Entry

Webサービスにおける集中と選択の効果

「リグレト」というサービスがあります。PC版もケータイ版もありますが、いずれにしてもできることと言うのは実にシンプルなことです。

http://rigureto.jp/



・生活での「凹み」を投稿する
・誰かの凹みの「なぐさめ」を投稿する
・なぐさめに感じるものがあったらなぐさめに対して「ありがとう」を送ることができる

たった、この3つだけ、見事にこれしかできません。しかし、実はこのリグレトに人が集まりだしています。

 リンク: ヘコんだ話"共有コミュニティ「リグレト」の累計投稿数、100万件を突破 ─VENTURE VIEW
http://v.japan.cnet.com/news/article/story/0,2000067548,20387545,00.htm

なんと累計の投稿数が100万件を突破したのです。しかも特筆すべきことは、その内訳。100万件の投稿のうち、凹みは18万件。なぐさめが87万件。なんと圧倒的になぐさめのことが多いのです。さらに、そのなぐさめに返答した「ありがとう」は700万件を超えているという。

では、このコンテンツを支えているシステム設計とはどういうものか。実はここにもリグレトの非常にユニークな側面があります。Web2.0の流れ以降、こういったコンテンツが爆発的に流通するWebサービスはPCであろうがケータイであろうが、ある程度ソーシャルな側面を持ってきていました。

ソーシャルにはIDというものが必須となっています。つまり、あるコンテンツには必ずその投稿者であるIDが付けられており、その属人性がシステム設計の根本となっています。その最も典型的な例はmixiやモバゲーに代表されるSNSであり、はてなブックマークに代表されるソーシャルブックマークサービスです。この傾向は新しいWebサービスと言われているFacebookやtwitterでもより重視されることはあっても、放棄されることはありません。

しかし、リグレトの投稿にはこのIDがありません。つまり、すべての投稿はアノニマスな投稿です。属人性は全くありません。つまり、誰が「凹み」を投稿したとか、誰に「なぐさめ」られたとか、誰から「ありがとう」と言われたとか、そういったこれまでのソーシャルメディアで重要とされ、かつコンテンツを生み出す原動力とされてきた情報は完全にユーザーから遮断されているのです。

これからのWebサービスを考える上で、このリグレトの姿勢は充分すぎるほどの示唆を与えてくれます。必要な要素だけに絞り込み、その要素を阻害するものは徹底的に排除していくのです。そもそもリグレトに投稿されているのは「凹み」です。ここに属人性が伴ったら、いい側面も当然ありますが、ねたみやそねみといった人として当り前に持っているマイナスの感情も生成されてしまう危険性を孕んでいます。その結果、一時的なトラフィックの増加は期待できるかもしれませんが、中長期的に見れば、Webサービスの根幹を揺るがしかねません。

そう考えてみると、2007年に登場したDropboxやEvernoteといったWebサービスでも、サービスの根幹部分にのみ開発を集中させているという傾向を確認することもできるでしょう。さらに、いまだに最高のWeb2.0のWebサービスだと思っているFlickrは既にこの要素を持っており、これについては脱帽するしかありません。

Webサービスについて考えてみるとき、「本当に必要な要素はどこにあるのか?」という目線で見つめ直してみると、新しい発見があるかもしれません。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○ITmedia News  2008/10/06
 なぐさめサイト「リグレト」生んだ、音大出身のアーティスト社長
 遠藤社長は普段から「何かあると、ネットサービスに置き換えたら
 どうなるかと考えている」という。リグレトのヒントになったのは、
 友人が読んでいた心理学の本だ。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0810/06/news024.html


○WIRED VISION  2009/02/09
 「ヘコむ」を楽しむ『リグレト』で癒されてみませんか
 通常の占いサイトなどでは、インプットしたデータに従い、機械的に診断結果が
 表示されるだけです。しかし、リグレトから得られるなぐさめは、正真正銘、
 実際に生身の人間から自分だけに発せられた言葉だ、というところが大きな効力
 を発揮しているのかもしれません。
http://wiredvision.jp/blog/nishihori/200902/200902090900.html


○syttruの日記「今流行のWebサービスを分類してみた」のリンク集 2009/01/07
http://d.hatena.ne.jp/syttru/20090107/1231347937

 

 

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/995