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バンクーバーでゴールドラッシュ! 88億で金を量産

 バンクーバーで『金』を量産する!! これが来年のカナダの至上命令だ!!
とは、バンクーバー五輪の話。しかし、カナダにとっては悲願ともいうべき切実な問題だ。

 カナダはこれまで1976年夏季モントリオール大会、1988年冬季カルガリー大会といずれの開催国大会でも、『金メダルゼロ』という情けない結果に終わった。歴代開催国で唯一自国開催金メダルなしという汚名までもかぶり、これが事実かどうかは定かではないが、それでも今回は汚名返上とばかりにかなり気合いが入っている。

 4年前の2005年、“Own the Podium”をCOCとVANOCの発案で立ち上げた。2010年のオリンピックではメダル総数トップ、パラリンピックでは金メダル数3位以内を目指す、5年間で1億1000万ドル(1カナダドル約80円:88億円)をかけた選手強化プログラムだ。

 その成果ともいうべき結果が今季のW杯や国際大会などで表れている。特に2月に入ってバンクーバーとウィスラーで行われたオリンピックテスト大会も兼ねた各競技では、30メダル中21を獲得。フリースタイルスキーでは、モーグル、エアリアル、スキークロスのうち女子エアリアルを除いて、金メダルはすべてカナダ選手が勝ち取り、スキークロス男子は表彰台を独占。カナダが圧倒的な強さを見せた。

 今大会で選手たちは、地元開催ということでファンの声援もあったが、何よりトレーニング施設として本番施設を使えたことがよかった、と口を揃えた。今年、モーグルの上村愛子選手に話を聞いた時、「去年のコースの感じを体でまだ覚えているので、練習でその感覚を取り戻したい」と言っていた。選手はそれほどコースに敏感なのだ。

 本番会場をトレーニングとして他国が利用するには150万円ほどの使用料が取られると聞いた。それを思えば、天候に左右される冬季オリンピックで、あらゆる天候に対応できるようこの地でトレーニングを積めるということは絶対的に有利である。

 本番の会場をトレーニングで使えることも、強化プログラムの一環である。他にも経済的な支援はもちろん、最新技術、情報収集などありとあらゆる面で選手たちをサポートしている。
 
 もともとカナダはウィンタースポーツが盛んで、これまでのオリンピックでも決してメダル数が少ないわけではなかった。2006年トリノではメダル数24、金7、銀10、銅7を獲得している。

 今回の強化プログラムは、もともとある才能に経済的な余裕を与えたことで一気に開花しているように見える。強化4年目の今季は特に好調で現時点でメダル数115を獲得しており、ドイツの160に次ぐ2番目である。トリノでもメダル数29で1位だったドイツが目標で、来年に向け着実に成果をあげている。さすがにバンクーバーで『金ゼロ』ということはないだろう。

 では、量産すればそれでいいかというと実はそうでもない。金はその『質』も大事なのである。そう、どの競技で金を取るかも重要なポイントとなる。

 2月12日は1年前カウントダウン記念日で、同日付のバンクーバー・サン紙に面白い記事が載っていた。

 『たとえ、OTP(強化プログラム)が成功してバンクーバーで過去最高のメダル数を獲得したとしても、もし、男子(アイス)ホッケーが金メダルを取れなかったら。それでも我々カナディアンは本当に開催国としてハッピーになれるだろうか』という問いかけだ。彼の答えは “Doubtful”、『疑わしい』である。

 つまり、バンクーバーオリンピックでのカナダ初自国開催金メダルよりも、最終種目で取る金メダルの価値の方が国民にとっては大きいというのだ。これは大げさではなく事実で、トリノであれだけの選手が活躍しても、カナダ人が覚えているのは、アイスホッケー7位という汚名である。この時のチームカナダの年棒は総額9700万米ドル(1米ドル約100円:97億円)。国民が失望するのも無理はなかった。そして、今度こそとの期待は異常なまでに膨らんでいる。

 その期待を一身に受けているのが、エクゼクティブ・ディレクターに決定したスティーブ・アイザーマン。その重責はどれほどのものかと思う。本人は、「カナディアンである以上、名誉なことだ」と覚悟をきめているようだ。BC州出身でもある彼にとって、その思いは特別だろう。

 強化プログラムが成功し、カナダが目標とするメダル数30個以上を獲得する、そしてその有終の美を飾るのが、オリンピック最終種目アイスホッケー男子の『金メダル』である。開催国としての意地とカナディアンとしての誇りを同時に世界に示す。これが今、カナダ国民が思い描いているバンクーバーの夢『ゴールドラッシュ』なのである。

 

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○MediaSabor  「ハートに刻んだメープルリーフのTATOO」2008/10/30
http://mediasabor.jp/2008/10/tatoo.html

 

 


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