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ポップ・スターが集結した米大統領就任式にまつわる話題

  • レコード・コレクターズ 編集部
  • 祢屋 康

 オバマ大統領の就任式からしばらく経つが、その後もいろいろと音楽ファンには面白い、就任式にまつわる話題が報じられている。

 就任式で‘My Country 'Tis Of Thee(America)’を歌ったアレサ・フランクリンはアメリカを代表するソウル─R&B・シンガーだが、その前後のガラなどで登場した、スティーヴィー・ワンダーやブルース・スプリングスティーン、U2なども含め、大統領の就任式といういわばフォーマルな場でポップ・スターが大勢集まってお祝いをしているのを見ると、ポピュラー音楽はアメリカにおいては、文化の中心的な役割を果たしているということも改めて実感されて面白かった。

 アレサ・フランクリンはあの場の厳粛な雰囲気の中にあって、十分心に訴えかける歌だったと思ったけれど、ご本人は当日の気温(マイナス8度だったそうだ)のせいか、平均以下の出来だと式の翌日のインタヴューでは言っていた。それがよほど心残りだったのか、その‘My Country 'Tis Of Thee’を改めてレコーディングして、iTunesやアマゾンなどの配信でリリースするという話もあるそうである。

 就任式の後に行なわれた舞踏会では、ビヨンセの歌う‘At Last’に合わせてオバマ夫妻がダンスを踊るシーンも、ニュース映像などで見ているとすごく印象的だった。この‘At Last’は61年のエタ・ジェイムスの代表的ヒットとして知られている曲(それ以前にもナット・キング・コールなどが歌っているようだ)。

 ビヨンセがこの曲を歌ったのはたぶん、08年に映画『キャデラック・レコーズ』(サントラ盤は昨年12月に日本発売されているが、映画の公開は未定)で、歌っていたからだろう。『キャデラック・レコーズ』は、シカゴの有名なレコード会社、チェス・レコードをモデルにした映画で、チェス・レコードに集まったブルースやロックンロール・アーティストとチェス・レコードの隆盛を描いたものだそうだが、この映画の中でビヨンセはチェスのアーティストであったエタ・ジェイムスの役をやっている。


『キャデラック・レコーズ』サウンドトラック
(真ん中がエタ・ジェイムスに扮したビヨンセ)

 映画の歌唱シーンでは、客席にそのエタ・ジェイムス本人が座っているというようなシーンもあるらしいのだが、そのエタ・ジェイムスが最近、ビヨンセがこの舞踏会で‘At Last’を歌ったことを非難したらしく、これがまたちょっと話題をまいているそうだ。エタ・ジェイムスは現在71歳だからアレサよりもちょっと年上。まあ、アレサは就任式で呼ばれたのに、私の持ち歌をやるのにビヨンセを呼ぶとは何事だ、ということだったのだろうか。ビヨンセは、08年の2月にもグラミー賞でティナ・ターナーと競演したときにはティナの足を踏んづけたり、そのティナを「クイーン」と呼んだことで、アレサ・フランクリンに怒られたり(“クイーン・オブ・ソウル”とはアレサのことだ…)、他にもいろいろと大変だそうである。

 アレサが就任式でかぶっていた帽子(グレイの大きなリボンのついたやつですね)がヘンだというようなことも、アメリカではブログなどでかなり話題になったりしていたらしい。まあ、どうでもいいといえばどうでもいい話だが、アレサがデトロイトのなじみの帽子屋さんに就任式のために作ってもらったもののようで、その帽子を作ったLuke Songさんも話題の人になったようだ(お店のサイト=http://www.mrsongmillinery.com/documents/home.html)。

 しかし、彼が言うには、「世間の人のあの帽子に対するネガティヴな発言を見てびっくりしたが、多くの人はブラック・カルチャーを理解していない、あれは黒人教会ではなじみのあるものなんだ」とのことで、そう言われると確かに、みんなああいう大きな帽子をかぶって正装して教会に行く、というのがひとつの流儀になっているのは、映画でのそういうシーンを思い出せばよくわかる。

 そのアレサの父親のC.L.フランクリンは牧師で、マーティン・ルーサー・キングとも親交があった人。それで、アレサは今回、ワシントンのオバマ大統領のもとを訪れたときにはその父の説教(の入ったテープだろうか)を持って行ったそうだ。そういう意味では、有名な牧師を父に持ち、もともとゴスペルの世界から出てきたアレサ・フランクリンはポップ・シンガーというだけでなく、教会や公民権運動にも縁の深い人なわけで、オバマ大統領の就任式での歌唱を頼まれたのにはそんな理由もあったのだろう。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○Tex の独断フィルムレビュー&More 『Cadillac Records』(原題) 2009/01/14
 少しストレートに作りすぎた感もあるが、ブラック・ミュージックの
 歴史を知る上でも、音楽ファンには、マストな映画。
http://blog.livedoor.jp/joe_tex/archives/65142244.html


○シネマトゥデイ 2008/12/07
 「ビヨンセも出演!伝説的レコード・レーベルを描く話題作!」
 実在した人物マディについてジェフリーは「マディは、何もない状態から
 スタートした人なんだ。ろくに自由もなく、奴隷のような扱いを受けていた
 少年時代から、逆境を乗り越えて、何とか曲を作り上げてきたんだ。
 ヒーローと呼べるアーティストだと思うね」と力強く語ってくれた。
http://cinematoday.jp/page/N0016182

 

 


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