不況知らずのニッチ製造業in NY
- 米国在住ジャーナリスト
連日のように「今日はXXX社がXXX人の人員削減を発表」というニュースが聞こえてくる。金融危機が引き金となったアメリカの大不況。その発信地でもあるニューヨークの失業率は7.4%(2008年12月)と全国平均7.2%を上回っている。
しかし、1月11日付けのニューヨーク・タイムズに興味深い記事があった。タイトルは『ニューヨークのニッチ製造業に危機なし』。マンハッタンの対岸ブルックリンにある工業団地ネイヴィー・ヤードでは、様々な小規模の製造業者が、不況知らずのビジネスを続けているというものだ。
たとえば以下のような製造業者が例として挙げられている。
Bien Hecho:$3000のパインテーブルなど高級木工製品製造。従業員3名。$2000のドリル・プレスを購入し、一人増員し、作業スペースを倍にする予定。
Stiegelbauer Associates:テレビのセットを製作。従業員15名。番組数は減ったが、レギュラー・クライアント『サタデーナイトライブ』の発注で持ちこたえている。
Caleb Crye:米海軍特殊部隊の耐火ユニフォームや防護パッド製造。従業員100名(うち70名がネイヴィー・ヤード勤務)。安全対策製品には需要減が見られない。
DeVore Fidelity:$2000から$16800の高級スピーカー製造。従業員3名。海外からの発注は減ったが、西海岸のオーディオ・ショップに新たな注文が増えバランスを保っている。
Scott Jordan:$2600のソファ、$3000のベッドなど特注家具製造業者。11月の売り上げは前年比30%減ながら、クリスマスには発注が増えた。裕福な顧客は「次の給料の小切手がどこでもらえるかなど気にしない」とコメント。
いずれも特殊な市場に製品を提供する、小規模のニッチ製造業者である。HOME DEPOTなど大型ホームセンターが大幅なレイオフを強いられている現状で、特殊技術を駆使して手堅いビジネスをする人たちは強いのだ。
ブルックリン商工会は2008年秋の労働市場レビューにおいて、「ブルックリンのニッチ製造業者は新しい雇用を生んでいる」とのデーターを発表した。2001年から2007年の間、製造業者25000人のうち25%を占めるニッチ製造業者では合計17%の雇用増があったという。全体では40%の雇用減、雇用が減少した分野だけでは48%の雇用減が報告されている。
ちなみに上記レビューで2001年から2007年にかけて雇用増の著しい業種は以下の通り。
特殊冷凍フード製造:512人雇用、153人=42.6%増
フルーツ、野菜缶詰製造:164人雇用、54人=49.4%増
乾燥パスタ製造:127人雇用、101人=393.2%増
木製窓およびドア製造:218人雇用、83人=61.8%増
簡易印刷:229人雇用、84人=58.1%増
特注建築木材:109人雇用、55人=100.5%増
中にはたまたま大きな工場ができて急増した数字もあろうから、急増した分野=トレンディと結論を急ぐことはできない。しかし、何となく地道な製造業に光明ありというイメージは掴むことができる。
職人強し! そんな時代も悪くない。大量生産、大量消費が破綻するのであれば、丹精こめて作られた製品を長く大切に使うという発想が見直されることだろう。不況が泥沼化し、小さな製造業までも飲み込み、「ニッチもさっちも行かない」状況だけは避けたいものだ。
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