とYouTubeの契約も更新されるそうなので、そのときに他のメーカーがどういう対応をするのかが興味深い。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○CNET  2008/12/22
 「YouTube、Warner Musicとのライセンス契約更新をめぐる交渉が決裂」
 YouTubeは、米国4大レコード会社のうち少なくとも1社の重要な収入源と
 なっている。Universal Musicのデジタル部門でチーフを務める
 Rio Caraeff氏は先週CNET Newsに対し、YouTubeは2008年に
 Universal Musicに対して、前年比80%増となる「数千万ドル」の収入を
 生み出したと語った。
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20385695,00.htm


○松崎弘和NEWS  2008/12/22
 「ワーナー・ミュージック、ユーチューブから音楽ビデオ引き上げ」
 昔、レンタル業界でもVHSからDVDに移行する際、同じようなことが起こった。
http://matsunews.blog79.fc2.com/blog-entry-11.html

 

 


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