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縮小する携帯市場。日々是、フィンランドのメディアをにぎわすノキア小噺2話

■第1話:予告通りの人員削減始まる

 前回お話した、2008年第4四半期のノキアの決算報告に伴う、オリ=ペッカ・カッラスヴォ最高経営責任者(CEO)による“人員削減”の予告が、着々と現実のものとなってきている。ノキアはこれまで、様々な局面を迎えては、世界各地の支社での人員削減及び、事業所の閉鎖などを行ってきたが、この世界的な不況を受けて、いよいよ国内にもその手が及んでいる。

 まずは、工場もあるサロで、2500人の従業員に対し、3ヶ月間の一時的な解雇が計画されており、既に派遣社員や契約社員の数は減らされているという。これにより、サロの工場からの生産が25%の削減になると予測されている。ノキアは、携帯端末の8割を自社で製造。中でもサロの工場は、最も高価で技術力を要するモデルの端末を製造しており、少なくなった人員で、生産ラインを止めてはならないプレッシャーに、現場は動揺の渦中にあるという。

 さらには、ユヴァスキュラの研究開発部(従業員数320人)も閉鎖されることが決まった。当部は、スマートフォンとそのカメラの開発拠点になっていたが、ここ2年間でノキアのスマートフォンのシェアは、20%以上も減退。ありとあらゆる閉鎖以外の道を追求した上での苦渋の選択だったという。

 また、2月24日の民放MTV3局のニュースによると、ノキアでは、従業員に対し、1000人限定で、約15か月分(就業年数により異なる)の給与を支払う条件付きで自主退職者の募集を開始した。これによって十分な自主退職者が集まらない場合に限り、従業員の解雇に踏み切る予定だと報じられている。ノキアは、今年の携帯市場は前年比で10%もの落ち込みを予想している。コスト削減の目標値は7億ユーロ。ここ10年間右肩上がりを続けてきた携帯市場の売上減退は、深刻なものとなっている。コスト削減はまだまだ続く見込みだ。

■第2話:ノキアの名の付く法案

 ノキアの話題は、フィンランド国内の政治にまで及ぶ。2月25日に中間議決を通った法案とは、その名も「レックス・ノキア」。内容は、企業や団体をスパイ行為から守るため、雇用者に従業員のEメールの送信先と添付ファイルの調査を許可するというものである(メッセージ本文は読むことはできない)。このような調査行為は、プライバシーの侵害に当たり、フィンランドの憲法に反する。

 法案の名前の由来は、過去にノキアが従業員のEメールを検閲した2つの事件にある。まず、2000年から2001年にかけて、元ノキアのキーパーソン、ハッリカイネン氏が設立したマイクロセル社が、ノキアの競合他社向けに携帯端末製造のアウトソーシングを始め急成長を遂げたこと。そして2005年には、中国のネットワーク製造業、フアウェイがノキアモデルに酷似した基地局を展示会で発表していたことがあった。それを機に再び、従業員から送信されたEメールの配信記録に対して検閲が行われた。このような007さながらのスパイ大作戦も起こりうる業界ゆえに、従業員のプライバシーの保護などと生ぬるいことを言っていられなくなったのだろう。2006年、ノキアとフィンランド製造業連盟は、上記の法案作成に身を乗り出した。

 さらに2009年2月、ヘルシンギンサノマット紙において、2006年にノキアは、「もしこの法案が否決されたら、本社を従業員のEメール検閲が合法な国へ移す」と脅迫じみた発言をし、数多くの国会議員が法案可決の方向に動いたことが報じられた。国として、フィンランド最大の納税企業ノキアを失うのは、由々しき大問題なのである。

 これに対して、ノキアのCEO、オリ=ペッカ・カッラスヴォ氏はその事実を否定。ヴァンハネン首相も「ノキアからそのような圧力は受けていない」と否定。リンデン通産省長官も否定の声明を出しながら、「秘密漏洩の疑いがある場合に、雇用者は従業員を脱衣検査してもいい」などと迷言も発し、カタイネン財務省長官に至っては「そんな法案ありましたっけ?」と、これまた大失言。法案の動向と、一連の「言った」「言わない」のゴシップで、この2月はニュースから目が離せない日々が続いた。

 また、この法案は、1)「社外秘」の定義が不明瞭で、2)その適用が、実際に社外秘漏えいによって被害を受ける民営の企業に限定しておらず、学校団体なども含み、3)現行の通りだとメール閲覧に関しては、職場の上司が警察よりも強い権限を持つようになってしまう。4)そもそも社用メールを使って社外秘を外部に漏らすバカはいないだろう、などといった問題点もたくさん抱えている。「レックス・ノキア」の最終決議の結果は、また次回にお知らせしよう。

 


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