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2009年、年初めフィンランドのケータイ事情小噺3話 --DMで先読みできた“嫌な予感”--

■第1話: 音はいずこに?

 2009年に入って、久々にヘルシンキ行きの電車に乗って、驚いた。――なんと、通話や呼び出し音の喧騒が――無い! というのも、首都圏の公共交通機関を中心に、1月から「アラ・カイロタ(Älä kailota=意訳:迷惑音拡散防止)」キャンペーンが、再び実施されているのだ。それに伴い、1月8日付の公共交通機関用フリーペーパー『リンヤッラ(Linjalla)』では、キャンペーンの紹介とともに、乗客に対するマナーの改善を呼びかける記事が掲載された。

 実はこのキャンペーン、昨年にも実施されており、“ヴゥオデン・タパテコ(Vuoden Tapateko)賞”という、年内で最も効果があったマナー改善運動に対して与えられる賞も獲得しているが、具体的な法律や規制、罰則などは設けてはいない。が、キツキツに縛りつけることはせず、“ケータイで話した社外秘を周囲の人に聞かれてしまうこともある”など、個人個人の損得に訴えたところが効果的だったらしい。実際に、520万人という少ない人口の国では、隣に座った赤の他人が巡り巡って知り合いの知り合い、あるいはライバル会社の営業マンだったなんてことはザラなのだ。

■第2話: ケータイと児童

 規制といえば、いじめに悪用したり、授業の妨害になることがあるため、日本では小学生のケータイの所持が禁止される方向にあるそうだが、フィンランドでは、ケータイは、子どもの安全を確認する為に欠かすことができない必須アイテムという認識があり、その所持が疑問視されることは、まずない。学校では、授業中はマナーモードの適用が義務付けられており、昼休みには使用も可能だ。授業を妨害する生徒のケータイは、先生が預かってもいいことになっている。ケータイを使ったいじめにしても、せいぜい無言電話止まりだという。

 それが実現可能なのも、1クラスの生徒数が15から25人という少人数制という最大の強みがある。「日本のように30から40人もいたら?」と周りのフィンランド人に問いかけると、「そんなの無理」「よっぽど強い規制がないと」と学校の先生に同情を示す反応が返ってきた。その一方で、フィンランドでは、ケータイの使い過ぎによる、小学生の耳の健康が危ぶまれている。女性の8割が家の外で働く共働きの国では、「ご飯食べた?」「宿題終わった?」と『8時だヨ!全員集合』のエンディングよろしく、親がせわしく職場から子どもに電話をかけたり、手持無沙汰で寂しいのか、大した用もないのにちょくちょく親に電話を入れたり、長電話をする子どもが多いのだ。

■第3話: ノキアの嫌な予感

 さて最後に、去る1月22日、2008年第4四半期のノキアの決算報告が発表され、――利益高が、前年同期の26億ユーロから4億7600万ユーロへの大幅減少という、ここ10年間で最悪の数字が――フィンランド各局の報道番組のトップを飾った。英語による記者会見の場で、ノキアのオリ=ペッカ・カッラスウヴォ最高経営責任者(CEO)は「携帯端末の過剰在庫が解消されれば持ち直すであろう」と回答し、その一方で、「コスト削減やそれに伴う“人員削減にも”厳しい目を向けなくては」という発言も残した。当日のノキア関連のニュースの視聴率は、15%にも上ったという(出典:フィンランド国営放送YLE)。

 振り返ると、2008年のクリスマス商戦では、個人宅宛にノキア製品のDMが配布され、勘の良い人は、早速それを“嫌な予感”と捉えていた。“グローバル企業”たるもの、海外の市場でそれなりの成果を上げていれば、わざわざフィンランド国内で広告を打つ必要などないからである。また、国内シェア1位を貫いてはいるものの、街ゆく人の手にはサムソンやモトローラ製のケータイもここ数年で目立ってきている。以前のように「フィンランド人たるもの、ケータイはノキア製を」という風潮は見られなくなってきたのだ。

 さらに、人員削減も、既に一部の長期就業者に対して自主退職する場合には給与の一年分を支払うなど、ノキア史上初めてかといわれる手法も登場しており、「ノキア社員であることを、身内、親族の誇り、そしてお国への貢献のように感じていた」――という、肩の荷が下りてさっぱりした元社員の弁をあちこちで耳にした。以前であれば「辞めたい人は勝手に辞めれば」とばかりに、強気のノキアが自主退職者にこのような好待遇をすることは、まずあり得なかったという。♪やめーてうーれしーい、はーないーちもーんめ♪ といったところだろうか。それでも、世界シェア37%(2008年第4四半期)で独走を続けるノキアの動向に、引き続き目を光らせたい。

 

 


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