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『ミュージック・マガジン』創刊40周年記念号と共にジャンル横断のメリットを考える 

 僕が携わっている『レコード・コレクターズ』の兄弟誌でもあり、社名でもある『ミュージック・マガジン』が、この3月に創刊40周年記念号を出しました。僕自身が初めて手にした『ミュージック・マガジン』が創刊20周年記念号(1989年4月号)だったこともあって、なかなか感慨深いものがあります。

 20年前の僕はまだ十代。つまり、自分の生きてきた時間よりも雑誌の歴史のほうが長かったわけで、「ずいぶん長く続いている本だな…」と当時は思ったわけですが、その長く感じていた時間と同じだけの時間があのときから経ってしまったという事実には、やはり特別な感情が生まれてきます。

 実は、この創刊20周年記念号が発売されたとき、僕はある大手のレコード店で働かせてもらっていました。僕の通っていた高校は大学の系属校だったため、推薦が決まると自由登校といえる状態になります。友人の多くは自動車の免許を取得したりしていたのですが、僕自身は当面のコンサート・チケット代やら機材(この当時はバンド活動に燃えていたので…)にかかるお金が必要だったこともあって、88年の暮れから89年3月までの短い期間、働かせてもらうことにしました。大学卒業後は音楽関係の仕事につきたいと思っていたので、レコード店で働くということに強い関心があったことももちろんありました。

 今も鮮明に覚えているのは、昭和天皇崩御のニュースがあった日のこと。急いでネクタイとスーツを前日に準備していたものから替えて職場に駆けつけると、その日は全員がすぐに勢揃いして、開店前の短い時間に店内装飾を白と黒に統一しました。

 大学生活に入るため、まもなくレコード店を離れる3月の終わりごろ、ベテラン社員から「将来、音楽の仕事につきたいのなら、これを読んでいなきゃダメだ」と教えられたのが『ミュージック・マガジン』でした。僕はこの先輩からの「ロックやるなら酒が飲めなきゃダメだ」とか「ロックやるならタバコ吸わなきゃダメだ」といった忠言をいちいち無視してきたのですが、「音楽の仕事につきたいのなら」という言葉には抗えず、素直に従いました。そして、そのときに店頭に並んでいたのが「創刊20周年記念号」だったんです(この先輩社員とは、98年にキング・クリムゾンのコンヴェンションで再会を果たしました)。

 毎月、音楽雑誌から積極的に情報を得るように努めていましたので、雑誌の存在自体はそれ以前から知っていたようにも思います。ただ、表紙のイラストといい、雑誌の版型といい、十代の若者が手に取るにはいかにもカタめ。自分とは縁がないと勝手に判断して、無意識のうちに距離を保っていたのでしょう。

 実際に、自宅に戻ってからすぐに読み始めた『ミュージック・マガジン』は、それまでに僕が愛読していた音楽雑誌とはかなり異質なものでした。その時点で、自分では「けっこう音楽を知っている」つもりでいたのですが、その号の特別企画「中村とうようが選ぶ大衆音楽100選」に掲載されているジャケットを一望して、自分の知らない世界が膨大に横たわっていることに気づかされたわけです。

 サリフ・ケイタ(Salif Keita)の『ソロ(Soro)』のように、他の雑誌でも大きく紹介されて国内盤が出ていたものに関しては、充実した品揃えのレンタルCD屋を知っていたのですでに聴いていましたが、国内盤が出ていたとはいえアロウ(Arrow)の存在は初めて知りましたし、何より英米以外の世界各国から出ているタイトルに関しては、自分からは恐ろしく遠く思えたものです。

 とはいえ、このときの僕はまだ十代。若さゆえの愚かさで「知らないもの」は「まあ、それはそれとして」と考え、「ギター・バンドやるんだし、それに関係ない音楽は聴かなくていいや」なんて思っていたんですから、いま書いていても冷や汗が出てきます(笑)。

 最初の出逢いには距離を感じた(…というか、内容を把握できるまでに時間がかかると思った)『ミュージック・マガジン』ですが、大学に入学すると、熱心な音楽ファンの間ではこの雑誌を読むことが当たり前になっている事実を知り驚きました(『ミュージック・マガジン』2008年12月号のPerfumeインタヴュー冒頭における西脇綾香の発言は、当時を懐かしく思い出させてくれます)。

 このことはおそらく、自分のまわりに音楽業界に進む人間が多かったという環境のせいもあったのでしょう…。レコード店の先輩社員が言っていたことは当たっていたわけです。

 おそらく社員のなかでも『ミュージック・マガジン』を読み始めた年齢はいちばん遅いですが、そんな環境もあって、ディープな音楽生活へとどんどんハマっていきました。

 『ミュージック・マガジン』の魅力。それはポピュラー音楽に関しては、ほぼすべてのジャンルを紹介していることだと思います。もちろんページはかぎられていますので、個々のジャンルの音楽ソフトを網羅するという意味においては、専門誌にかないません。僕自身でいえば、比較的よく聴くジャンルに関しては、学生時代から読んでいる他社の音楽誌を今も継続して読み続けています。

 「自分の好きなジャンルだけじゃダメなの?」という声に対して、僕はこんな意見を持っています。ちょっとカタい話になりますが、もう少しだけお付き合いください。

 たとえば、今この文章を読んでくださっている方にも好きな音楽(アーティスト)が存在すると思います。でも、好きになったきっかけは「偶然の出会い」だったりしませんか? 僕自身が好きなバンドやアーティストを初めて知ったときのことを思い出してみても、「たまたまTVで見た」とか「友人がLPを持っていた」とか「お店の試聴コーナーでハマってしまった」…とか、そんな「偶然」の積み重ねだったりします。ところが、「偶然は必然」というポリシーなのか、たまたま知ったバンドやアーティストを自分にとって「特別」なものと信じ込んで、ほかの音楽に関心をしめさない人たちもいます。僕のまわりでは少数派ですが、少数派の人の意見によれば、そちらのほうがむしろ多数派のようです。

 僕にとって音楽雑誌は、そんな「偶然の出会い」をTVや友人やお店の試聴コーナーよりも効率的に体験させてくれるメディアでした。しかも『ミュージック・マガジン』は、日本の音楽評論界における各ジャンルを代表する専門家が原稿を寄せてくれています。つまり、より高い質の「偶然の出会い」に近づけるチャンスがあるわけです。

 一つのジャンルにこだわることについては、僕も何冊かの専門誌を読んでいますし、それはそれで意味のあることだと思います。ただ、全体像を把握しないうちからそれを始めてしまっては、もしかしたら自分が一番好きになるかもしれない音楽を知らずに一生を終えてしまう可能性だってあります。それって、もったいなくありませんか? 

 『ミュージック・マガジン』の「アルバム・レヴュー」ページには、日本盤として発売されているポピュラー音楽のアルバムが、全部ではないにせよ、幅広く掲載されています。未体験のジャンルに挑戦することは勇気が必要だと思いますが、食べものと同じで、最初は旨みがよくわからなくても、何度か試していくうちに旨みを理解できるようになるということは、音楽でもよくあることです。味に深みがあるほうが、ちょっと味わっただけではわからないところも、共通する点です。

 また、『レコード・コレクターズ』もそうですが、『ミュージック・マガジン』の特長としては現役のミュージシャンに原稿を執筆していただく機会が多いことも挙げられると思います。プロを目指している若いミュージシャンにとっては、刺激になる言葉が多く含まれているはずです。

 僕自身もかつてはそうでしたが、自分で音楽を作っていると、他人から影響を受けてしまうことが恐いものです。でも、そもそも音楽(演奏)を始める最初の動機って、他人の音楽に感動して自分でも演りたくなったからですよね。自分の作った音楽を冷静に分析すれば、自分が過去にインプレッションを受けたものの蓄積が形を変えて出ているものだと気づくはずです。そう考えれば、むしろ若いときこそ、様々なエッセンスを吸収したほうが、その結果として出てくる音楽も面白いものになる可能性が高いはずです。

 僕はときどき都内のライヴハウスでデビュー前のバンドを観たりもしますが、「面白い」か「つまらない」かの判断は、バンドの背景にある音楽のレンジが広いか狭いかが大きいです。それが「狭い」と、ある程度の演奏技術があっても、他人の二番煎じにしか聞こえませんし、とても「薄っぺら」に感じます。そういうバンドがトリならば、演奏途中でも会場を後にしてしまいます。

 逆に「どんな音楽を聴いてきたらこんなものが生まれるの?」と思わせてくれるバンドはドキドキします。僕にとって、最初にそう感じさせてくれたのはアイアン・メイデン(Iron Maiden)でした。演奏スタイルが決まっているとされるヘヴィ・メタル(実際にそういう面はあります)のなかで、独自のスタイルを持つこのバンドの背景に何があるのかは、『レコード・コレクターズ』の編集部に所属して、60年代から70年代初期の音楽に接するようになってから少しずつわかってきましたが、それまでは「?」でした。

 いろいろな音楽に接してきたせいか、最近になってようやく「何を聴いてんだ?」という疑問こそ少なくなってきましたが、音楽性に芯がありつつもレンジの広いバンドは、聴いていて本当にゾクゾクしますね。「クラムボン(Clammbon)」や「くるり」「Base Ball Bear」「Sweet Vacation」「school food punishment」といった、これまでメディアサボールで名前を挙げたことのあるグループは、その好例だと思います。

 バックボーンのレンジの広さを理解するための具体例としては、「くるり」の岸田繁が1999年から2006年までの8年にわたって『ミュージック・マガジン』で年間ベスト・アルバムを選出してくれています。ロックはもちろん、ソウル、ヒップホップ、テクノ、ワールド・ミュージック、果てはポピュラー音楽の枠を超えてクラシック音楽までと過去8年間の一覧が『ミュージック・マガジン』の2007年7月号「くるり特集」で一望できますので、ご興味のある方はご覧になってみてください(バックナンバーもまだあります)。

 また、Base Ball Bearのバックボーンについても、以前のエントリー:調性をねじまげながらポップに輝く期待の新星「Base Ball Bear」(http://mediasabor.jp/2008/04/base_ball_bear.html)で触れましたので、まだ目を通されていない方は、こちらもぜひ!

 最後になりますが、ジャンルに捉われず音楽を聴いていると、自分しか知らない情報が見つかるというメリットもあります。僕のフェイヴァリット・グループであるプリファブ・スプラウト(Prefab Sprout)の2001年作『The Gunman And Other Stories』には、やはり僕の好きなテクニカル・プログレ・ハード・バンド、ドリーム・シアター(Dream Theater)のキーボーディストが参加していますが、この事実はメディアではほとんど触れられていません。たぶん評論家の方は気がついても、両者のファン層は異なるだろうという見解のもとにオミットされてしまうのだと思います。


プリファブ・スプラウト『The Gunman And Other Stories』



ドリーム・シアター『Metropolis Pt.2: Scenes From A Memory』
ここでキーボードを弾いているジョーダン・ルーデス(Jordan Rudes)
が上記プリファブ・スプラウトのアルバムに参加している

 前述したアイアン・メイデンでいえば、ハイチ出身のヒップホップ・グループ、フージーズ(Fugees)のワイクリフ・ジョン(Wyclef Jean)が『Wyclef Jean Carnival Vol.II...』で「No More Lies」をサンプリングしています。この点についても残念ながらどなたも指摘されないので、僕はこの事実を知らずにワイクリフのアルバムを聴いていたのですが、これがアルバム序盤にいきなり流れてきたときは大ハシャギでした。ふだんはヒップホップ系をそれほど聴かない僕ですが、クレジットを確認した後で、ヒップホップも侮れないぞ…と肝に銘じた次第でございます。


ワイクリフ・ジョン『Wyclef Jean Carnival Vol.II...』

 「No More Lies」はアイアン・メイデンの『Dance Of Death』に収録されていますので、ヒップホップは好きだけどメイデンは…という方もこの機会にぜひどうぞ。『Wyclef Jean Carnival Vol. II...』のブックレットにあるワイクリフ自身の写真を見るかぎり、『Dance Of Death』のジャケットをかなり意識しているようにも見受けられますがどうでしょう? ヒップホップもジャンル横断系の音楽なので、幅広いバックボーンをもつアイアン・メイデンに対するワイクリフなりのリスペクト表現かもしれません(笑)。


アイアン・メイデン『Dance Of Death』



ワイクリフ・ジョン
この姿、『Dance Of Death』のジャケに混じっても違和感ないかも・・・


 

 


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